【ショートショート】 ちょい季節外れな怪談 《せりふ三題噺》
二本目書いてみました
おそらく全く恐くはないと思います
都内の高校に通うA君という青年がいました。
彼の高校では世界史の授業がまぁ独特で、先生が教科書のことを一切喋らなかったんです。そのかわりやれ世界の不平等が〜、とか搾取のシステムが〜、とかこれから世に羽ばたく高校生たちに向かって社会の暗部をもうこれでもかというほどアツく語って叩き込む。でも、そのくせテストの問題は全部教科書からきっちり出してくるという、信じられないぐらい辟易とする授業だったので、A君はその間ずっとスラムダンクを読み耽り、毎回小暮先輩が陵南戦でスリー決めるところで泣きそうになっていたそうです。
スラムダンクを読んだことないという方はですね、もうこれなんでいまだに教科書に載っていないのか文科省の見識を疑うレベルで素晴らしい作品なのでぜひ読んでみて下さい。
そのシーンがあまりにも好きすぎて、田岡茂一の『侮ってはいけなかった』を田岡茂一よりも田岡茂一らしく完コピできるようになったある秋の日。
夕方、部活帰りのA君が自宅近くの路地に入ると、電柱の傍に黒髪ロングヘアで真っ赤なワンピース、スレンダー体型&裸足のTheジャパニーズホラーを余すところなく体現したような女性がめちゃくちゃ背筋よく立っていました。影がないので、あ、これは霊だな、と。
そして近づくと日本酒の匂いがする。どうやら匂いは女性の霊が持っているキッチンペーパーからしていて彼女は昆布締めをしていたんですね。
しかし昆布締めを完成させるためには、その後魚の下処理や冷蔵庫で寝かせたりなどをしなければならない。なぜそんな暮れなずむ夕日にカラスが鳴く街角で昆布を柔らかくさせていたのか。
A君はその光景をパッと見てですね、テレビからのそのそと這って出てくる、奥ゆかしいと言えば奥ゆかしいと言えないこともないかも知れない白いほうのコと比べると、こじれた自己主張強めなタイプの霊なのかなと思ったそうです。
関わると非常に面倒くさそうだと判断したA君は、黙って女性霊の前を通り過ぎようとしました。そのとき、その霊が突然こう言ったんですね。
ねぇ…
あなた多元宇宙とか七文字の言葉なら何でも
ウルトラソウルっぽく言えると思ってるでしょ?
その言葉が、宇宙で例えるならギリ太陽系に位置する海王星ぐらい図星と言えば図星の部類に入っていて、いきなりズバッと指摘されたこともあり、ついカッチーンときたA君は反射的に女性の霊を振り向き、睨みつけたそうです。
霊は徐ろに、昆布締め最中の日本酒が沁み入ったキッチンペーパーをA君に手渡し、自分の右腕を見せました。そこには、20日の日曜日に◯印がついた9月の月間カレンダータトゥーが彫られていました。
その年のその月にしか使えない月間カレンダーを、わざわざ腕にタトゥーしている霊。A君はそれを見たとき、初めて得体の知れない恐さを感じたと言います。
そして霊は、こう告げて沈む夕陽とともに消えていきました。
受付で待ってますね、A君
なんのこっちゃさっぱりわからなかったA君ですが、しかしこのままでは霊に小馬鹿にされたようで癪に障るため、彼は9月20日のイベントを片っ端から調べてみました。
するとその日には『函館こんぶ祭り』『汐留プラネタリウム・オープン式典』『B'zライブ2026in横浜アリーナ』のイベントが全て同日に行われることがわかったのです。
しかし、その中のどのイベントを霊が指していたのかはわからない。そこでA君は貯めたバイト代をはたいて当日の計画を立てました。
9月20日
9:10羽田発函館行きAIR DO便
10:40函館着
11:00こんぶ祭り受付へ
11:40函館発羽田行きANA便
13:10羽田着
14:00汐留プラネタリウム受付へ(昼食)
14:45汐留発
ゆりかもめ〜東海道本線〜みなとみらい線乗り継ぎ
16:00横浜アリーナ着
遅延などのトラブルはなく、概ねスケジュール通りA君は函館、汐留、横浜と巡りましたが、その日、例の霊はどこにも姿を現しませんでした。そうなんですね、今おやじギャグを入れてみたんです。
自分は何かを間違えていたのだろうか。その答えがわからぬまま数日が過ぎ、A君の家のポストに一枚の葉書が投函されていました。葉書にプリントされた写真。そこには、楽しそうに列車貸し切り日本酒試飲イベントに参加してピースサインをする霊の姿が写っていました。
そっちか…とA君は呟きました。
なんとこの霊は、未成年を堂々とお酒のイベントに誘ってくる極めて恐ろしい霊だったのです。
このときA君は思いました。
侮ってはいけなかった、と。

*こちらに参加させていただきました🙇♂️
気づけば田岡茂一と同い年になっていました
今年中に監督を取り上げたものをなんとか書いて
おきたいと思いました
お題
せりふ:受付で待ってますね
三題:宇宙、カレンダー、昆布
