タンパク質だけでは、からだは守れない【前編】──食物連鎖と人類の進化から考える「生きる力」
こんにちは!
現場の経験と看護師の視点から「腸の声」をお伝えしている、華陽訪問看護ステーションのナースです。
「高齢者にはタンパク質が大切です」
「筋肉を落とさないために、しっかりタンパク質を摂りましょう」
医療や介護の現場でも、よく聞く言葉です。
もちろん、タンパク質はとても大切です。
筋肉だけではありません。
心臓も、呼吸に使う筋肉も、皮膚も、血液の中のさまざまな成分も、そして私たちの体を守る免疫に関わる物質も、タンパク質と深く関係しています。
けれども高齢者になると「3食たべても低栄養」の方がたくさんおられます。
私たちは、もう一歩、その先まで考える必要があるのではないでしょうか。
それは、
「タンパク質を食べた」ことと、「そのタンパク質を体が使えた」ことは同じではない
ということです。
食べ物は、そのまま「私たち」になるわけではない
肉を食べたから、その肉がそのまま筋肉になるわけではありません。
魚を食べたから、そのタンパク質がそのまま血液や皮膚になるわけでもありません。
食べ物はまず、口の中で噛み砕かれ、唾液と混ざり、胃や腸へ運ばれます。
そして消化酵素によって細かく分解され、タンパク質であれば、アミノ酸や小さなペプチドなどの形になります。
そこから腸の細胞を通って吸収され、血液によって必要な場所へ運ばれていきます。
小腸では、栄養素が自然に移動するだけではなく、さまざまな輸送体を使った、エネルギーに支えられる仕組みも働いています。
つまり、「吸収する」ということ自体が、とても高度に調節された生命活動なのです。
吸収されたアミノ酸は、必要な細胞へ届けられます。
そして、
筋肉をつくる。
消化酵素をつくる。
ホルモンや受容体などの材料になる。
傷ついた組織を修復する。
新しい細胞をつくる。
このような働きに利用されて、ようやく「私たちの体」の一部へと変わっていきます。
その過程で欠かせないものが、
エネルギー
です。
タンパク質は「材料」、ATPは「エネルギー」
私たちの体の中では、一瞬たりとも休むことなく、「壊すこと」と「つくること」が繰り返されています。
・古くなった細胞を入れ替える。
・傷ついた組織を修復する。
・必要なタンパク質を新しく合成する。
・体内のイオン濃度を保つ。
・栄養を細胞へ運ぶ。
・神経を働かせる。
・筋肉を動かす。
・心臓を動かす。
・呼吸を続ける。
こうした生命活動を支えているものの一つが、
ATP(アデノシン三リン酸)
です。
ATPは、よく「細胞が使うエネルギー通貨」と表現されます。
食べ物から得られた糖質や脂質、必要に応じてアミノ酸などを利用し、細胞はATPをつくります。
そして、そのATPを使いながら、私たちの体は「生きる」という仕事を続けています。
つまり、
タンパク質は、体をつくるための「材料」。
ATPは、その材料を使って生命活動を進めるための「エネルギー」。
材料だけがあっても、運び、組み立て、修復するためのエネルギーがなければ、体はそれを十分に活用できません。
反対に、エネルギーがあっても、体をつくる材料が不足していれば、必要な組織を維持できません。
タンパク質とエネルギーは、どちらか一方だけを見ればよいものではなく、互いにつながっているのです。
栄養を取り込む仕組みにも、エネルギーが必要
「消化酵素があるから、食べ物を消化できる」
これは、その通りです。
しかし、その消化酵素の多くもタンパク質からつくられています。
さらに、体の働きを調節する多くのホルモンや受容体、栄養を運ぶ輸送体なども、タンパク質やタンパク質を含む仕組みによって成り立っています。
それらを新しく合成し、細胞の中で適切な形に整え、必要な場所へ運ぶためにもエネルギーが必要です。
つまり私たちの体では、
栄養を取り込むための仕組みを維持すること自体にも、エネルギーが必要
なのです。
食べ物からエネルギーを得るためには、消化・吸収する体の仕組みを動かさなければなりません。
そして、その仕組みを動かすためにもエネルギーが必要です。
生命は、ただ栄養を「持っている」だけでは成り立ちません。
