Roaming Buffalo 仮想家族会議 vol.1 —— Katsurao AIR 滞在中のワンシーン
アーティストが葛尾村に滞在してリサーチや制作を行うアーティスト・イン・レジデンス・プログラム「Katsurao AIR(カツラオエアー)」。2025年8月18~31日の2週間は「Group & Family Program」と題して、グループプロジェクト Roaming Buffalo が活動中です。映像作家、音楽家、美術家などの異なる背景を持つ5人が、「新しい家族」として共同生活を送りながら、葛尾村を舞台に「故郷とは何か?」を探求しています。
本記事は、8月22日に行われた「家族」や「故郷」をめぐる対話です。(構成:Katsurao Collective スタッフ 阪本 健吾)
山下つぼみ 映像作家の山下つぼみです。本日の進行役を務めます。
まずは、自己紹介と、それぞれの活動や興味関心について伺っていきたいと思います。
私自身は、昔からマジョリティとマイノリティの関係や力の差に興味があります。本人は常識的なことをしているつもりでも、それが暴力になってしまうことがある。そういう現象に強く関心を持っています。

中野徳子 音楽家の中野徳子(なかの・のりこ)です。今関心があるのは、過去の自分と向き合うことです。それを音楽としてアウトプットして、できたものを聴いて、また過去の記憶が掘り返されて。そういう繰り返しが続いています。

北川未来 映像作家の北川未来(きたがわ・みく)です。私は「家」という存在に興味があります。持ち主がいなくなった家や、家を失った人。そういう、人と家との関係が気になっています。
サノタコ 美術家のサノタコです。差別の歴史や戦争の加害の歴史について興味を持っていて、「痛み」や「再生」をキーワードに制作しています。今回の葛尾村の滞在でも、見えない痛みや言葉にならない感情に向き合えたらいいなと思っています。

山下 ありがとうございます。
私たちは、それぞれが「家族」や「故郷」といったものに対して何か思いがあるということで、今回のグループでの滞在に至っています。そのあたりについても話していきたいと思います。
まず私から話をさせていただくと、私は子どもの頃から引っ越しばかりで、出身地と言える場所がなかったんです。「故郷がある」という人を羨ましいと思ったり、福島での原子力災害後に「故郷を奪われた」というお話を耳にすると、私のように故郷といえる場所がない人間はかわいそうな人なのかな、と思ったりもします。そういった前提のうえで、実際に福島に来てみて、自分がどう思うのかを確かめたかった。それが今回、葛尾村に来た理由です。
中野 私は、12年前に父を亡くしたときに、それをきっかけに実家を取り壊したことが自分にとって大きかったように思います。取り壊す過程をみて、そこが更地になったときに、自分の中で、故郷がなくなったなという感触があったんです。そして、その更地には新しい建物が建ったり、新しい人が住んだり、景色が変わっていく。故郷っていうのは、いずれなくなってしまうもの、自分が死んだら消えてしまうものだと、今は捉えています。
山下 それは、今回葛尾村に来たことと、どうリンクしているんでしょうか。
中野 葛尾村に来て、車窓から風景を眺めていると、父のことや実家のことを思い出します。葛尾村を歩いたり、人と話したり、生活する中で思い出すことを、制作と重ね合わせていくことになる気がしています。
山下 なるほど。ありがとうございます。みくさん、いかがでしょうか。
北川 私は石川県出身です。能登半島地震で、馴染みのあった地域の多くの家が壊れ、人が住めなくなってしまったということを目の当たりにしました。3.11では、地震に加えて原発事故もありました。能登の経験を踏まえて、災害のことに関して、自分に考える機会をあげたいなと思って葛尾村に来ています。
サノ 私は10代のとき、父の仕事の事情で家を差し押さえられ、立ち退きを経験しました。今まで抱えてきた物、記憶、人、そういういろいろなものを手放すということを初めて経験しました。自分は何に「故郷」や「居場所」、「帰るべき場所」を求めているのだろう、と考えたときに、「家そのものに帰りたいのではなく、人や時間に帰りたいんだな」と気づいたんです。
今では、人や時間に自分の故郷や居場所を見出しているのかもしれないし、見出すことができるのかもしれないと思うようになり、それを確かめたいという気持ちがありますね。
山下 ありがとうございます。それぞれ似ている要素も、違った要素もありますね。それではみなさんに、もうひとつ踏み込んだ問いかけとして、「家族ってなんですか?」と聞いてみたいと思います。

