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なぜJRの障害者割引は変わりにくいのか――国鉄時代から続く「誰が負担するのか」という問題


前々回の記事で、私はJRの障害者割引制度について行ったオンライン署名活動を振り返りました。

賛同してくださった方は、最終的に15,000人を超えました。

それでも、私が求めた制度改正は実現しませんでした。

当時は、

「これだけ多くの人が賛同しているのに、なぜ制度は動かないのだろう」

と思ったものです。

しかし、改めて考えてみると、この問題は単純に、

「JRが障害者を割引してくれない」

という話ではありません。

その背景には、国鉄時代から続いてきた制度と、

「障害者割引による負担を、いったい誰が引き受けるのか」

という難しい問題があります。

今回は、その構造について考えてみたいと思います。

今も残っている「普通急行券」の割引

JRの障害者割引制度を見ると、少し不思議なところがあります。

第一種障害者が介護者と一緒に利用する場合、普通乗車券だけでなく、普通急行券なども割引対象になります。

ところが、現在の長距離移動で一般的に利用される新幹線や在来線特急の特急料金は、原則として割引対象になっていません。

私は以前から、ここに疑問を感じていました。

普通急行列車がほとんどなくなった現在でも「普通急行券」の割引制度は残っている。

一方で、現在の長距離移動の主役となった特急や新幹線の特急料金には、基本的に割引がありません。

制度が作られた時代の鉄道と、現在の鉄道との間に、ズレが生じているように見えます。

この制度の源流は、JRが誕生する以前の国鉄時代にあります。

そして1987年、国鉄は分割民営化され、JR各社が誕生しました。

鉄道会社は国営から民間企業へ変わりましたが、障害者割引制度は引き継がれました。

ここに、この問題を考える一つの鍵があるように思います。

JRから見れば、割引の拡大は減収になります

利用者側から考えてみます。

第一種障害者が介助者と一緒に特急列車を利用する場合、乗車券には割引があります。

しかし特急料金については、本人と介助者の二人分を負担することになります。

つまり、

介助者が必要な人ほど、長距離を速く移動するための負担が大きくなる

ということです。

私は、この点について制度を見直してほしいと求めました。

一方、JR側から見ると別の事情があります。

特急料金まで割引対象にすれば、その分は減収になります。

さらに対象を広げれば、

「第一種だけなのか」

「第二種はどうするのか」

「ほかの移動困難者はどうするのか」

といった問題も出てきます。

私がJR各社へ問い合わせた際にも、

公共割引は社会福祉政策として国が負担すべきである

という趣旨の回答をいただきました。

民間企業の立場から考えれば、この主張にも一定の理由があります。

でも、それだけでは説明できません

ただ、ここで一つ大きな疑問があります。

バスです。

多くの路線バスでは、障害者手帳などによる運賃割引が導入されています。

しかも、鉄道の普通乗車券で見られるような100kmという距離条件がなく、近距離の利用から割引されるケースが一般的です。

そして、バス会社の多くも民間企業です。

そう考えると、

「JRは民間企業だから、障害者割引を広げるのが難しい」

という説明だけでは不十分です。

民間事業者でも、バスではより広い形で障害者割引が行われています。

では、JRとバスでは何が違うのでしょうか。

JRには独特の歴史があります

私は、ここにJR固有の歴史的事情があるのではないかと考えています。

現在のJRは民間企業ですが、その前身は国鉄です。

そして現在の障害者割引制度の基本的な仕組みも、その時代から引き継がれてきました。

つまり、

国有鉄道時代に作られた福祉的な割引制度を、民営化された鉄道会社が引き継いでいる

という特殊な構造になっています。

さらに鉄道には、

「運賃」と「料金」

という区分があります。

乗車すること自体に必要な乗車券と、特急などを利用するための料金が別になっています。

そして障害者割引についても、その区分が現在まで残っています。

その結果、

乗車券は割引される。

しかし、

特急券は原則として割引されない。

という、利用者から見ると少し分かりにくい制度になっています。

「100km」という線引きもあります

さらに、第二種障害者などが本人単独で利用する場合、普通乗車券の割引には片道100kmを超えるという条件があります。

ここも、バスとの違いが目立つところです。

路線バスなら、一駅、数kmといった日常的な移動でも障害者割引が適用されるケースがあります。

一方、JRでは利用条件によって100kmという線引きが存在します。

なぜ100kmなのでしょうか。

なぜ99kmでは対象にならず、101kmなら対象になるのでしょうか。

もちろん制度には、どこかに線を引く必要があります。

しかし、現在の障害者の生活や移動実態から見て、その線引きが今でも合理的なのかは、検討する余地があるように思います。

では、国が負担すればいいのでしょうか

JR側が、

