Katsurao AIR アーティストインタビュー vol.14 犬丸暁さん
アーティストが葛尾村に滞在してリサーチや制作を行うアーティスト・イン・レジデンス・プログラム「Katsurao AIR(カツラオエアー)」。2025年10月からの最大40日間、3名のアーティストが葛尾村で暮らし、それぞれの視点から制作に取り組んでいます。10月31日(金)から11月3日(月・祝)の4日間は、葛尾村内にて、制作過程を公開するオープンスタジオ形式での活動報告会を実施いたします。
本稿では、滞在中のアーティスト 犬丸暁さんのインタビューをお届けします。(聞き手:Katsurao Collective 阪本健吾)
INUMARU Akira
犬丸 暁
1984年生まれ、茨城県出身。武蔵野美術大学 油絵学科卒業後、2008年渡仏。フランス、ルーアン市の美術大学院を卒業後、現在ルーアンとパリを拠点に活動中。 “植物の中に蓄積された光”にフォーカスを当て、作品の一部を太陽光で燃焼するドローイングや光に反応する顔料を使った絵画作品などを通して『手で触れられる光、精神を照らす光』を模索している。
主な個展
2024 「Chambres ardentes(灼熱の部屋)」サン・マクルー教会 (ルーアン/仏)
2023 「Mon Cher Jardin(私の親愛なる庭園へ)」ヴィランドリー城 (ヴィランドリー/仏)
2022 「Cimes et Racines(根と梢)」サン・トゥーアン聖堂 (ルーアン/仏)
2018 「Botanique (ボタニカル)」リュクサンブール公園内温室 (パリ/仏)
2018 「Langage des fleurs (花言葉)」MOCAK近代美術館 (クラクフ/波)
2015 「Kata−D’une lumière à l’autre (光から光へ)」イヴ・クライン資料館 (パリ/仏)
主なグループ展
2021 「Star Makers」Foro Boario 現代美術センター (オリスターノ/伊)
2013 「龍野アートプロジェクト2013」(龍野)

——フランスを拠点に活動されている犬丸さんですが、渡仏からどのくらいの年月が経つのでしょうか。
2008年の秋からなので、もう18年目になりますね。
——なぜフランスに行くことになったのか、そしてどのような作家活動をされているのかに関しては、ウェブメディア「SUMAU」のインタビュー記事を拝読させていただきました。今回は、近年の犬丸さんの日本での活動を中心に伺いたいと思います。
2025年は、たつのアート(兵庫県)への参加、日本では初となった個展「光たちの庭」(東京都)の開催、そして今回の Katsurao AIR への参加と、日本での活動を精力的に展開されていますね。何かきっかけがあったのでしょうか。
自分自身が40代になったことは、ひとつの節目でした。幸いなことに両親とも健在なのですが、意識的に帰国しないと家族に会える機会がどんどん減ってしまうという思いもあって、このタイミングで生まれ育った日本での活動の場を増やしていきたいと考えるようになりました。
17年間もフランスにいると、日本のアートシーンの中でネットワークを構築することはなかなかできません。しかしながら、まだ美大生だった頃に呼んでいただいた たつのアートのみなさんや、パリで出会った美術家・写真家の澄毅(すみ たけし)さんにご縁をつないでいただき、こうして日本で活動ができることに感謝しています。
——そんな中で、Katsurao AIR に参加してくださった理由を教えてください。
旧知の仲だった Katsurao Collective のスタッフ大山さんに教えていただきました。葛尾村が原子力災害で全村避難を経験した地域であるということを知って、興味が湧きました。
私自身、2011年当時はフランスにいたということもあり、自分の中で災害のことは遠い存在になっていたところがありました。ニュースなどのメディアを通して情報を受け取るだけではなく、自分でその地に赴いて、人と話したり、いろんなものに触れたり、食べたり……そういった行為から自分の国の問題を見つめられたらと思って、応募させていただきました。
——普段とは異なる制作環境だと思いますが、土地と制作の関係という点ではいかがですか。
今回は、あまり事前に活動内容を決めずに滞在をはじめました。ひとつだけ決めていたのは、郷土食「凍み餅」の原料となるオヤマボクチ、地元では「ごんぼっぱ」といわれている植物を使ってみたいということだけです。
——かねてから「植物の中に蓄積された光」を主題のひとつとして制作を続けてきた、犬丸さんならではの視点ですね。
Katsurao AIR は、活動報告として何らかのプレゼンテーションは必須ですが、必ずしも作品を完成させる必要はないというスタイルのレジデンスプログラムですよね。その点が私にとってはとても重要でした。
作品をつくることが前提となっているプログラムであれば、限られた期間内である程度の形にするために、どうしても普段から自分がやり慣れている方法をとってしまうと思うんです。しかしながら Katsurao AIR では、その方法を一度手放して、思い切ってチャレンジをすることができます。例えば具体的には、普段の制作で使用しているステンシル* を、今回は使わないということにトライしています。

おかげさまで、今年(2025年)の12月にフランスで開催するグループ展には、葛尾村での制作をきっかけに生まれた作品を展示することになりそうです。展示のタイトルも、日本語のものを仲間に提案しています。『Uchinaru tabi(内なる旅)』というタイトルです。
*ステンシル:文字や絵柄を切り抜いた型紙の上からインクや絵の具を乗せて、形を転写する技法。犬丸さんは普段の制作で、透明なプラスチックのステンシルシート(型紙)を使用しています。
——葛尾での経験がそのように繋がっていくことは嬉しいですね。すばらしいです!
滞在中、地域のみなさんとの交流する中で感じていることはありますか。
当初は、葛尾村という原発事故と切っても切り離せない場所のことを、どのように外に発信するかということを考えていました。
でも、こちらに来て、地域のみなさんと触れ合うなかで、まずは、ここにいる地域のみなさんが何を見たいのか、ということを第一に考えるようになりましたね。
——地域の外に見せるということも大事ですが、まずは地域のみなさんのほうを向いて活動をするということですね。
はい。葛尾村のような場所で、このような文化的な取り組みを行う際には、地域のみなさんに受け入れていただけること、興味を持っていただけることが肝心だと思います。その感想は、「よくわからないな」でもいいし、「綺麗だな」「なんか面白いかも」でも、なんでもいいんです。
もし仮に、原発事故がどうこう、というようなメッセージを私が発信したとしても、ここに住み暮らしている人たちにとって、それがどの程度意味のあることなのかはわからないですからね。
葛尾村には、過去のさまざまな経験と向き合いながら、たくましく、楽しく日々を生きていらっしゃる方々がいます。そんなみなさんに対して、私は何を共有することができるんだろう——ということを考えて制作に取り組んでいます。
——ひとつひとつの人間関係の積み重ねが豊かなコミュニケーションを生むはずですし、それは結果的に、地域の外からこの活動を見てくださっている方々にも伝わっていくと思います。活動の期間は残りわずかですが、引き続きよろしくお願いします!

アーティストインレジデンスプログラム「Katsurao AIR」
本インタビューの完全版を、各種リスニングサービス および note音声投稿にて配信中です。
