🌈 虹の向こう、月の便り 🦉3つのお題に空想のひらめきを│第65回ファンタジー
こちらに参加させて頂きました!画像を追加したので、レギュレーション違反だったら申し訳ありません!朝から暇だったので、書ききってスッキリ爽快です!
序章 空の郵便局「月光郵便社」
夜と昼が仲良く手をつなぐ国、その名はアルカディア。
空には浮島がいくつも漂い、その一番大きな島には、光をこぼす天の城がそびえていた。城の下には港町が広がり、水路のさざなみに黄金の光がゆらめく。丘の上には風見鶏がまわり、「想いをどこまでも」と染め抜かれた紺のバナーが夜風にひるがえっている。
ここは月光郵便社(Moonlight Post)。 配達員はみな、賢い獣たちだ。
その中でも一番の働き者が、青いとんがり帽子をかぶったメンフクロウの ルナ。

金の羽飾りをつけ、赤い封蝋のしずくがこぼれる手紙をくわえ、革の肩掛けカバンには巻物をいっぱいに詰め込んでいる。
「今日も夜が明けるまでに、五十七通。」
ルナは翼を広げて、コバルトブルーの空へと滑り出した。星屑の粉が翼のあとに舞い、流星がひとつ、彼のあとを追いかけるように尾を引いた。
第一章 虹を渡れないユニコーン

同じ夜――正確には、朝焼けが空の縁をピンクに染める少し前―― 遠く西の崖に、一頭の白いユニコーンが立っていた。
名を ミリア。 たてがみは月光を紡いだ絹糸、額の角は昇りゆく太陽そのままに、金色に輝いている。
崖のふちには、彼女が生まれる前から絶えることのない七色の虹が、天空の城まで大きなアーチを描いていた。虹の粒は花びらのように散り、しずくは光の結晶となって空へ舞いあがる。
ユニコーンは、生まれた日から一族の掟でこう教えられていた。
「角がまばゆく金に光った日、おまえは虹を渡り、天空の城の女王のもとへ参ずるのだ。」
そして今宵、ミリアの角は、今までにないほど輝いていた。 彼女は蹄をそっと虹の上に――
ぱしゃん。
しずくの粒に足がすり抜けた。
もう一度。ぱしゃん。
三度目。ぱしゃん。
虹はミリアを、ただの一頭も、渡してくれない。
「……どうして。」
崖の花々が、ミリアの涙を受け止めるように揺れた。青、白、黄色の野花。彼女が幼い頃から友だった花たち。その足元には、旅の途中で置き忘れられたような古い革装の本が積まれ、その上でアンティークのランタンが、あたたかいオレンジの光を静かに保っていた。
――誰かに、伝えなければ。 ――でも、誰に?
一族はもう、ずっと遠い星の彼方へ行ってしまった。 天空の城の女王とは、会ったこともない。
ミリアはランタンの光を頼りに、震える蹄で古い本を開いた。ページの間から一枚の便箋が滑り落ちる。そこには薄れかけたインクで、こう記されていた。
「もし虹を渡れぬときは、月光郵便社へ手紙をお書きなさい。 ――夜の獣たちが、あなたの声を運びます。」
第二章 魔法使いになった野良猫

一方、天空の城から少し離れた星の町の路地裏に、「まよなかの何でも屋」という三日月マークの看板を掲げた、小さな店があった。
店主は――茶トラの野良猫。 名をタビィ。
半年前まで、彼は本当にただの野良猫だった。 魚の骨をひろい、雨の日は路地の段ボールで丸くなり、月夜には図書館の窓から漏れる光を眺めるだけの、しがない一匹の猫だった。
けれど、ある嵐の晩―― 月の図書館の裏口で、一人の老魔法使いが息を引き取る前に、彼にこう囁いたのだ。
「おまえ、字が読めるかい。……いや、読めなくてもいい。心が読めるならば。 この帽子と杖を、譲ろう。」
翌朝、目覚めた野良猫は、青い星柄の魔法使いの帽子をかぶり、肉球マークの革バッグを肩から下げていた。前足には、金色に渦を巻く光を放つ魔法の杖。
「にゃ……にゃんじゃこれは。」
杖を振ってみると、雨雲がぱっと晴れた。 もう一度振ると、道端のパン屑があたたかいホットミルクに変わった。 三度目に、彼はうっかり自分の尻尾を七本に増やしてしまい、慌てて元に戻した。
こうしてタビィは、「まよなかのなんでも屋」をひらいた。 道標には、彼にしか読めない文字でこう書いてある。
星の町|月の図書館|ねこの森|どこかのだれか
古い地図と真鍮の羅針盤を並べ、星の光を閉じ込めたガラス瓶に「夢を届けます」と木札を結び、窓辺には小さな黒猫の弟子を一匹、そして帽子をかぶった子猫のもう一匹は、いつも積み上げた古書の上でぐっすり眠っている。背表紙には Magic, Cats, Good Night, Another World, Small Happiness ――。
タビィが夜の商売を始める合図は、いつも決まっている。 天窓からメンフクロウのルナが、封蝋つきの手紙を落としていくのだ。
「にゃ、ルナ。今夜のお客は?」
ルナはくちばしで手紙を渡し、静かに答えた。
「西の崖から。虹を渡れないユニコーンが、一頭。」
タビィの琥珀色の目が、きらり、と光った。
第三章 手紙を届けるフクロウ