「社会福祉政策であるなら国が負担すべきだ」

と考えるのであれば、

「それなら国がお金を出せばいい」

という話になります。

しかし、これも簡単ではありません。

国が障害者の鉄道利用を補助するのであれば、当然ながら財源が必要です。

そして、

誰を対象にするのか。

どこまで割引するのか。

第一種だけなのか。

第二種はどうするのか。

鉄道だけでよいのか。

バスや航空、船舶との公平性はどうするのか。

といった問題が出てきます。

つまり、JRから国へ負担を移せば、それですべて解決するわけでもありません。

「誰が負担するのか」という問題

結局、この問題を突き詰めていくと、

「誰が負担するのか」

というところに行き着きます。

JRが負担するのでしょうか。

国が税金で負担するのでしょうか。

一般利用者が運賃・料金の一部として薄く負担するのでしょうか。

あるいは、現在のように障害者本人や介助者が負担するのでしょうか。

どの方法を選んでも、費用そのものが消えるわけではありません。

誰かが負担することになります。

だからこそ、制度改正は難しいのだと思います。

ただし、「誰が負担するか」を制度化した例もあります

鉄道には、興味深い仕組みがあります。

「鉄道駅バリアフリー料金制度」です。

駅のエレベーターやホームドアなどを整備するには、多額の費用が必要です。

そこで、その費用を鉄道会社だけが負担するのではなく、利用者にも広く負担してもらう仕組みが作られました。

もちろん、設備整備と運賃・料金の割引は性質が異なります。

そのため、この仕組みをそのまま障害者割引に当てはめることはできません。

それでも、

「社会的に必要な費用について、誰がどのように負担するのかを制度として設計する」

という考え方は参考になると思います。

「JR対障害者」ではないのだと思います

署名活動をしていた頃の私は、

「障害者が制度改正を求める」

「JRが認めない」

という構図で考えていた部分がありました。

しかし今は、少し違います。

障害者側には、

「介助者が必要な人ほど移動費が高くなるのはおかしい」

という事情があります。

JR側には、

「社会福祉政策による費用を民間企業だけが負担するのか」

という事情があります。

国には、

「民間企業の料金制度に福祉政策としてどこまで関与するのか」

という問題があります。

さらにバスを見ると、

「同じ民間公共交通でも、なぜ割引制度の考え方がこれほど違うのか」

という新たな疑問も出てきます。

つまり、この問題は、

「JRが割引するか、しないか」

だけではありません。

国鉄時代から続く制度。

民営化。

福祉政策。

鉄道会社の経営。

交通機関ごとに異なる割引制度。

それらが重なった問題なのだと思います。

15,000人が賛同しても変わらなかった理由

私が行った署名活動には、15,000人を超える方が賛同してくださいました。

これは今でも、とてもありがたいことだと思っています。

しかし、

「15,000人がこの制度を変えてほしいと思っている」

ことと、

「新しい制度をどう設計するのか」

は別の問題でした。

誰を対象にするのか。

どこまで割引するのか。

特急料金も対象にするのか。

その費用を誰が負担するのか。

バスなど他の公共交通機関との整合性をどうするのか。

そこまで考えて、ようやく具体的な制度改正の議論になります。

当時の私は、そこまで十分に考えられていなかったと思います。

制度は変えられないわけではありません

一方で、

「国鉄時代から続いているから、もう変えられない」

ということでもありません。

JRグループでは、2025年4月から精神障害者についても運賃割引制度が導入されました。

長く続いてきた制度でも変わることはあります。

だから私は、署名活動が無意味だったとは思っていません。

そして、

「JRが悪い」

とも考えていません。

むしろ今は、

制度が作られた時代と、現在の移動実態が合わなくなっている部分を見つけ、そのうえで現実的な制度を考えること

が必要なのだと思っています。

「割引してください」の、その先へ

障害者割引について議論すると、

「もっと割引すべきだ」

という意見と、

「なぜ障害者だけ割引するのか」

という意見がぶつかることがあります。

しかし、本当に必要なのは、その一歩先の議論なのかもしれません。

なぜ現在の制度になっているのか。

なぜ鉄道とバスでは違うのか。

現在の移動実態に合っているのか。

そして、

社会として障害者の移動を支えるのであれば、その費用を誰が、どのような形で負担するのか。

そこまで考える必要があります。

私自身、15,000人を超える署名活動を経験して、ようやくそこに気づきました。

声を上げることは大切です。

しかし、声を上げたその先には、

「では、どういう制度なら実現できるのか」

という問いがあります。

国鉄時代から続いてきた制度を、現在の交通事情に合わせてどう更新していくのか。

私は今、その議論こそが必要なのではないかと思っています。

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