💫起業フリーランスを目指す🔯第17講 「あとでまとめて」が一番高くつく――フリーランスが開業初日から経理を始めるべき理由
【導入】
ハル「先生、ついにフリーランスとして開業しました」
先生「おめでとうございます。今日の売上と経費は記録しましたか?」
ハル「えっ、まだ売上ゼロですよ」
先生「では今日買ったものは?」
ハル「名刺代3,000円、ドメイン代、仕事用のマウス、それから打ち合わせの電車代……」
先生「もう経理は始まっています」
ハル「売上ゼロなのに?」
先生「事業は売上が立った日から始まるのではありません。お金が動いた日から数字が始まっています。」
フリーランスになったばかりの時期は、営業、商品づくり、Webサイト、SNS、名刺など、やりたいことが山ほどあります。
そのため経理は、
「確定申告の前にまとめればいい」
と後回しにされがちです。
ところが、この「あとでまとめる」が意外に高くつきます。
時間もかかる。
記憶もなくなる。
領収書もなくなる。
請求漏れも起こる。
そして何より、自分の事業が儲かっているのか分からなくなります。
【経理は税務署のためだけにするものではない】
ハル「でも経理って、結局は確定申告のためでしょう?」
先生「それは半分だけ正解です」
国税庁は、事業所得などがある人について、所得を正しく計算するため日々の取引を記帳し、帳簿や関係書類を保存する必要があると案内しています。青色申告だけでなく、白色申告でも事業所得などを生ずる業務を行う人には記帳・保存制度があります。
しかし、経理の本当の効用は税金だけではありません。
「今月いくら売れたか」
「何にお金を使ったか」
「利益はいくら残ったか」
「まだ回収していない売上はいくらか」
「預金はあと何か月持つか」
これを知るためのものです。
経理とは、過去を記録する作業であると同時に、次の経営判断をするための計器盤です。
【実例1 12月に領収書の山と再会したWebデザイナー】
架空のWebデザイナー、佐藤さんは4月に独立しました。
最初の数か月は仕事を取ることに必死です。
領収書は封筒へ。
カード明細はそのまま。
請求書はWordで作り、保存場所もバラバラ。
佐藤さんは言いました。
「経理は年末にまとめれば一日で終わるだろう」
そして12月。
机の上には、領収書87枚。
メールにはネット通販の請求書。
銀行には用途不明の振込。
カード明細には、
「ONLINE SERVICE 9,800円」
ハル「何を買ったんでしょう?」
先生「それを9か月前の佐藤さんに聞きたいのですが、もう記憶の彼方です」
さらに、
「この飲食代は顧客との打ち合わせだったのか」
「このAmazon購入は仕事用だったのか私物だったのか」
「5万円の入金はどの請求書だったのか」
を調べることになりました。
結局、一日どころか数日かかりました。
経理を後回しにすると、記帳時間ではなく『思い出す時間』が増えます。
【実例2 売上50万円で安心していたら、現金がなかった】
別の架空のフリーランス、田中さん。
今月の売上は50万円でした。
「独立初年度としては順調だ」
と思っていました。
しかし内訳を見ると、
外注費12万円。
ソフト代3万円。
広告費5万円。
交通費2万円。
通信費1万円。
その他経費5万円。
合計28万円。
残るのは22万円です。
さらに50万円のうち20万円は、まだ顧客から入金されていません。
預金口座に実際に増えたお金は、思っていたほど多くありません。
ハル「売上50万円なのに、50万円使えるわけではないんですね」
先生「売上と利益と現金は、三人とも別人です。」
この違いを早い段階から理解しておかないと、
「仕事は忙しいのにお金がない」
というフリーランス特有の苦しさにつながります。
【開業初日から記帳すると価格設定まで変わる】
経理をすると、自分の仕事にいくら経費がかかっているのか分かります。
たとえばWeb制作を10万円で受注したとします。
外注費2万円。
有料素材5,000円。
ソフト利用料を案件分として5,000円。
交通費3,000円。
直接的な費用だけでも3万3,000円です。
さらに80時間かかっていたら、
「10万円の仕事を取った」
だけでは評価できません。
