不動産会社の集客改善㉖|新しい反響を増やす前に、既存リードの取りこぼしを減らす――追客を担当者任せにしない仕組みづくり
「ポータルの反響が落ちてきたので、広告を増やした方がいいでしょうか」
不動産会社の方と集客の話をしていると、よく出てくる相談です。
もちろん、新しい反響を増やすことは大切です。自社サイト、SEO、Google広告、SNS、YouTube、ポータルサイト。入口を増やす施策はいくつもあります。
ただ、その前に確認したいことがあります。
これまでに入った問い合わせを、御社はどこまで追えていますか。
初回返信をしたあと、返事がなかったお客様。査定を依頼したものの、すぐには売らなかった所有者。内見後に検討を止めた買主。希望条件に合う物件がなく、いったん探すのをやめた人。相続がまとまらず、半年後に再検討すると話していた人。
こうした人のすべてが「失注」とは限りません。中には、まだ検討時期が来ていない人もいます。
ところが現場では、その後の連絡が担当者の記憶や個人のメール、LINE、Excelに残り、会社として追えなくなっていることがあります。新しい反響を取るために毎月広告費を払いながら、すでに接点を持った見込み客を静かに失っている。これは、とてももったいない状態です。
今回お伝えしたいのは、特定のシステムの紹介ではありません。
集客から成約までを一続きで考え、既存リードの取りこぼしを減らす設計についてです。
不動産会社のDXは「契約の電子化」だけではない
不動産DXというと、電子契約、IT重説、物件情報の自動入力、生成AIによる文章作成などを思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし、国土交通省が2026年に公表した不動産政策に関する資料では、媒介業務の多くでDXサービスの提供が進み、対象領域として物件調査だけでなく「問い合わせ対応・追客」や顧客からの申込データ管理なども整理されています。
つまり、反響後の顧客管理や追客は、不動産DXの対象領域の一つとして明確に位置づけられています。
一方で、仕組みを導入すれば自動的に売上が増えるわけではありません。
IPAの「DX動向2026調査のポイント」では、日本企業のDXやAI導入は広がっているものの、成果は業務効率化や迅速化に偏り、新しい価値やビジネス変革につながる成果は低い状況が続いているとされています。
2026年版中小企業白書でも、デジタル化の効果を高めるには、従業員がITツールを使えるようにする研修や勉強会、部門間の連携が有効だと示されています。
この2つを不動産営業に置き換えると、重要なことが見えてきます。
顧客管理システムの導入だけで成果を出すのは難しいということです。広告担当、受付、営業担当、店長、経営者の間で、反響をどう引き継ぎ、どの状態を「追客中」と呼び、いつ誰が連絡するかを決めることが、売上につなげるための前提になります。
私自身、不動産会社でCRM・MAを使っていました
私は2023年頃、不動産会社に在籍していたとき、不動産会社向けのCRM・MAを実際の業務で利用していました。
顧客情報を登録し、反響後の状況を管理し、顧客に情報を届ける。仕組みとしての可能性は、当時から感じていました。その後、約2年前には、その分野のサービス提供会社と販売・紹介面で提携した経験もあります。ただ、当時は紹介できる顧客基盤がなく、継続的な取り組みにはなりませんでした。
最近、改めて不動産特化型の顧客管理・追客サービスを調べています。以前よりも、単なる顧客名簿ではなくなっています。自動追客、顧客専用ページ、閲覧行動の把握、条件に合う情報の配信、営業担当への通知など、できることはかなり進化しています。
一方、私が現場や公開情報を見る限り、導入後の定着や活用状況には会社ごとの差があるように見えます。
ここに、ツールの機能だけでは解決できない問題があります。
反響は、どこで消えているのか
不動産会社の反響後の流れを分解すると、取りこぼしが起きやすい場所はおおむね次の5つです。
1.初動対応が遅れる
反響通知は届いている。しかし担当者が接客中、移動中、休日などの理由で返信が遅れる。誰かが代わりに対応するルールもない。お客様はその間に、同じ物件を掲載している別の会社へ問い合わせます。
ここで必要なのは、営業担当者を責めることではありません。「何分以内に、誰が、何を返すか」という会社のルールです。
2.一度返信して終わる
初回メールを送り、返事がなければ終了。電話がつながらなければ終了。この状態では、問い合わせへの初期対応で止まり、継続的な追客まで進めにくくなります。
