🔰ビジネスを本当に知るための会計基礎📊第7講 原因不明の現金過不足を決算でどう処理するか
プロローグ
「先生。金庫を数えたら、帳簿より5,000円少ないんですが」
「まずいね」
「犯人を捜しますか」
「会計は刑事ドラマではない。まず仕訳をする」
「原因不明なのに?」
「原因不明だからこそ、いったん現金過不足という仮の勘定を使うんだ」
現金過不足とは何か
現金過不足とは、帳簿上の現金残高と、実際に数えた現金残高が一致しないときに、一時的に使う勘定科目です。
たとえば帳簿では現金100,000円なのに、実際には95,000円しかなかったとします。
5,000円不足しています。
この時点では原因が分かりません。
そこで、
現金過不足 5,000 / 現金 5,000
と処理します。
「現金を5,000円減らすんですね」
「そう。帳簿上の現金を、実際の現金95,000円に合わせる」
つまり現金過不足は、
分からない差額を一時的に置いておく待合室
のようなものです。
なぜ現金を実際の金額に合わせるのか
「原因が分かるまで、帳簿を100,000円のままにしておいてはいけませんか?」
「金庫には95,000円しかないのに?」
「……帳簿には希望を残したい」
「会計は希望ではなく事実を記録する」
決算書に現金100,000円と書いてあっても、実際には95,000円しかなければ、その決算書は正しくありません。
したがって、
まず現金残高を実際の金額へ合わせる
ことが重要です。
後から原因が分かったらどうするか
翌日調べたところ、5,000円の交通費を支払ったのに仕訳をしていなかったことが分かりました。
「では犯人は交通費ですね」
「犯人というより、記帳漏れだね」
すでに現金過不足5,000円を借方に計上しているので、
旅費交通費 5,000 / 現金過不足 5,000
とします。
これで現金過不足はゼロになります。
つまり、
原因が分かれば、本来の勘定科目へ振り替える
わけです。
一部だけ原因が分かった場合
少し現実的に考えてみましょう。
現金が10,000円不足していました。
調査したところ、
・通信費の記帳漏れ 3,000円
・消耗品費の記帳漏れ 2,000円
までは判明しました。
しかし残り5,000円は原因不明です。
「全部分かるまで調査ですか?」
「もちろん調査はする。ただ、決算には締切がある」
ここで重要になるのが決算処理です。
決算まで原因不明ならどうするか
不足している現金について、決算になっても原因が分からなければ、原則としてその不足額を雑損失などへ振り替えます。
たとえば現金過不足の借方残高が5,000円残っていれば、
雑損失 5,000 / 現金過不足 5,000
とします。
「つまり5,000円を損失にする?」
「そう。現金が実際になくなっていて、原因も特定できない以上、会社としては損失として処理することになる」
これで現金過不足勘定はゼロになります。
逆に現金が多かったら
今度は帳簿上100,000円なのに、金庫には105,000円あったとします。
「増えているなら、ラッキーですね」
「その発想は経理担当者として危険だ」
5,000円多いということは、何かの売上や入金を記録し忘れている可能性があります。
まず、
現金 5,000 / 現金過不足 5,000
とします。
現金過不足は貸方に5,000円です。
原因を調べたところ、売上5,000円の記帳漏れだったと分かれば、
現金過不足 5,000 / 売上 5,000
として処理します。
多いまま原因が分からなかったら
決算になっても、この5,000円の原因が分からなかったとします。
この場合は、
現金過不足 5,000 / 雑収入 5,000
などとして処理します。
「少なければ雑損失、多ければ雑収入?」
「基本的な考え方はそれでいい」
つまり決算時には、
現金不足で原因不明→雑損失
現金超過で原因不明→雑収入
という方向になります。
なぜ現金過不足を決算書に残さないのか
「現金過不足のまま貸借対照表に載せてはいけないんですか?」
「『原因不明5,000円』という資産が会社にあると思う?」
「ありませんね」
「そういうことだ」
現金過不足は、資産や負債の本当の内容を表す勘定ではありません。
原因を調査している間だけ使う仮勘定です。
だから決算では基本的に残さず、本来の費用、収益などへ振り替えます。
「決算は仮置きを片付ける日でもある?」
「いい表現だ」
現金過不足で本当に怖いのは仕訳ではない
「でも5,000円くらいなら雑損失で終わりでもいいですよね」
「金額だけ見ればね。ただし、毎月5,000円ずつ不足していたら?」
「年間6万円」
「問題はそこだけではない」
現金過不足が繰り返し発生する場合には、
・レジ入力ミス
・釣銭ミス
・経費精算の記帳漏れ
・売上の記帳漏れ
・現金の私的使用
・現金の持ち出し
・内部不正
などの可能性があります。
つまり、
現金過不足は単なる簿記上の誤差ではなく、内部管理の異常を知らせる信号
でもあります。
「雑損失にすれば終わり」ではない
「決算で雑損失に振り替えれば帳簿はきれいになりますよね」
「帳簿はきれいになる。でも会社の問題まで消えるわけではない」
特に現金商売では注意が必要です。
飲食店、小売店、クリニック、美容院など、日々現金を扱う会社では、
帳簿残高と実際残高を定期的に照合する
ことが重要です。
毎日確認すれば、差額が出た日の取引だけを調べれば済みます。
一か月後に調べようとしても、
「この5,000円は何だった?」
となります。
「人間の記憶は一か月も持ちませんからね」
「昨日の昼食すら怪しい」
現金過不足を発見したときの順番
実務では、次の流れで考えると整理できます。
1.現金を実際に数える
2.帳簿残高と比較する
3.差額があれば現金過不足で一時処理する
4.領収書、レシート、売上記録などを調べる
5.原因が判明した部分は本来の勘定科目へ振り替える
6.決算まで不明なら雑損失・雑収入などで処理する
重要なのは、最初から雑損失や雑収入にするのではなく、まず原因を調べることです。
具体例で最後に確認
帳簿上の現金は200,000円。
実際に数えると193,000円でした。
7,000円不足です。
まず、
現金過不足 7,000 / 現金 7,000
とします。
その後、4,000円が消耗品費の記帳漏れと判明しました。
消耗品費 4,000 / 現金過不足 4,000
とします。
現金過不足は残り3,000円です。
決算まで調査しても原因が分かりませんでした。
そこで、
雑損失 3,000 / 現金過不足 3,000
とします。
これで現金過不足はゼロです。
「なるほど。いきなり雑損失にするわけではないんですね」
「そこがポイントだ」
今日の結論
「現金が帳簿より少なかったら?」
「現金過不足を使って帳簿を実際残高へ合わせる」
「原因が分かったら?」
「本来の勘定科目へ振り替える」
「決算まで不足原因が分からなかったら?」
「雑損失」
「多かった場合は?」
「原因不明なら雑収入」
「そして?」
「現金過不足は決算で残さない」
「合格」
現金過不足で最も重要なのは、
現金過不足という勘定科目を覚えることではありません。
重要なのは、
帳簿と現物が違えば調べる
という会計の基本姿勢です。
そして決算になっても原因が分からない差額だけを、最終的に雑損失や雑収入として整理します。
現金過不足は、簿記の小さな論点に見えます。
しかし実務では、会社の現金管理がきちんと機能しているかを見る重要なサインなのです。
