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第1回「フュージョン」って何だ?― 孫正義氏が語った、天然ガスの“次”を担うかもしれないエネルギー ―

1.きっかけは、SoftBank World 2026での孫正義氏の話

今回、フュージョンについて調べてみようと思ったきっかけは、SoftBank World 2026での孫正義氏の講演でした。

孫氏が語っていたのは、今から約15年後、2040年の世界です。

その中で特に印象に残ったのが、

「AIの計算能力は、これからどこまで大きくなるのか」

という話でした。

私たちが普段聞く大きな単位といえば、

キロ → メガ → ギガ → テラ

くらいではないでしょうか。

ところが、孫氏の話はその先へ進んでいきます。

ペタ → エクサ → ゼタ → ヨタ → ロナ → クエタ

……途中から、ほとんど聞いたことがありません。

特に「ロナ」「クエタ」という言葉は、初めて聞いた方も多いと思います。

ロナとクエタは2022年に新しく国際的なSI接頭語として追加された、非常に大きな単位です。

クエタは、

10の30乗。

つまり、

1の後ろにゼロが30個

並ぶ世界です。

孫氏は、現在の最先端AIチップから計算能力がさらに拡大し、

エクサ

ゼタ

ヨタ

ロナ

クエタ

へと進み、2040年には世界のAIデータセンター全体で、

QFLOPS(クエタフロップス)級

の演算能力に到達するという未来像を示しました。

FLOPSとは、

「コンピューターが1秒間にどれだけ浮動小数点演算を処理できるか」

を表す計算能力の指標です。

つまり「データ量がクエタになる」というより、

AIを動かすコンピューターの計算能力が、想像もできないほど巨大になる

という話です。


2.100兆個のAIと10億台のヒューマノイド

なぜ、それほど巨大な計算能力が必要なのでしょうか。

孫氏が描いている2040年の世界では、

100兆個のAIエージェント

が活動するといいます。

さらにAIは、パソコンやスマートフォンの中だけにいるのではありません。

AIがロボットの頭脳となり、

10億台規模のヒューマノイド

が現実世界で働く未来を予測しています。

工場。

物流。

建設。

介護。

農業。

サービス業。

さまざまな場所でAIとロボットが24時間働くようになったら、確かに社会は大きく変わります。

しかし、その話を聞きながら、私は一つ気になりました。

「でも、そのAIを動かす電気はどこから持ってくるのだろう?」

実は孫氏の話も、まさにそこへ進んでいきました。


3.AI時代の巨大な問題、「電気が足りない」

AIは魔法ではありません。

巨大なデータセンターに設置された大量の半導体を動かして計算しています。

AIが賢くなる

計算量が増える

半導体が増える

データセンターが巨大化する

電力消費が増える

という構造があります。

孫氏は2040年、世界のAIデータセンターの電力規模が、

3TW(テラワット)

に達すると予測しました。

3TWは、

3,000GW(ギガワット)

です。

AI時代のボトルネックは、

GPUだけではない。

半導体だけでもない。

「電気そのもの」

が巨大な制約になる可能性があるわけです。


4.そこで「天然ガス」、そしてその先に「フュージョン」

太陽光。

風力。

水力。

原子力。

さまざまな発電方法があります。

しかし、巨大なAIデータセンターを24時間365日動かすためには、

大量かつ安定した電力

が必要になります。

孫氏は、当面は天然ガスによる発電が重要になるという考えを示しました。

ところが、そのさらに先について語ったときに出てきた言葉が、

「フュージョン」

でした。

日本語では、

核融合。

私はここで引っかかりました。

「フュージョンって、そもそも何だ?」

言葉は聞いたことがあります。

でも、

「原子力発電とは違うの?」

「何を燃料にするの?」

「核と付いているけど危なくないの?」

「本当に発電できるの?」

「なぜ天然ガスの代わりになるの?」

と聞かれると、きちんと説明できません。

そこで今回、フュージョンについて一から調べてみることにしました。

すると、

AIの爆発的な進化

クエタ級の演算能力

巨大なデータセンター

爆発的な電力需要

天然ガス

そして、その先にフュージョン

という一本の線が見えてきました。


5.そもそも「フュージョン」とは?

まず、私自身も最初に勘違いしていたことがあります。

フュージョンは物質の名前ではありません。

Fusionとは英語で、

「融合する」

という意味です。

エネルギー分野でいうフュージョンとは、

Nuclear Fusion=核融合

のことです。

ものすごく簡単にいえば、

小さな原子核同士をくっつけて、そこから大きなエネルギーを取り出す

という仕組みです。

現在、有力な核融合反応として研究されているのが、

重水素(D)+三重水素(T)

という、水素の仲間同士を融合させる方法です。

核融合が起こると、

重水素+三重水素

ヘリウム+中性子+大量のエネルギー

が生まれます。

そのエネルギーを熱として取り出し、最終的に電気へ変える。

これがフュージョン発電の基本的な考え方です。


6.実は「太陽」と同じ仲間の反応

フュージョンを理解するうえで、一番分かりやすい存在があります。

太陽です。

太陽が何十億年にもわたって巨大なエネルギーを放ち続けている基本的な仕組みも、

核融合

です。

太陽の中心では、水素の原子核が融合してヘリウムへ変わる過程で、莫大なエネルギーが生まれています。

つまり人類が挑戦しているのは、

太陽や星がエネルギーを生み出す原理を、地球上で人工的に再現すること

ともいえます。

フュージョンが、

「地上に太陽をつくる」

と表現される理由です。


7.原子力発電とは何が違う?