食べ物を受け取り、消化し、吸収し、運び、利用できる状態を保ち続ける必要があるのです。
「食べること」は、生命活動の始まり
私たちはつい、
「何を食べたか」
「タンパク質を何グラム摂ったか」
「何kcal摂取したか」
というところに目が向きます。
もちろん、それらは大切な指標です。
けれど、本当にその人の「生きる力」を考えるなら、その先まで見ていく必要があります。
食べられるか。
↓
噛めて砕けるか
↓
唾液がでてるか
↓
飲み込めるか。
↓
胃腸で消化できるか。
↓
腸から吸収できるか。
↓
血液によって運べるか。
↓
細胞まで届けられるか。
↓
酸素や栄養を利用してATPをつくれるか。
↓
そのATPを使って、修復・合成・運動・体温調節などができるか。
ここまでつながって初めて、食べ物は私たちの「生きる力」へと変わっていきます。
その始まりをたどると、「食物連鎖」に行き着く

さらに、この話をもっと大きな視点から見てみます。
私たちが食べている肉も、魚も、野菜も、穀物も、突然そこに現れたものではありません。
植物は、太陽の光を受けて育ちます。
植物が光合成によって蓄えたエネルギーを動物が受け取り、その植物や動物を、また別の生き物が食べます。
そして私たち人間も、その食物連鎖の一員として命をいただいています。
太陽のエネルギーが植物に蓄えられ、植物から動物へ、そして食べ物を通して私たちへ届いている。
だから「食べる」という行為は、単なる栄養摂取ではありません。
自然界の中を流れてきた物質とエネルギーを受け取り、自分の生命へとつなげていく行為でもあるのです。
人類の進化も、「エネルギー」と切り離せない
人類の進化を考えてみても、エネルギーはとても大きなテーマです。
私たち人間は、ほかの大型類人猿と比べて大きな脳を持ち、長く生き、子どもを長い時間をかけて育てます。
これらはいずれも、多くのエネルギーを必要とします。
人類の進化においては、代謝やエネルギー配分の変化が重要だったと考えられています。
現代人は、ほかの大型類人猿と比べて総エネルギー消費量が高く、そのエネルギーが大きな脳や長い寿命、成長や繁殖など、人間特有の特徴を支えてきた可能性が示されています。
そして人類は、
食べ物を切る。
砕く。
加熱する。
調理する。
保存する。
仲間と分け合う。
という方法を発達させてきました。
食材を細かくすることや加熱することは、噛む負担や消化の負担を変え、食べ物から利用できるエネルギーにも影響します。
人類の進化に、肉や植物性食品、加工や調理がそれぞれどの程度影響したのかについては、現在もさまざまな議論があります。
それでも、
食べ物から、より効率よく「使えるエネルギー」を得ること
が、人類の進化にとって重要だったという視点は、とても興味深いものです。
人類は、単に食べる量や種類を増やしただけではありません。
食べ物を加工し、調理し、分け合うことで、自然界から受け取った命を、自分たちが利用できるエネルギーへ変える方法を発達させてきたとも考えられます。
大切なのは、「食べた量」だけではなく「使える状態にあるか」
タンパク質を食べることは大切です。
けれど、食べ物が体の力になるまでには、
消化する力。
吸収する力。
運ぶ力。
酸素を取り込む力。
ATPをつくる力。
そのATPを使って体をつくり直す力。
これらすべてが関わっています。
私たちが食物連鎖の中で受け取った命は、腸で消化・吸収され、血液によって運ばれ、細胞の中で利用されて、初めて新しい「私たちの体」へとつながっていきます。
だからこそ、
「食べているのに痩せていく」
「タンパク質を摂っているのに筋肉が減る」
「栄養剤を使用しているのに元気にならない」
というときに、単純に「もっと食べてもらおう」と考えるだけでよいのでしょうか。
もしかすると、その方の体は今、食べ物を消化し、吸収し、運び、生命のエネルギーへ変えるところで、懸命に頑張っているのかもしれません。
次回の後編では、高齢者や病気を抱えている方の体が、限られたエネルギーをどのように使って命を守っているのか、そして私たちが考える、
「栄養を入れる看護」から「栄養を使える体を整える看護」へ
という看護腸活の視点についてお伝えします。
