【徹底解説】中小M&A資格試験とは?国がつくる新しいM&A資格
※追記 予想される範囲の問題集を作成しました。
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後継者が見つからないまま黒字なのに廃業する会社が、年間6万社を超えています。その受け皿として急拡大してきたのが民間のM&A仲介業なのですが、実はこの業界、参入するのに資格も免許もいりません。誰でも「M&Aアドバイザー」を名乗って開業できてしまう状態が、ここ数年ずっと問題視されてきました。
その状況に、国がようやくメスを入れようとしています。中小企業庁が2026年度に新設を進めているのが「中小M&A資格試験」です。まだ制度の細部は固まっていませんが、この記事では2026年7月時点で公表されている一次資料をもとに、わかっている範囲をできるだけ正確に整理しました。
なぜ今、この資格がつくられるのか
きっかけは経営者の高齢化と後継者不在です。休業・廃業・解散の件数は2024年に約6.3万件まで増えていて、事業自体は黒字なのに継ぐ人がいないという理由だけで畳まれる会社が後を絶ちません。
その受け皿として、民間のM&A仲介業者やFA(フィナンシャルアドバイザー)の存在感がここ数年で急速に大きくなりました。すでに民間M&A支援機関全体の支援実績は、国が運営する事業承継・引継ぎ支援センターの2倍以上の規模になっているとされています。
ただし急拡大の裏で、業者選びに失敗して割に合わない条件で会社を手放してしまう、説明不足のまま契約してしまう、仲介者が売り手・買い手の両方から手数料を取る「両手仲介」の利益相反が問題になる、買い手候補の審査が甘く反社会的勢力に事業が渡ってしまう——といったトラブルも表面化してきました。M&A仲介業には弁護士や税理士のような免許制度がなく、極端な話、誰でも今日から看板を掲げられてしまう。この参入障壁の低さが、トラブルの温床になっていると指摘されています。
こうした問題意識を受けて、2025年6月13日の閣議決定に「中小M&Aの担い手の質を担保する資格制度の創設」が明記されました。中小企業庁は2026年3月27日に、この試験の運営を担う事業者を選ぶための企画競争の募集を開始し、2026年5月1日には運営事業者として株式会社銀行研修社が採択されています。
どんな資格なのか:位置づけと登録制度
まず押さえておきたいのは、これは弁護士や税理士のような「業務独占資格」ではないということです。合格してもM&A仲介業務そのものが免許制になるわけではなく、弁護士法72条や税理士法52条が定める各士業の独占業務に踏み込むものでもありません。性格としては、簿記検定や販売士検定に近い「公的な検定」に位置づけられています。
その代わりに用意されているのが、合格者の登録制度です。中小企業庁が合格者のデータベースをつくり、氏名を公表・検索可能にする方向で検討が進んでいます。登録を維持するには倫理規程の遵守を宣言し、定期的な講習を受け続けることが条件になる見込みで、倫理規程に違反した場合は登録取り消しと事実の公表という措置も検討されています。つまりこの資格は「合格して終わり」ではなく、合格後も一定の行動規範を守り続けているかどうかが可視化される仕組みを目指している、ということです。
すでにある「M&A支援機関登録制度」(M&A仲介会社などの組織を対象にした登録制度)とは別物で、こちらは個人単位の資格という位置づけ。将来的にはこの2つの制度が連携し、新資格の保有が支援機関登録の要件に組み込まれる可能性も取り沙汰されていますが、2026年7月時点ではまだ確定していません。
試験の中身(現時点で公表されている範囲)
試験科目として挙がっているのは、次の4分野です。
M&A実務(21〜24問程度):仲介・FA業務の全体像、M&Aのスキーム、企業価値評価やデューデリジェンスの基礎、PMI(統合後の実務)の基礎など
財務・税務(12〜14問程度):簿記・財務諸表の読み方、M&Aのストラクチャリングに関わる会計処理、複数の税目にまたがる税務リスクなど
法務(10〜11問程度):会社法・民法・労働法の基礎、株式譲渡契約や秘密保持契約などM&A契約の基本知識
倫理・行動規範(15問程度):利益相反の防止、反社会的勢力の排除、専任条項の扱い、説明義務など
4科目合計で最大60問程度、試験時間は120分、CBT方式(コンピューターを使ったテスト)で全国のテストセンターで受験する形が想定されています。出題形式は4択・5択の選択式を基本に、一部で計算問題や事例問題も出る見込みです。