「核融合」と聞くと、

「要するに原発の新しいタイプ?」

と思うかもしれません。

しかし、現在の原子力発電とは原理が違います。

現在の原子力発電は、

核分裂(Fission)

です。

ウランなどの重い原子核を、

割る。

そのとき発生するエネルギーを利用します。

一方、フュージョンは、

核融合(Fusion)。

水素などの軽い原子核を、

くっつける。

つまり、

現在の原子力発電
→ 大きな原子核を「割る」

フュージョン
→ 小さな原子核を「くっつける」

という違いがあります。

似た名前ですが、基本原理は反対方向なのです。


8.では、なぜ簡単に核融合できないのか?

ここまで読むと、

「水素をくっつければいいのでは?」

と思います。

ところが、これが猛烈に難しい。

原子核同士は、簡単には近づいてくれません。

そこで必要になるのが、

超高温

です。

地球上で効率的に核融合反応を起こすためには、方式にもよりますが、

1億℃級

という超高温のプラズマを作る必要があります。

1億℃。

鉄が溶けるどころの話ではありません。

当然、

「そんなものを入れておける容器なんてあるの?」

と思います。

ありません。

そこで登場するのが、

磁場

です。


9.1億℃のプラズマを「磁石」で閉じ込める

燃料を超高温にすると、

固体でも、

液体でも、

気体でもない、

プラズマ

という状態になります。

プラズマは電気的な性質を持つため、強力な磁場によって制御できます。

そこで巨大なドーナツ状の装置の中に、

1億℃級のプラズマを磁場で閉じ込める。

壁に直接触れないようにしながら、核融合反応を起こそうとするのです。

代表的なのが、

トカマク方式

です。

世界最大級の国際核融合実験炉、

ITER(イーター)

や、日本の

JT-60SA

なども、この磁場閉じ込め方式を採用しています。

そして巨大な磁場を作るために重要になる技術の一つが、

超伝導

です。

実はここから、日本企業の技術力の話にもつながっていきます。


10.レーザーで核融合を起こす方法もある

フュージョンには別のアプローチもあります。

代表的なのが、

レーザー核融合

です。

小さな燃料に非常に強力なレーザーを一気に照射し、

一瞬だけ、

超高温・超高密度

の状態を作って核融合を起こします。

つまり大きく見ると、

磁石でプラズマを閉じ込める方法

と、

レーザーなどで燃料を一気に圧縮する方法

があります。

さらに、それ以外にもさまざまな方式が研究されています。

ここで重要なのは、

まだ「どの方式が商用発電の勝者になるのか」は決まっていない

ということです。


11.燃料はどこから持ってくる?

核融合の有力な燃料候補の一つである、

重水素

は水素の仲間で、海水中にも存在しています。

一方、

三重水素(トリチウム)

は自然界から大量に調達できるものではありません。

そこで将来の核融合炉では、リチウムなどを利用して、核融合で発生した中性子からトリチウムを生み出す仕組みが考えられています。

非常に単純化すると、

海水など

重水素

リチウム

トリチウム

そして、

重水素+トリチウム

核融合

巨大なエネルギー

という世界です。

資源制約を大きく減らせる可能性があることも、フュージョンが注目される理由の一つです。


12.フュージョンなら脱炭素になる?

