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精神障害者の雇用問題は日本だけの問題ではない、福祉先進国でもそうだ


精神障害者の雇用について語られるとき、

「日本は障害者福祉が遅れているから、精神障害者が働けないのだ」

「北欧のような福祉先進国なら、もっと普通に働けるのではないか」

という意見を目にすることがあります。

確かに、海外には日本より手厚い社会保障制度や就労支援制度を持つ国があります。

日本が海外から学ぶべきことも、たくさんあるでしょう。

しかし、

「福祉制度が充実すれば、精神障害者の雇用問題は解決する」

と考えるのは、少し単純すぎるようです。

実際にOECDの統計を見ると、精神的不調を抱える人の雇用問題は、日本だけでなく、多くの先進国が抱えていることが分かります。

OECD平均でも大きな「雇用格差」がある

OECDの報告では、中程度の精神的不調がある人の就業率は約60%。

精神的不調のない人では約70%です。

つまり、約10ポイントの差があります。

さらに深刻な精神的不調がある人になると、雇用率の差は約25~26ポイントまで広がります。

また、精神的不調のある人の失業率は、そうでない人より平均して大幅に高くなっています。

これは一つの国だけの特殊な現象ではありません。

OECD加盟国に広く見られる問題なのです。

さらに2025年のOECD報告でも、深刻な精神的不調のある人の雇用率は、調査対象31か国のうち22か国で50%未満だったとされています。

福祉制度を整備している先進国を含めても、問題は解消されていません。

福祉先進国スウェーデンでも問題は起きている

では、福祉国家として知られるスウェーデンならどうでしょうか。

OECDがスウェーデンを分析した報告では、精神的不調のある人の就業率は58%、ない人では74%でした。

16ポイントもの差があります。

さらに当時のスウェーデンでは、精神疾患が新規障害給付申請の約60%を占める状況も報告されていました。

これはかなり象徴的な数字です。

社会保障制度が充実していることと、

精神障害者が労働市場に参加しやすいことは、必ずしも同じではない

ということです。

もちろん、これは10年以上前のデータなので、現在のスウェーデンをそのまま表している数字として扱うべきではありません。

しかし、「福祉先進国なら精神障害者雇用の問題は存在しない」というイメージが正しくないことは分かります。

デンマークでも雇用格差があった

同じ北欧のデンマークについても、OECDは精神的不調と雇用の問題を詳しく分析しています。

OECDの報告では、精神的不調のある人とない人との間に約15ポイントの就業率格差があり、精神的不調のある人の失業率は全体のおよそ2倍でした。

しかも、働いているから問題が解決しているわけでもありません。

当時の調査では、精神的不調のある労働者の多くが、仕事上の生産性低下を経験していました。

つまり問題は、

「就職できるか」

だけではありません。

就職したあと、安定して働き続けられるか

というところにもあります。

イギリスやノルウェーでも大きな格差

OECDが各国を比較した別の調査では、精神的不調のある人の雇用率は、そうでない人より平均して約20%低くなっていました。

そして意外なことに、雇用格差が30%を超えていた国の中には、

イギリスやノルウェー

も含まれていました。

ノルウェーといえば、世界でも社会保障の充実した国として知られています。

それでも精神的不調のある人とない人との間に、大きな雇用格差が存在していました。

ここからも、

「福祉予算を増やせば解決する」

というほど単純な問題ではないことが分かります。

日本は少し意外な数字だった

さらに興味深いことがあります。

同じOECDの比較では、日本の精神的不調のある人とない人の雇用率の差は3.6%で、比較対象国の中では小さい数字でした。

重度の精神的不調についても、日本の格差は9%とされています。

これは、

「だから日本の障害者雇用制度は世界一優秀だ」

という意味ではありません。

このOECD比較は障害者手帳の有無ではなく、健康調査における精神状態をもとに分類しており、日本の「精神障害者雇用」の統計とは定義が違います。

したがって単純な国際ランキングにはできません。

それでも、

「日本は遅れている、欧米は進んでいる」

という単純な図式では現実を説明できないことは確かでしょう。

なぜ福祉制度が充実していても難しいのか

では、なぜなのでしょうか。

一つには、精神疾患そのものの特徴があります。

体調に波がある。

昨日できたことが今日はできない。

ストレスによって症状が悪化する。

睡眠状態によって勤務が難しくなる。

対人関係によって大きく消耗する。

こうした問題は、社会保障制度を充実させただけで消えてなくなるものではありません。

そして企業側にも事情があります。

福祉先進国にも「会社」はある

スウェーデンにもデンマークにもノルウェーにも会社があります。

会社である以上、

顧客がいる。

納期がある。

仕事を分担する必要がある。

給与を支払わなければならない。

そして事業を継続する必要があります。

これは日本企業と同じです。

障害者への配慮を制度によって求めることはできます。

しかし、

「本人が希望する配慮を無制限に提供する」

ことまではできません。

一人の従業員ができない仕事は、別の誰かが担当する必要があります。

頻繁に欠勤する人がいれば、それをカバーする人員も必要になります。

管理者が頻繁に面談すれば、その時間にもコストが発生します。

配慮にも人手と時間とお金が必要なのです。

