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IPは「当てる」より「回す」時代 | サンリオの営業利益92%増が証明したキャラクターポートフォリオ運用

「IPビジネスはヒットを当てた者が勝つ」長らくこれが業界の常識でした。

でもこの常識、もう古いかもしれません。本記事では「サンリオはなぜ営業利益を92%も伸ばせたのか」という問いを、IPポートフォリオ運用の構造から紐解きます。

サンリオの2025年3月期連結決算は、売上高1,432億円(前年比44.9%増)、営業利益518億円(同92.2%増)でした。

営業利益がほぼ倍増。しかもこの成長を牽引したのはハローキティだけではありません。2025年に周年を迎えた『クロミ』と『マイメロディ』を中心とした複数キャラクター戦略が奏功しています。ライセンス事業は飲料、外食、コスメ、アパレルなど幅広いカテゴリーで売上を伸ばしました。

この決算が意味しているのは、IPビジネスのゲームが変わったということです。「次のヒットを当てる」ゲームから「複数のIPをポートフォリオで回す」ゲームへ。サンリオはその転換を数字で証明しました。

このnoteでは「ビジネス実学」シリーズと題して、決算や数字から見える事業設計の構造を解剖しています。よかったら他の記事も覗いてみてください。

「ヒット依存」の恐怖を知っている

わたしが前職でエンタメ事業に関わっていたとき、1つのヒット作に頼る怖さを嫌というほど経験しました。ヒット作の次が出るまでの「谷」が深い。チーム全体がその作品の成功に張り付き、次のヒットが出るまで業績が沈む。この谷を経験した人間にとって、サンリオの決算は「IPビジネスの正解」が見えた瞬間です。

https://ssl4.eir-parts.net/doc/8136/ir_material_for_fiscal_ym8/198154/00.pdf

2026年3月期の第3四半期累計では、売上高1,431億円(前年同期比36.7%増)、営業利益623億円(同51.8%増)と、勢いが加速しています。通期予想も上方修正され、売上高1,906億円、営業利益751億円を見込んでいます。

地域別に見ると「ポートフォリオ運用」の効果が明確です。日本が売上852億円で最大ですが、アジアが288億円(前年同期比57.6%増)、欧州が79億円(同128.3%増)と、海外の伸び率が日本を上回っています。特に欧州は倍以上に成長しました。アジアでは『マイスウィートピアノ』も好調です。

地域ごとに異なるキャラクターが成長エンジンになっている。1つのIPが世界中で均一に売れるのではなく、地域に合ったIPが地域の成長を牽引する。これが「ポートフォリオ運用」の本質なんですよね。

投資の常識が、IPビジネスでは非常識だった

https://thankyoumart.jp/blogs/news/sanrio-characters-otomodachi?srsltid=AfmBOophO4dPAbpQ-Syh_bWIEWAIEtp7BCQBFqE0ZlBuUfRHSAekg1g4

投資の世界では「1つの銘柄に集中するより、ポートフォリオを分散した方がリスクが下がる」のは基本原則です。マーコウィッツが1952年に提唱した「現代ポートフォリオ理論」そのものです。

でもIPビジネスでは、この常識がずっと無視されてきました。「次のヒットを作れ」が業界の合言葉で、1つの大ヒットに組織のリソースを集中させるのが「正しい」とされてきた。

サンリオが証明したのは、投資の常識がIPにも当てはまるということです。キティ、クロミ、マイメロディ、シナモロール、マイスウィートピアノと複数のIPを同時に育てていれば、1つが落ちても他でカバーできます。しかもそれぞれが異なる層にリーチしているので、市場全体のカバー範囲が広がります。

Pop Martも同じ構造です。Labubu、Molly、Dimoo、Skullpandaと複数の自社IPを並行して育て、1つのIPに依存しない体制を作っています。ポケモンが世界最強のIPである理由の1つも、1,000種を超えるキャラクターを持っていること。事実上の「IPポートフォリオ」です。

「周年施策」は計画的なIP再活性化装置

もう1つ注目したいのは、サンリオが「周年」を計画的にIP活性化の装置として使っている点です。

クロミもマイメロディも何十年も前に生まれたキャラクターです。でも周年施策によって新しいファン層を開拓し、ライセンス需要を押し上げました。Netflixのアニメランキングでも『My Melody & Kuromi』がサンリオキャラとしてトップ30入りしています。映像コンテンツでの露出が物販・ライセンスの売上に跳ね返る循環がうまく回っています。

IPは「作って終わり」ではなく、適切なタイミングで再活性化することで何度でも成長曲線を描ける。これはIPポートフォリオの「リバランス」に相当します。

個人クリエイターのポートフォリオ運用

この構造はわたしのような個人開発・個人クリエイターにも応用できます。noteで1つのシリーズだけ書くのは「単一IP依存」です。複数の独立したシリーズを並行して書くと、読者層が分散し、1つのシリーズの人気が落ちても全体のPVは安定します。

「1人で複数シリーズを回すリソースがない」という問題はあります。でもAIエージェントの活用でこのボトルネックは解消しつつある。サンリオの複数キャラクター戦略と同じ構造を、個人が1人で実装できる時代になりつつあるんですよね。

この話が意味すること

問いに対する答えをシンプルに言えば、こうです。

IPビジネスは「次のヒットを当てる」ゲームから「複数のIPをポートフォリオで回す」ゲームに変わりました。サンリオの営業利益92%増は、ハローキティを中心に、クロミ・マイメロディ・シナモロール・マイスウィートピアノが地域別に成長エンジンを担う設計が生んだ数字です。

エンタメビジネスに関わる人間として、この転換から学べることは3つあります。

1つ目は、「IPは分散投資の対象になる」ということ。複数のIPを並行して育てることで、業績の安定性と成長性を両立できます。

2つ目は、「地域ごとにIPの当たり方が違う」ということ。欧州で128%成長した要因とアジアで57%成長した要因は別です。「ローカライズの選球眼」が必要になります。

3つ目は、「周年施策はIPの計画的な再活性化装置」だということ。何十年前のIPでも、適切なタイミングで再投入できる。個人クリエイターの「過去記事の再編集」も同じ原理です。

結局のところ、サンリオが見せたのは「ヒット作を当てる才能」ではなく「複数のIPを同時に走らせる設計力」でした。一発の天才ではなく、運用の凡才が勝つ時代に入ったということなんですよね。

覚醒会議のご案内

この記事で書いた「IPポートフォリオ運用の構造」は、覚醒会議でさらに深掘りしています。覚醒会議(=朝日けけのメンバーシップ)では、「Pop Mart」や「キャラクターIP」など、IPコンテンツの構造を解剖した記事を毎月公開しています。「複数のIPをどう育て、どう回すか」を構造から理解したい方に。よかったら覗いてみてください。

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