返事がない理由は、他社で決まったからとは限りません。仕事中だった、家族と相談していた、問い合わせた物件以外の提案を待っていた、営業されそうで身構えた。理由はいくつもあります。
3.次回連絡日が決まっていない
「少し考えます」「半年後に売却を検討します」と言われたとき、次に連絡する日が登録されていなければ、その案件は担当者の記憶に依存しやすくなります。
追客で最も大切なのは、たくさん連絡することではありません。次に連絡する理由と日付を残すことです。
4.顧客情報が分散している
ポータルの管理画面、個人メール、会社メール、LINE、スマートフォン、Excel、紙の追客表。それぞれに情報が残り、会社全体では顧客の状況が見えない。
担当者が退職・異動したときに、初めて「このお客様と何を話していたのか分からない」と気づく会社もあります。
5.広告と成約がつながっていない
媒体別の問い合わせ件数や反響単価は見ていても、その反響が来店、査定、媒介、契約まで進んだかを追えていない。すると、問い合わせが多い媒体が良い媒体に見えます。
問い合わせ単価に加えて確認したいのは、来店単価、商談単価、媒介獲得単価、契約獲得単価、そして粗利です。
集客から成約までを一本の線にする
カワイ企画で考える基本の流れは、次の通りです。
集客
→ 問い合わせ
→ 顧客情報の登録
→ 初動対応
→ 会員化・継続接点の確保
→ 顧客の行動把握
→ 自動追客
→ 温度が上がった顧客を営業へ通知
→ 人的な提案
→ 商談・成約
この流れの重要な点は、自動化だけで完結させないことです。
自動化が向いているのは、受付、記録、定期的な情報提供、連絡漏れの防止、行動変化の検知です。
人が担う価値が大きいのは、売却理由の理解、家族間の事情、価格への不安、住宅ローン、相続、住み替え時期、物件選びの優先順位など、判断に感情と個別事情が関わる部分です。
機械が人を置き換えるのではありません。
機械が「忘れない仕組み」を担い、人が「決められない理由」に向き合う。
この役割分担が、不動産営業では現実的だと考えています。
なぜ、導入しても使われなくなるのか
顧客管理や追客の仕組みが定着しない背景には、機能面だけでなく、運用設計の不足があることも少なくありません。
入力項目が多すぎる
最初から完璧な顧客台帳を作ろうとして、必須入力を増やしすぎる。現場は接客後に何十項目も入力できません。その結果、後回しになり、空欄が増え、「データが信用できない」となります。
最初は、氏名、連絡先、流入元、問い合わせ内容、担当者、現在の状態、次回連絡日など、判断に必要な最小項目で十分です。
営業担当者にメリットが伝わっていない
会社は「管理したい」、営業は「仕事を増やされたくない」。この状態で導入すると、CRMは監視ツールに見えます。
「店長が数字を見たいから入力してください」では定着しません。「過去のやり取りを探す時間が減る」「連絡すべき顧客が毎朝分かる」「引き継ぎが楽になる」という、営業本人のメリットまで説明する必要があります。
顧客の状態を定義していない
「新規」「追客中」「見込み」「保留」「失注」といった言葉の意味が、担当者ごとに違うことがあります。
例えば「追客中」を、単に一度返信した顧客とするのか、次回連絡日が決まっている顧客とするのか。この定義が違えば、集計しても経営判断には使えません。
既存システムとの関係を決めていない
すでにポータル管理画面、物件管理、契約管理、会計、LINE、メールなど複数の仕組みがあります。新しいCRMを入れた結果、二重入力が増えれば現場は離れます。
「何を新システムに集約し、何を既存のまま残すか」「どの情報を連携し、どの情報は連携しないか」を先に決める必要があります。全面移行だけが正解ではありません。一定期間の併用や、特定店舗・特定業務だけで試す方法もあります。
自動配信の本数だけが増える
自動化すると、送ること自体が目的になりやすい。条件に合わない物件情報や、同じ内容のメールを何度も送れば、顧客との距離は近づくどころか離れます。
配信数ではなく、開封後の行動、返信、再相談、来店、配信停止、苦情まで見る必要があります。
売買仲介・買取・賃貸では、設計が違う
同じ不動産会社でも、事業によって追客の時間軸が違います。
売買仲介
購入検討者は、希望条件が変わることがあります。予算、沿線、学区、戸建てかマンションか。最初の条件だけで物件を送り続けるのではなく、行動や会話をもとに条件を更新できる仕組みが必要です。