異なる背景を持つ5人が「家族」となって葛尾村に滞在することをコンセプトに活動中
北川 違うことをしているけど、同じ空間にいて、なんとなくその時間を共有してるような、共有してないような、そんな関係性は家族ならではだと思います。そして、良くも悪くも、逃れられない。あたりまえにそこにあって、逃れられない存在が家族だと思います。
中野 家族は愛ですね。それしかないです。
サノ 父の仕事の都合で家をなくしたとき、父のことを激しく恨んだりとか、憎んだりはしませんでした。むしろ、家族のやったことだから仕方がないし、ここから一緒に高め合いたいなぐらいに思えたんです。そのとき、家族ってこういうものなのかなって思いました。
家族の数だけ家族像があって、「これがあるべき姿」というのはないんだろうなと、つくづく思いますね。
山下 私の母は、病気がきっかけでそれまでとは別人のよう になってしまい、そのときに家族の形が大きく変わりました。タコさんが言ってた、家族で過ごした時間の意味合いが変わってしまった。大切だと思っていた時間が、何かのきっかけでそうではなくなってしまうということを経験したんです。
だから、悪い意味ではないけれど、家族って信用できないなって思います。家族の一員としてやるべきことは最低限やるけれど、お母さんらしさとか、妻らしさみたいなことからは自由になっていいんじゃないかなって思っています。
では最後に、ここにいるみんなで家族になるってどういうことなのか、考えてみましょうか。
中野 人って、いずれひとりになるでしょう。死ぬときはひとりだし。一瞬でも、共に時間を過ごすということは、奇跡みたいなものですよね。
今回の滞在だって、期間が終わればみんな帰っていくけれど、このひとときだけでも集まって、なにかを一緒に共にして、感じ合って、喋って、運営して……というのは、ある意味、家族だなって私は思います。
サノ そう思います。血がつながっていなくても、人間じゃなくても、違う形をしていても、同じところに腰を下ろして、横たわって、同じ時間を過ごす。そこに他者は介入することができないし、あるべき姿を示されるようなものでもない。それが家族なのではないかと思います。
北川 ほんとにそうだなって思う。共感します。
中野 戸籍という制度は、家族にある種の縛りを生んでいて、それがあるから自由になれない、嫌な家族とも一緒にいなければいけないという側面もありますよね。
私が思う理想の家族は、個々が自由に取り組んで、丁寧に毎日を過ごして、帰ってきてああだこうだって話して、つらいときは味方になって、励まし合って。そして、いずれさよならをして、ひとりになる。うん。家族って、味方であってほしいですよね。
山下 たしかに、それは理想的ですね。賛くんにも聞いてみましょうか。ねえねえ賛くん、家族ってなに?

丹治賛 好き。
山下 おぉ、早いね。家族は「好き」か。わかった。じゃあもうひとつ質問!ここにいる人たちは家族?
賛 友達。
山下 友達か~。家族と友達の違いって、さっきの制度による縛りの話につながりますね。
中野 友達は自分で選べるけど、家族はそうじゃない面があります。
サノ 自由な捉え方ができればいいですよね。親だって必ずしもふたりでなくてもよくて、ひとりでも、3人や4人でもいい。葛尾村では、集落全体が大きな家族のようなものだという考え方も伺いました。
山下 味方どうしでいやすい範囲で考える。そういう柔軟な捉え方でいいかもしれませんね。役割に関しても、父と母と子、といった形で固定化しなくてもよくて、一緒にいる時間こそが家族を家族たらしめるような。
サノ 人でも物でも動物でも土でも、何でも家族になりうる。それが大きさを変えた故郷なのかもしれないと思います。故郷って、家族の延長線上にあるのかも、とか。
山下 うん、そうですね。ところで、私たち Roaming Buffalo ってグループ名を付けて、葛尾村に来て、活動して、葛尾村を出ていきますよね。出ていくと、Roaming Buffalo はなくなるわけです。そうすると、Roaming Buffalo の故郷って葛尾村ですね。
一同 ほんとだ!
北川 今後、私たちが東京で集まったら葛尾村のことを思い出すでしょうし、私がひとりで葛尾村に来たら、みなさんのことを思い出すでしょうね。
中野 思い出して、泣いちゃうかも。
一同 泣いちゃうの~!!

〈Katsurao AIR 2025 Group & Family Program 活動報告会② Roaming Buffaloのおうち〉
日時:2025年8月30日(土)13:00-17:00(PMのみの開催となります)
会場:葛尾村復興交流館あぜりあ 蔵
入場料:無料
概要:映像作家、音楽家、美術家などの異なる背景を持つ5人が、葛尾村で共同生活を送り「新しい家族」として故郷を築くことを試みた2週間の経験を共有します。
展示される現像用フィルムやコントラバスに実際に触れることで、制作の過程を身体的に感じ取っていただけます。
14:00-14:40(予定)
Roaming Buffalo 仮想家族会議 vol.2 @葛尾村復興交流館あぜりあ 正面入口左手 小中学生作品スペース
この対話の模様は、各種リスニングサービスにて音声でもお楽しみいただけます。