前回扱った時給の話ともつながります。
経理をしていなければ、価格が適正なのかさえ判断できないのです。
先生「安く受注して忙しく働き、利益が残らない」
ハル「最悪ですね」
先生「でも数字を見ていなければ、本人は『繁盛している』と思っていることがあります」
【開業直後ほど、お金を混ぜない】
独立当初は、
「まだ小さい事業だから」
と個人のお金と事業のお金を混ぜがちです。
コンビニで私物と事務用品を一緒に買う。
個人カードでソフト代を払う。
売上を生活用口座へ入金してもらう。
もちろん税務上は取引内容を正しく整理すれば処理できる場合があります。
しかし経理は一気に面倒になります。
可能なら早い段階で、事業用として使う銀行口座やクレジットカードなどを分けておくと管理しやすくなります。
ハル「財布も分けた方がいいですか?」
先生「できます。ただ、財布を七つ持つところまで行く必要はありません」
重要なのは、事業のお金の流れを後から追えるようにすることです。
【請求漏れも経理の問題である】
経理というと領収書ばかり気にしますが、もっと怖いものがあります。
請求漏れです。
架空のコンサルタント、山田さんは毎月複数の顧客へ請求していました。
ある月、忙しさのあまり3万円の追加作業を請求し忘れました。
半年後に気づきましたが、いまさら請求しにくい。
3万円の経費を取りこぼすことには敏感なのに、3万円の売上を請求し忘れていたのです。
先生「領収書500円を必死に探して、売上3万円を忘れる人もいます」
ハル「優先順位が逆ですね」
経理では、
「何を払ったか」
だけでなく、
「何を請求したか」
「入金されたか」
まで確認します。
仕事は納品で終わりではありません。代金を回収して初めて一周します。
【青色申告を考えるなら、なおさら早く始める】
2026年時点では、青色申告者は原則として正規の簿記の原則による記帳を行い、一定の要件を満たせば青色申告特別控除の適用を受けられる制度があります。また、新規開業者が青色申告を希望する場合には、開業時期に応じた申請期限があります。
「確定申告のときに考えよう」
では、申請や記帳方法の選択で困ることがあります。
制度は改正されることもあるため、実際の適用要件や期限は、その年の国税庁情報や税理士などで確認することが大切です。
【毎日30分も経理をする必要はない】
ハル「では毎晩、帳簿を一時間つけるんですか?」
先生「それでは本業より経理が趣味になってしまいます」
小規模なフリーランスなら、最初から複雑な仕組みを作る必要はありません。
会計ソフトや銀行・カード連携などを利用すれば、入力作業をかなり減らすこともできます。国税庁も、複式簿記による記帳について市販の会計ソフトを利用することで負担を軽減できると案内しています。
大切なのは、ためないことです。
たとえば週に一度15~30分、
「売上」
「経費」
「請求済み」
「入金済み」
「預金残高」
を確認するだけでも違います。
月末には簡単に、
今月はいくら売って、いくら使い、いくら残ったのか
を見る。
これが小さな経営管理の始まりです。
【今日からできる一歩】
開業したばかりなら、今日のうちに次の三つだけ決めてください。
・事業のお金を管理する銀行口座・カードをできるだけ分ける
・会計ソフトなど、記帳する場所を一つに決める
・毎週同じ曜日に15~30分「経理の時間」を予定へ入れる
領収書一枚を完璧に分類することより、記録をため込まない習慣を作ることの方が最初は重要です。
【今回のまとめ】
フリーランスの経理は、確定申告直前に始めるものではありません。
開業初日から始める経営の仕事です。
早く始めれば、
「何に使ったか」を覚えている。
請求漏れを防げる。
利益が分かる。
現金の減り方が分かる。
価格設定を見直せる。
そして税務申告の準備も楽になります。
経理とは、税務署のために一年を振り返る作業だけではありません。
自分の事業が今どこにいるのかを確認するための数字の地図です。
ハル「では今日から経理を始めます」
先生「今日の領収書は?」
ハル「机の上にあります」
先生「素晴らしい」
ハル「昨日のは……たぶん車の中です」
先生「開業二日目にして、もう発掘調査が始まりましたね」
