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「宝物のような時間でした」—— 渡辺望 アーティストインタビュー 公開収録レポート

アーティストが葛尾村に滞在してリサーチや制作を行うアーティスト・イン・レジデンス・プログラム「Katsurao AIR(カツラオエアー)」。2025年度に初の試みとして実施した「Group & Family Program」に家族で滞在したアーティスト 渡辺望さんへのインタビューの模様をお送りいたします。(聞き手:Katsurao Collective スタッフ 阪本 健吾)

阪本 まずは、自己紹介をお願いします。

渡辺 こんにちは。渡辺望(わたなべ・のぞみ)です。インスタレーション、映像、写真、書籍、アートプロジェクトなど、多様な領域を横断した表現を行っています。作品は、周囲の環境や他者との関係性から壮大な宇宙空間を想起させる構成が特徴です。

渡辺望《神山の宙》 2017 (神山アーティスト・イン・レジデンス成果発表展) 劇場寄井座(徳島, 日本) 主催: 神山アーティスト・イン・レジデンス実行委員会 協賛:特定非営利活動法人グリーンバレー 助成:神山町、文化立県とくしま推進会議 他 Photo by Keizo Konishi

2017年より、地上に星空を描くアートプロジェクト《Nomadic Stars Project》を展開しています。また、2019年からは、トークイベントシリーズ《A.N.Y Talks》を主宰し、創造的な対話と共創の場を育んでいます。


今年の5月から6月にかけては、アメリカのポートランドでソーシャル・プラクティス*の調査研究を行い、現在はその成果をもとに書籍化を進めています。

*ソーシャル・プラクティス:アーティストが人々との協働や関係性を重視しながら実践するアートの方法論。物理的な作品の完成よりも、「人との関係構築」や「共有された時間や場」、「対話のプロセス」など、非物質的な価値に重点を置く点が特徴。また、教育、都市空間、福祉、地域活動など、アート以外の領域とも積極的に交差する実践として注目されている。

美術教育や美術館でのワークショップの企画・実施にも長年携わり、近年では日本語の展覧会タイトルのクリエイティブ・トランスレーションを行ったりとアーティストの視点を活かした言語表現・教育・実践の橋渡しを行っています。

阪本 幅広く活動をされている中で、このたび、8月上旬の2週間にわたって葛尾村に滞在いただきました。なぜ Katsurao AIR への参加を決められたのでしょうか。

渡辺 「Katsurao AIR」は、友人のアーティストたちが過去に参加していたこともあり、以前から知っていました。けれど私にとって「福島」という土地は、どこか“触れたくても、触れられない”—— 心の奥底に引っかかり続ける存在でした。

東日本大震災当時、私は国外におり、直接の被災経験はありませんでした。だからこそ、あの出来事を「実感を伴って語れない」自分がいて、ただ漠然とした感情だけが、胸の奥に残ったままでした。

震災後、多くのアーティストたちが被災地を訪れ、関わりを持ち、作品を通して何かを伝えようとする中、なかなか行動に移せない自分がいました。そのことも含めて、福島への想いはずっと心に残っていました。

そして時が経ち、出産と子育てを経験する中で、女性アーティストがキャリアを続けていくことの難しさを、日々痛感するようになりました。同時に、「後に続く世代のために、子育て中のアーティストがより自由に創造できる未来をつくりたい」という強い思いが芽生えてきました。

そんな中で目にしたのが、日本ではまだ珍しい、家族での滞在を前提としたアーティスト・イン・レジデンス「Katsurao AIR」の公募でした。

今だったら、福島の地に赴くことができるかもしれない。そしてこのプログラムへの参加が、子育て中のアーティストが創造の喜びを手放さずに生きられる社会を築くための一歩になるのではないか。

そう考え、2人の子どもとともに、葛尾村での滞在に挑戦することを決めました。

渡辺望さんファミリー。8月16日(収録当日)、葛尾村立葛尾中学校 休校中校舎3階 音楽室にて

阪本 お子様も一緒に来ていただくご家族での滞在だったということが、活動の内容にも直結していたと思います。滞在中の活動について教えてください。

渡辺 今回の滞在のテーマは、「子どもの視点」「地域とのつながり」「創造のあり方」でした。親子の創造的な関わりが地域社会に与える可能性や、創造と暮らしのつながりを見つめながら、日々の生活と制作の実践を通して、その在り方を丁寧に探っていきたいと考えていました。

滞在中は、休校中の葛尾中学校の美術室を制作の拠点とし、子どもたちと共に日々制作を行いました。同時に、葛尾の自然や人に触れ、この土地の空気や暮らしを体感しながら活動を進めていきました。

美術室での制作のようす
高瀬川にて

生活と制作の両立はやはり簡単ではなく、予測できないことの連続でしたが、滞在をサポートしてくれた夫や友人、親戚家族、そしてKatsurao Collectiveの皆さんのおかげで、最後まで無事に活動をやり遂げることができました。葛尾村での滞在は、私たちにとって本当にかけがえのない経験になりました。自然の豊かさ、地域の方々のあたたかさ、広々とした空間で自由に創作できる喜び。そして何より、子どもたちが日々、何かを発見し、手を動かし、想像しながら生み出していく瞬間に立ち会えたこと。