売却相談では、査定後すぐに媒介契約にならない顧客が重要です。相続、住み替え、ローン残債、家族の同意など、動けない理由を記録し、適切な時期に人が連絡する設計が向いています。
買取
買取はスピードが重要ですが、すぐに売らない所有者もいます。「いま売ればいくらか」を知りたいだけの人を失注扱いにせず、価格変化、周辺成約、税制や相続の情報など、再検討する理由を届けることが有効です。
一方、緊急性が高い相談は、自動配信だけで対応するのには向きません。期限、資金事情、共有者の有無などを見て、優先順位を付けて人が対応することが重要です。
賃貸仲介
賃貸は検討期間が短く、物件の動きも速いため、初動と短期追客の比重が高くなります。長期間のメール配信より、希望条件の確認、空室状況の更新、内見候補日の提示など、次の行動を早く示す方が重要です。
ただし、契約後のお客様との関係も大切です。更新、住み替え、購入、紹介へつながる可能性があります。成約したら管理を終えるのではなく、将来の接点をどう残すかまで考える必要があります。
中小不動産会社でROIが合う条件
導入判断では「高いか安いか」ではなく、どの損失を減らせるかを見ます。
基本式はシンプルです。
追加で得られた粗利+削減できた作業時間の価値-導入・運用費用
例えば、システム利用料、初期設定の月割り、データ移行、運用支援、社内の運用工数を合わせて月15万円かかるとします。追客の改善によって、広告費や外注費などの追加費用を差し引いて会社に残る利益が60万円の契約を3か月に1件追加できれば、月平均の効果は20万円です。これだけなら差額は月5万円です。さらに、顧客情報を探す時間や追客表の集計時間が減れば、その分も効果に加わります。
これはあくまで計算方法を示す試算例であり、実際の仲介手数料、広告費、人件費、成約率によって結果は変わります。
重要なのは、導入前に損益分岐点を決めることです。「便利そうだから入れる」のではなく、「再商談を月何件増やせば回収できるか」「初動時間を何分短縮すれば意味があるか」を決めてから試します。
ROIが合いやすいのは、次のような会社です。
毎月一定数の反響がある
過去顧客が数百件以上蓄積している
査定後・内見後の保留案件が多い
担当者ごとに顧客情報を持っている
媒体別の契約・粗利まで追えていない
店長が週1回、数字を確認できる
反対に、そもそもの問い合わせがほとんどない会社は、追客の仕組みだけを先に大きくしても成果は限定的です。その場合は、まず入口となる集客や問い合わせ導線の改善が必要です。
30日で試すなら、この順番です
大規模導入の前に、30日間の小さな実証をお勧めします。
1〜7日目:現在地を見える化する
直近3〜6か月の反響を100件程度抽出します。
流入元、初回返信までの時間、現在の状態、最終接触日、次回連絡日、来店・査定・媒介・契約の有無を確認します。空欄が多くても構いません。空欄そのものが、現在の課題です。
8〜14日目:状態とルールを決める
顧客の状態を5〜7段階に絞ります。
例として、新規、初動済み、商談中、長期検討、再連絡予定、成約、対象外などです。そして各状態について、「誰が」「何日以内に」「何をするか」を決めます。
15〜21日目:一部の顧客で試す
全社導入はせず、1店舗、営業2人、顧客100件など、小さな範囲で始めます。
自動配信も1本からで十分です。例えば、査定後すぐに売らなかった顧客に対して、3か月後に状況確認の案内を送り、反応があった顧客だけ営業へ通知する流れを試します。
22〜30日目:数字と現場の声で直す
入力率、初動時間、再接触数、返信数、商談数を確認します。同時に、営業担当者へ「面倒だった点」「役立った点」「入力しなくなった理由」を聞きます。
数字だけでなく、現場の使いにくさを直してから対象を広げます。
最初に見るKPIは10個も要らない
開始時は、次の6項目で十分です。
問い合わせの顧客登録率
初回返信までの平均時間
次回連絡日が入っている顧客の割合
30日以上接触していない見込み客数
既存リードからの再商談数
既存リードからの成約・粗利
加えて自動配信を行う場合は、配信停止率と苦情の有無も必ず見ます。
開封率だけで成果を判断するのは避けたいところです。メールを開いた後の返信、再相談、商談、成約まで確認して、経営成果として評価します。反対に、開封率が低くても、少数の高確度顧客から相談が戻り、成約につながれば意味があります。
個人情報と配信ルールを後回しにしない
顧客管理と追客では、個人情報の扱いが前提です。