ルナは、この国のすべての「言葉にならない想い」を運ぶ者だ。
赤ん坊が生まれた夜、母親の胸のうちにしかなかった祝福の言葉。 恋人と別れた青年が、口に出せなかった「ありがとう」。 死にゆく老婆が、猫にだけ聞かせた最後の子守唄。
そういうものを、ルナはくちばしで拾い、封蝋で封じ、風の宛先へと届ける。
――だから、ミリアの涙の手紙も、ルナは迷わずに拾った。
崖の上、ランタンの傍らで、ミリアは震える蹄で羽ペンを走らせていた。
「わたしは、虹を渡れません。 一族は皆、渡ったのに。 わたしだけ、選ばれなかったのでしょうか。 ――天空の城の、どなたかへ。」
封をする蝋がなかったので、ミリアは代わりに、額の角のしずくをひとつぶ、便箋に落とした。 それは月光のしるしになった。
ルナは音もなく舞い降り、その手紙を大切にくちばしにくわえた。
「お嬢さん、これは天空の城には届けません。」
「え……?」
「城の女王より先に、返事を書ける者を、私は一匹知っています。」
そう言って、フクロウは、金の粉を翼から散らしながら、星の町へ向かって夜空を横切っていった。
第四章 三つの想いが交わる夜

真夜中、まよなかのなんでも屋。
タビィはミリアの手紙を読み終えると、ふう、と長いひげを揺らした。杖の先から金色の光の渦がゆらゆらと立ちのぼる。
「ルナ、これはね、女王さまへの手紙じゃないのだよ。」
「では、誰への?」
「ミリア自身への手紙さ。」
タビィは羅針盤を回し、古地図を広げた。針は、虹の一点――誰も気に留めない、七色の間の、色のない一点を指している。
「虹はね、七色でできていると人は言うけれど、ほんとうは八色目があるんだよ。〈自分の色〉というやつだ。それを見つけないうちは、誰も虹の上を歩けない。」
タビィは杖でガラス瓶をコツンと叩いた。中の星が、ぽう、と灯る。
「ルナ。この星を、崖のユニコーンに届けておくれ。それから、こう伝えるんだ。」
「はい。」
「――〈虹を渡るのではなく、虹を作る側にまわってごらん〉と。」
ルナは深くうなずき、ガラス瓶を小さな爪でしっかり握りしめ、また夜へ発った。 黒猫の弟子は窓辺で見送り、眠っていた子猫は寝返りをうって、ふふ、と笑った。
第五章 八色目の虹

夜明け前、崖の上。
ミリアは、ルナから受け取ったガラス瓶を、そっと角の下に置いた。 星の光がぽうっとひろがり、崖の花々がひとつずつ目を覚まし、彼女の涙のあとをやわらかく撫でた。
「虹を、つくる側……。」
彼女は目を閉じた。 一族のこと。花たちのこと。ランタンの灯。古い本。そして――名前も知らない、けれど今夜彼女のために手紙を読んでくれた、月夜の郵便屋と、真夜中の魔法使い。
胸の中に、ひとつの色が灯った。 それは、赤でも、青でも、金でもない。 彼女がこれまで愛してきたすべてのものが混ざりあった、名前のない色だった。
ミリアは静かに角をかかげた。
金色の角の先から、もう一本の虹が生まれた。 七色ではない。八色目の。透きとおる光の帯。
その虹は、天空の城へは向かわなかった。 崖から星の町へ、星の町から港へ、港から遠い遠いねこの森へ、そして――ルナが今も飛んでいる夜空へと、あたたかく橋を渡した。
ミリアは、蹄をそっと踏み出した。
――ぱしゃん、ではなく、こつん――
しっかりとした感触が、蹄に返ってきた。
彼女は、渡れた。 自分でつくった、自分の色の橋を。
終章 「想いをどこまでも」

天空の城の女王は、その朝、テラスに立ち、遠くから流れてくる八色目の光を見て、ひとりほほえんだ。
「ようやく、生まれたのね。一族の掟を破って、自分の虹をつくった子が。」
女王は白い花びらを風に乗せ、崖のほうへと放った。 それはミリアの新しい虹の上で舞い、金の粉となって町へ降り、まよなかのなんでも屋の窓辺の子猫の鼻をくすぐった。子猫はくしゅん、とくしゃみをし、また眠った。
港町の風見鶏がくるりとまわり、紺のバナーが夜風にひるがえる。
想いをどこまでも
その日から、月光郵便社の配達物には、ときどき、 「宛先:わたし自身」 と書かれた手紙が混じるようになったという。
ルナはそれを見つけるたび、くちばしで大切にくわえ、 どこかの崖の上、あるいはどこかの路地裏、 あるいは――今この物語を読んでいる、あなたの窓辺に、 そっと落としていくのだ。
――おしまい。
