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ホタルイカと分葱のパスタ、春の名残をすくい上げて

春が終わりに近づくと、夕方の光が少しだけ鋭くなる。 窓から入る風には初夏の湿り気が混ざり、肌に触れる温度がゆっくりと変わっていく。 街の色も夏へ向かっているのに、魚売り場の棚に並ぶホタルイカだけは、まだ春の名残を抱えている。 この季節の境目にだけ漂う、静かな気配。

パックを開けると、春の海の香りがふわりと立ちのぼる。 今日のホタルイカは、一か月くらい前に食べたものより身が大きかった。 旬の終盤に向かうにつれて、ふっくらと丸みを帯びてくるあの感じ。 指先に触れた瞬間、季節が確かに進んでいることを静かに教えてくれる。

ボイルされたホタルイカをひとつずつ手に取る。 小さな目玉をそっと外すと、ぷつりとした固さが消え、身の丸みだけが残る。 短い旬を惜しむように、ひとつずつ丁寧に整えていく。 まな板の上に落ちる夕暮れの光が、身のふくらみをやわらかく照らしていた。

にんにくを弱火のオイルに沈め、香りが立ったところで白ワインを大さじ1。 湯気の向こうで香りが軽くなった瞬間、下処理を終えたホタルイカをそっと落とす。 身がふわりと温まり、はらわたのコクがゆっくりとオイルに溶けていく。

ここで、能登の魚醤「いしり」を小さじ1と数滴。 能登の海の深い発酵の時間が静かに沈んでいく。 いしりが加わると、ホタルイカの旨みがひとつ深い層を持ち、味の中心に静かな影が生まれる。

続いて、まるごと高知で買った鰹粉末をひとつまみ。 高知の海の香りが、いしりの深さを支え、味の輪郭をそっと整える。

茹で上がったパスタを絡め、火を止めてからシークヮーサーを小さじ1だけ。 重さを消すための、初夏の風のような役割。 最後に刻んだ分葱を散らすと、皿の上に春の色がひとつ咲いた。

盛りつけてみると、ホタルイカの丸みが白い皿の余白に静かに映え、 分葱の緑が初夏の光を受けて少しだけ明るく見えた。 そして横には、淡い黄金色の白ワイン。 グラスの中の光が、ホタルイカのはらわたの深みと呼応するように揺れている。

ひと口食べると、まずにんにくの香ばしさ。 そのあと、白ワインの香りがふっと抜け、ホタルイカの濃い旨みが静かに広がる。 ここでワインをひと口含むと、料理の余韻がもう一段深くなる。

ワインの酸が、いしりの持つ海の深さをすっと持ち上げ、 果実味がホタルイカの丸みをやわらかく包み、 冷たさがシークヮーサーの軽さと重なって、季節の境目をひとつの味にまとめてくれる。

皿の上の春と、グラスの中の初夏。 そのふたつがゆっくりと溶け合う時間が、今日の食卓には流れていた。

🥣 今日の一皿のレシピ

材料

  • 釜揚げホタルイカ(※目玉を取り除く) 80〜100g

  • スパゲッティ 100g

  • 分葱 1本

  • にんにく 2片

  • 唐辛子 1本

  • オリーブオイル 大さじ2

  • 白ワイン 大さじ1

  • 能登の魚醤「いしり」 小さじ1+数滴

  • 鰹粉末 ひとつまみ

  • シークヮーサー果汁 小さじ1

  • 塩 適量

作り方

  1. ホタルイカの目玉を取り除く。

  2. にんにくと唐辛子を弱火のオイルで温める。

  3. 白ワインを加えて軽く煮きる。

  4. ホタルイカを入れ、弱火で10〜15秒だけなじませる。

  5. 鰹粉末を加え、オイルに溶かす。

  6. いしりを加え、茹でたパスタと絡める。

  7. 火を止めてからシークヮーサーを加え、分葱を散らして仕上げる。


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