個人情報保護委員会のQ&Aでは、メールアドレスも、単独または他の情報と容易に照合して個人を識別できる場合、個人情報に該当するとされています。また、ホームページの入力画面などで本人から直接個人情報を取得する場合、原則として利用目的を明示する必要があります。
広告宣伝メールについては個人情報保護法だけでなく、特定電子メール法など他の法令も確認する必要があります。受信拒否の通知を受けた場合は、法令に沿って送信停止へ確実に反映する必要があります。
導入時には、少なくとも次を確認します。
問い合わせフォームの利用目的
配信同意の取得方法
配信停止の方法
閲覧・編集できる従業員の範囲
退職者のアカウント停止
データの保存・削除ルール
外部サービスとの連携範囲
便利さより先に、誰が何の目的で顧客情報を使うのかを明確にすることが大切です。
まず確認したい5項目
新しい反響を増やす前に、社内で次の5つを確認してみてください。
直近1年の問い合わせ総数を把握しているか
担当者別ではなく会社全体で顧客履歴を見られるか
追客対象の見込み客に、次回連絡日または次の対応方針が入っているか
広告媒体から契約・粗利までつながっているか
担当者が休職・退職しても追客を引き継げるか
目安として3つ以上「できていない」があれば、広告費を増やす前に、反響後の設計を見直す余地があります。
新規集客と追客は、どちらか一方ではない
この記事は、「新しい広告をやめましょう」という話ではありません。
新規集客がなければ、将来の顧客は増えません。しかし、入ってきた反響を記録し、適切な時期に連絡し、商談と成約まで追えなければ、広告の本当の価値も分かりません。
集客と営業を別々に考えないことです。
広告、SEO、SNSで問い合わせを増やす。問い合わせを顧客情報として残す。自動化で連絡漏れを防ぐ。温度が上がった顧客に人が向き合う。成約と粗利を流入元へ戻す。その数字をもとに、次の広告投資を決める。
ここまでつながって、初めて集客は経営の仕組みになります。
私は、不動産会社で実際にCRM・MAを利用した経験と、不動産広告・マーケティングの実務経験の両方から、ツール選びだけではなく、反響後の業務フロー、追客ルール、KPI、広告との接続まで一緒に整理したいと考えています。
「過去の反響がどれだけ残っているか分からない」
「システムを入れても営業が使うか不安」
「いま使っているExcelやLINEを、どこまで変えるべきか迷っている」
そのような不動産会社の方は、現在の運用を聞かせてください。実際に利用していた仕組みや、現在調査しているサービスについても、御社の事業と費用対効果に合うかという視点でお話しします。
最初から商品導入を前提にはしません。
まず、どこで反響が止まっているかを一緒に確認します。
カワイ企画マーケティングラボでは、首都圏の地場不動産会社を対象に、30分の無料相談を行っています。公式サイトのお問い合わせフォーム、またはX(@kawaikikaku)からご連絡ください。
出典・参考資料
国土交通省「最近の不動産政策に関する取組について~不動産業ビジョン2030に基づく取組状況について~」(2026年)
https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001983782.pdf独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「国内企業のDX動向・AI活用動向のポイントを公表」(2026年7月16日)
https://www.ipa.go.jp/pressrelease/2026/press20260716.html中小企業庁「2026年版 中小企業白書・小規模企業白書」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/index.html個人情報保護委員会「『個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン』に関するQ&A」
https://www.ppc.go.jp/personalinfo/faq/APPI_QA/中小企業庁「2025年版 小規模企業白書 第5節 デジタル化・DX」
https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/2025/shokibo/b1_1_5.html
※本文中のROI計算は考え方を示すための試算例です。実際の成果を保証するものではありません。導入判断では各社の反響数、成約率、粗利、人件費、既存システム、個人情報の取扱状況を確認する必要があります。
