手紙|拝啓文芸部|昨日の私へ
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手紙
昨日の私から、手紙が届いた。
消印は昨日の日付。切手は貼られていなかった代わりに、乾いた涙のあとが、四角く一枚分だけ残っていた。郵便屋さんは「これで料金は足りるそうです」と言って、帽子をとって帰っていった。そういえば、うちには郵便受けはなかった。
封を切ると、無印の便箋が三枚。一枚目にはこう書いてあった。
今日の私へ。
ごめん、不二家のケーキを一切れ、食べ残してしまった。
冷蔵庫の、いちばん奥にあります。
フォークは、皿の右側に添えておきました。
昨日、私が半分だけ齧った跡が、ついています。
気にせず、続きから食べてください。
冷蔵庫を開けると、たしかに小皿が置いてあった。不二家のショートケーキが一切れ。生クリームの端に、フォークの跡が四本、きれいに並んでいる。昨日の私は、いつも四本まとめて刺す癖があった。私も、同じようにそこへフォークを立てる。
二枚目には、少し震えた私の筆跡で、こう書かれていた。
今日の私へ。
昨日、あなたの代わりに泣いておきました。
三回ぶん。
だから今日は、二回までなら、笑っても大丈夫です。
三回笑うと、明日の私が困るので、そこは加減してください。
三枚目は、白紙だった。ただ、便箋の右下に、小さな指紋がひとつ。自分の指を合わせてみると、ぴったり重なった。指紋の中に、昨日の私が閉じ込められて、こちらをじっと見上げている気がした。
私はケーキを食べた。生クリームは少しだけ角が落ちていて、いちごは、昨日の私が私のために、いちばん赤い一粒を残してくれていた。
返事を書こうとして、ペンを持った。けれど、宛先の書き方がわからない。「昨日」という住所は、地図のどこにも載っていない。
仕方がないので、書き終えた便箋を、空になった小皿の上にのせて、冷蔵庫のいちばん奥にしまった。明日の私が、きっと郵便屋さんに渡してくれる。切手の代わりに、今日の私が、涙をひとつぶんだけ、便箋の隅に落としておいた。
いちごは、半分だけ食べて、残りは明日の私のために、皿の隅に置いておいた。冷蔵庫の中で、赤い一粒が、静かに明日を待っていた。
手紙|拝啓文芸部|昨日の私へ___了