個人的に興味深いのは、「倫理・行動規範」が全体の4分の1近くを占める独立科目として設定されている点です。一般的な資格試験だと倫理は他の科目に薄く混ぜ込まれることが多いのですが、この試験では「著しく不適切な倫理理解をしている受験者は、他がどれだけ高得点でも落とす」という趣旨の禁忌肢(選んではいけない選択肢)の設定まで検討されているようです。市場の質を上げるためにつくられた資格らしい設計だと思います。
合格基準は、全体で70〜80%程度の得点率に加えて、科目ごとにも最低基準(50%程度が目安)を設ける方向で検討されています。総合点は足りていても、どこか1科目で基準を割ると不合格になる仕組みです。運行管理者や秘書検定などでも見られる「まんべんなく理解しているか」を問うタイプの合格基準で、この資格が単なる知識量ではなく実務者としてのバランスを重視していることがうかがえます。
試験は立ち上げ期で年3回程度の実施が想定されていて、初回の対象者は仲介業者・FA・金融機関の担当者・士業・M&Aプラットフォーム関係者などを中心に、約1万人規模になると見込まれています(この人数は、既存のM&A支援機関登録制度に登録されている専従者数がベースになっているようです)。
スケジュール
現時点で公表されている流れを時系列でまとめると、次のようになります。
2025年6月13日:閣議決定で資格制度の創設方針が明記される
2026年3月17日:中小企業庁の検討会が中小M&A市場の改革方向性を提示
2026年3月27日:試験運営の受託事業者を選ぶ企画競争の募集が開始
2026年5月1日:運営事業者として株式会社銀行研修社が採択される
2027年1〜2月頃(想定):初回試験の実施が見込まれる
初回試験の具体的な日程や申込方法は、2026年7月時点ではまだ公表されていません。年3回程度というペースも「立ち上げ期の想定」であり、今後変わる可能性があります。
まだ決まっていないこと
ここまで紹介した内容の多くは、2026年3月の企画競争募集時点で示された「案」がベースになっています。裏を返すと、次のような点はまだ確定していません。
試験の正式名称(「中小M&A資格試験」は現時点での仮の呼び方)
受験料(有償になる方針は決まっているが、金額は未公表)
受験資格(実務経験などの条件が必要かどうか)
初回試験の具体的な日程・申込期間
既存のM&A関連資格の保有者に対する科目免除などの優遇措置の有無
公式テキストや過去問の提供有無
このあたりは運営事業者である銀行研修社の準備が進むにつれて、今後具体化してくるはずです。受験を考えている人は、中小企業庁や運営事業者からの公式発表を継続的にチェックしておくのが確実です。
既存のM&A関連資格との違い
実は「M&Aの資格」自体は、この新資格が初めてではありません。すでに民間資格として、金融業務2級 事業承継・M&Aコース(通称:事業承継・M&Aエキスパート、運営:金融財政事情研究会)、その上位にあたる事業承継シニアエキスパート・M&Aシニアエキスパート、JMAA認定M&Aアドバイザー(CMA)、経済産業省認可のM&Aスペシャリスト、事業承継士など、いくつかの資格がすでに存在しています。
これらと比べたときの新資格の特徴は、大きく3つあると思います。ひとつは、営利法人が運営する民間資格ではなく、国(中小企業庁)が制度設計を主導する公的な検定である点。ふたつめは、合格者の氏名を公表・データベース化し、倫理規程違反があれば登録取り消しという形で「合格後の質」まで担保しようとしている点。みっつめは、倫理・行動規範を全体の4分の1近くを占める独立科目にしている点です。既存資格が主に「知識を持っているかどうか」を測るのに対して、新資格は「知識」と「倫理的にちゃんとした支援ができるか」の両方を、しかも合格後も継続的に、可視化しようとしている印象を受けます。
なお、既存の民間資格がこの新制度によってなくなるわけではなく、当面は両方が併存していく見通しです。
関連する基礎知識は、今のうちに押さえておける
この新資格の詳細が固まるのはまだ少し先になりそうですが、出題予定の「財務・税務」「法務」の土台になる知識は、実は今からでも押さえておけます。
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中小M&A資格試験そのものの対策コンテンツではありませんが、周辺知識を先取りしておくと、いざ試験概要が固まったときの立ち上がりが早くなるはずです。この資格の続報は、今後も追いかけていきたいと思います。