これは福祉国家でも変わりません。

「働いている」だけでも問題は解決していない

OECDの調査でもう一つ注目したいのは、欠勤です。

精神的不調のある人では、過去1年間に少なくとも一度仕事を休んだ人が47.6%。

精神的不調のない人では30.4%でした。

つまり、

「就職さえすれば問題解決」

ではありません。

働き始めてから、

休職する。

欠勤する。

生産性が低下する。

そして場合によっては離職する。

こうした問題まで含めて考える必要があります。

精神障害者雇用において重要なのが「採用数」だけではなく「定着」である理由もここにあります。

偏見や差別も国境を越えて存在する

もちろん、問題のすべてを精神疾患そのものに求めることもできません。

OECDは、精神的不調のある人の雇用格差を生み出す要因として、スティグマや差別も挙げています。

精神疾患を職場に伝えたら不利になるのではないか。

仕事を任せてもらえなくなるのではないか。

昇進できなくなるのではないか。

こうした不安は、日本だけに存在するものではありません。

制度が進んでいても、人間の意識まで法律一本で変えることはできないのです。

「働けなくても生活できる」と「働ける」は別問題

福祉先進国では、働けなくなった場合の所得保障が手厚い場合があります。

これは非常に重要です。

病気になった人が、

「働けなければ生活できない」

という状況に追い込まれないためのセーフティーネットになります。

しかし、ここにも難しい問題があります。

生活できることと、働けることは同じではありません。

所得を保障することには成功しても、その人を再び労働市場につなぐことが難しい場合があります。

OECDも長年、精神的不調を抱える人が障害給付などを通じて早期に労働市場から退出してしまう問題を指摘してきました。

つまり、

「働けなくても生きていける社会」

を作ることと、

「働きたい人が働ける社会」

を作ることは、別々に考えなければならないのです。

「普通の働き方」そのものが壁なのかもしれない

もっと根本的な問題もあります。

現代の会社が求める働き方です。

決められた時間に出勤する。

決められた時間働く。

一定の生産性を維持する。

納期を守る。

他人と協力する。

予定どおり仕事を進める。

企業活動としては、ごく普通の要求です。

しかし、精神疾患によって体調が大きく変動する人にとって、この「安定性」が最大の障壁になる場合があります。

能力がないわけではない。

働く意欲がないわけでもない。

能力を毎日同じように発揮することが難しい。

ここに精神障害者雇用の非常に難しい問題があります。

「週40時間働ける人」だけを基準にしない

そこで考えられるのが、働き方そのものを柔軟にすることです。

一日8時間は無理でも4時間なら働ける。

週5日は無理でも週3日なら続けられる。

出社は難しくても在宅なら働ける。

接客は難しくても、一人で行う専門業務なら能力を発揮できる。

こうした人を、

「普通に働けない人」

として切り捨てるのではなく、

「条件が合えば働ける人」

として捉える。

これは日本だけでなく、各国共通の課題でしょう。

企業だけに背負わせないことも重要

そして私は、ここが非常に重要だと思います。

精神障害者を雇用するために必要なコストを、

企業だけに背負わせないことです。

企業に、

「障害者なのだから配慮してください」

と要求するだけでは限界があります。

会社は福祉施設ではありません。

一方、

「配慮にはお金がかかるから雇いません」

となれば、働ける精神障害者まで労働市場から排除されます。

だからこそ、

本人。

企業。

医療。

福祉。

行政。

社会保障。

それぞれが負担を分担する必要があります。

企業にとっても、

「この人を雇えば戦力になる」

と思える仕組みにしなければ、障害者雇用は長続きしません。

福祉先進国にも「完成形」はなかった

OECDの数字を見て私が感じるのは、

「どこかに正解の国があるわけではない」

ということです。

北欧にも問題があります。

イギリスにも問題があります。

日本にも問題があります。

そして、それぞれ制度も社会も違います。

海外から学ぶことは重要です。

しかし、

「北欧を真似すれば全部解決する」

という話ではありません。

精神障害者の雇用問題は、日本だけの特殊な失敗ではないのです。

世界共通の問いなのではないか

OECDは長年にわたり、精神的不調が雇用、失業、欠勤、生産性、所得などに大きな影響を与えていることを指摘してきました。

そして近年になっても、深刻な精神的不調のある人には25ポイントを超える雇用格差が残っています。

つまり、先進国はまだこの問題を解決できていません。

働けない人の生活をどう保障するのか。

働きたい人をどう労働市場につなげるのか。

一度働き始めた人が、どうすれば辞めずに続けられるのか。

企業にどこまで配慮を求めるのか。

その負担を社会がどこまで引き受けるのか。

そして、

「毎日、同じ時間、同じ能力を発揮できること」を前提とした働き方そのものを、どこまで変えられるのか。

精神障害者の雇用問題は、日本だけの問題ではありません。

福祉先進国でも、まだ答えは出ていません。

だからこそ、

「日本は遅れている」

「海外は進んでいる」

という単純な比較で終わらせるのではなく、

世界各国の成功と失敗の両方から学びながら、

働けないときには安心して生活でき、働けるときにはその能力を社会で生かせる。

そんな仕組みを探していく必要があるのではないでしょうか。

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