この2週間は、まさに「暮らしそのものが創造だった」と感じられるような、宝物のような時間でした。

滞在をサポートしてくださったみなさまと

阪本 8月16日(土)(収録当日)に開催している活動報告会では、葛尾村立葛尾中学校 休校中校舎の美術室・音楽室を会場としています。展示内容について教えてください。

渡辺 美術室とその前の廊下では、今回のテーマでもある「子どもの視点」「地域とのつながり」「創造のあり方」この3つの視点をベースに、「親子の共同創作」をテーマとしたインスタレーションを展開しました。“親子で一緒にひとつの作品をつくる”というよりは、それぞれの創造性が緩やかにつながり合い、境界が曖昧になるような空間構成を意識しています。

美術室内のようす

音楽室では、滞在中の活動記録をスライド形式で公開しています。制作の背景や日々のプロセスを通じて、この2週間の全体像を地域の皆さんにも感じ取っていただけるようにしました。

音楽室内のようす

阪本 あっという間の2週間でしたね。今後の展開についてお考えはありますか?

渡辺 本当にあっという間で、でもとても濃密な2週間でした。名残惜しい気持ちもありますが、今回の滞在は「これで終わり」ではなく、これからにつながっていくプロジェクトの第一弾だと考えています。

具体的には、葛尾村に暮らす方々、そして葛尾に心を寄せている方々のポートレイトを撮影し、その人の想いとともに記録していくような作品を構想しています。今回の滞在でも、少しずつではありますが、その撮影に着手し始めました。

葛尾の「価値」というのは、もちろん自然や場所そのものもありますが、やっぱり最後に残るのは「人」や「人の想い」なんじゃないかと感じています。だからこそ、今この瞬間の人と人とのつながりや、その空気感を、未来に向けて丁寧に記録していきたいと思っています。

また、今回の滞在中は「カツラヴ(KATSURAV)」という文字が入ったTシャツを着て、活動していました。「KATSURAO(葛尾)」と「VALUE(価値)」を組み合わせたこの造語が、人々の記憶に残り、またいつか訪れたときに思い出してもらえるような、そんな関係の入口になればと考えていました。

この2週間は、そうしたこれからの展開に向けた“はじまり”として、私にとってとても大切な時間だったと感じています。

阪本 ありがとうございます。私たち事務局にとっても新たなチャレンジとなったファミリーレジデンスですが、最初に渡辺さんファミリーにお越しいただいてよかったです。では、ここから質疑応答に入りたいと思います。

質問者1 「カツラヴ」の「ヴ」は「LOVE」だと思っていたんですが、「VALUE」なんですね。Tシャツを販売する予定はありますか?

渡辺 そうなんです。一見すると「KATSURAO(葛尾)」+「LOVE」だと思われると思いますが、「KATSURAO(葛尾)」+「VALUE(価値)」で「KATSURAV(カツラヴ)」なんです。

Tシャツについては、今のところは Katsurao Collective 事務局を通して受注ベースで対応しています。将来的には、売上を村に還元するかたちでの販売も検討していて、地域とプロジェクトがゆるやかにつながって循環していくような仕組みができたらいいなと考えています。

質問者2 芸術家として葛尾村で活動してみて、地域として改善するべきだと思う点はありましたか。

渡辺 家族連れで滞在できるレジデンスプログラムは、国内ではまだ珍しく、そういう意味で、葛尾村でこうした取り組みが行われていること自体、とても意義深いことだと感じています。

ただ、実際に滞在してみると、やはりいくつかの課題も見えてきました。今回は、未就学児2人と一緒の滞在ということもあり、自分の制作時間をどう確保するかが大きなテーマでした。結果的に、子どもたちが起きる前の朝4時から6時を“自分の時間”として、スタジオに行ったり、PC作業をしたりしていました。日中は子どもたちと過ごしながら、2人が同時にお昼寝してくれたタイミングを見計らったり、ほんのわずかな隙を縫うようにして、制作を進める日々でした。

こうした状況はある程度想定していたことでもあったので、滞在前に、子どもたちを一時的に預けられる場所や、何らかのサポートの仕組みがないか相談させていただきましたが、残念ながら今回は実現には至りませんでした。

たとえば今後、行政や地域と連携しながら、託児を含むようなサポート体制がこのレジデンスプログラムに組み込まれていけば、葛尾村は「子育てをしながら表現活動ができる場所」として、日本国内だけでなく、海外のアーティストにも注目されるような存在になっていくと思います。

阪本 葛尾村には保育園がなく、幼稚園に入るまでは村外に預けに行く方も多いようです。アーティストやクリエイターだけではなく、地域で子育てをするすべての方にとって重要な視点だと思います。貴重なご意見をいただき、ありがとうございます。

渡辺 こちらこそ、本当に素晴らしいプログラムだと感じていますし、関わってくださっている運営スタッフの皆さんに心から感謝しています。
この貴重な機会が、今後も失われることなく続いていくことを願っていますし、私にできることがあれば、ぜひ何かしらのかたちで関わっていきたいと思っています。この活動がより多くの方につながっていくよう、心から応援しています。

この公開収録の模様は、YouTubeおよび各種リスニングサービスでもお楽しみいただけます。


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