ここが、孫氏の話にもつながる非常に重要なポイントです。

核融合反応そのものでは、

石炭や天然ガスのように炭素を燃焼させません。

そのため商用化できれば、

大量の電力を供給しながら、発電時のCO₂排出を大幅に抑えられる

可能性があります。

太陽光や風力もCO₂削減には重要ですが、天候によって発電量が変動します。

フュージョンが実用化し、安定運転できれば、

大量・安定・低炭素

という、これまで非常に難しかった組み合わせを実現できる可能性があります。

AIデータセンターが世界中で増えていく未来を考えれば、非常に魅力的な電源です。


13.ただし、「完全に安全な夢のエネルギー」ではない

ここは冷静に見ておく必要があります。

フュージョンについて、

「放射性物質を一切使わない」

と理解するのは正確ではありません。

燃料として使われるトリチウムは放射性物質です。

さらに核融合反応によって発生する中性子が炉の構造材に当たり、

材料が放射化する

という問題もあります。

また、

1億℃級のプラズマを安定して維持する。

強烈な中性子に耐える材料を作る。

トリチウムを安全に管理する。

発電コストを下げる。

長期間運転できるようにする。

といった技術的課題も残っています。

つまり、

「夢のエネルギーがもう完成した」

わけではありません。


14.それでも世界は本気で開発を始めている

重要なのは、

フュージョンが研究室だけの話ではなくなってきた

ことです。

これまでは、核融合といえば国家主導の巨大研究プロジェクトというイメージが強い分野でした。

しかし現在では、

米国、

欧州、

中国、

日本などで、

国家だけでなく民間企業も開発競争に参入しています。

磁場閉じ込め。

レーザー。

独自方式。

さまざまな技術が競争しています。

つまり今は、

「核融合が可能なのか?」だけではなく、「誰が最初に経済的な発電所を作れるのか?」

という競争へ移り始めています。


15.日本も「2030年代の発電実証」を目指す

そして、日本も動いています。

日本政府は「フュージョンエネルギー・イノベーション戦略」を改定し、

世界に先駆けた2030年代の発電実証

を目標に掲げています。

さらに2026年8月には、

「フュージョンエネルギーの発電実証プロジェクトに向けたプロセス検討委員会」

の第1回会合も開催されました。

ここで重要なのは、

「2030年代に商用発電が世界中に普及する」

という意味ではないことです。

まずは実際に電気を生み出せることを実証する。

そこからコストを下げ、長期間安定して運転し、商用化につなげていく必要があります。

それでも、日本政府が明確に「発電実証」というところまで目標を置き始めたことは大きな変化だと思います。


16.そして日本企業も、すでに重要な場所にいる

ここからが、私にとってさらに面白いところでした。

核融合炉を作るためには、

超伝導磁石

真空装置

特殊金属

耐熱材料

レーザー

プラズマ加熱装置

トリチウム燃料サイクル

熱交換器

発電設備

など、非常に多くの高度な技術が必要になります。

そして調べていくと、

日本企業がすでに、その重要な部分に関わっています。

例えば、

三菱重工業。

古河電気工業。

東芝。

そして未上場企業では、

京都フュージョニアリング。

Helical Fusion。

EX-Fusion。

などがあります。

ここで重要なのは、

「最初に核融合炉を完成させる会社はどこか?」

だけではありません。

むしろ私が気になったのは、

「フュージョン時代に“なくてはならない日本企業”はどこなのか?」

ということです。


17.完成品メーカーだけを見る必要はない

これは半導体産業を考えると分かりやすいと思います。

NVIDIAはAI半導体を設計しています。

しかし、AI半導体を実際に大量生産するためには、

製造装置、

検査装置、

材料、

基板、

研削・切断装置、

洗浄装置など、

非常に多くの企業が必要になります。

その中には、

「この会社の技術がなければ、最先端半導体を作るのが難しい」

という企業があります。

フュージョンでも、同じことが起こる可能性があります。

核融合炉そのものを作らなくても、

超伝導磁石ならこの会社。

超伝導線材ならこの会社。

真空技術ならこの会社。

超高温に耐える材料ならこの会社。

レーザーならこの会社。

という企業が出てくるかもしれません。

つまり、

完成した核融合炉ではなく、その裏側にある「代替しにくい技術」を探す。

これが、フュージョン産業を見るうえで非常に面白い視点だと思います。


18.AIの話から始まり、フュージョンにたどり着いた

改めて今回の話を一本につなげてみると、

100兆個のAIエージェント

10億台のヒューマノイド

クエタFLOPS級の演算能力

巨大なAIデータセンター

3TW規模の電力需要

当面は天然ガス

脱炭素との両立

その先にフュージョン

となります。

SoftBank World 2026で孫正義氏の話を聞いたときには、

「クエタって何だ?」

そして、

「フュージョンって何だ?」

という二つの疑問から始まりました。

でも調べてみると、

AI。

半導体。

データセンター。

エネルギー。

脱炭素。

エネルギー安全保障。

日本のものづくり。

これまで別々に見えていたテーマが、一本につながってきます。


まとめ 「地上の太陽」は本当に実現するのか

今回調べたことを簡単にまとめると、

フュージョン=核融合は物質ではなく、軽い原子核同士を融合させる反応です。

太陽や星がエネルギーを生み出しているのと同じ仲間の原理を、地球上で利用しようとしています。

実用化できれば、

大量かつ安定した電力を供給しながら、脱炭素にも貢献できる。

そんな可能性があります。

一方で、

1億℃級のプラズマ制御

材料の耐久性

トリチウム管理

長時間運転

発電コスト

など、越えなければならない壁もまだたくさんあります。

だから私は、

「もうすぐ夢のエネルギーが完成する」

と考えるのは少し早いと思っています。

しかし、世界各国が開発を進め、日本政府も2030年代の発電実証を目標に掲げています。

単なるSFとして片付けるのも、もう違うように思います。

そして次に気になるのは、

「フュージョンは本当に、天然ガスに代わるほどのエネルギーになれるのか?」

ということです。

次回は、

第2回

フュージョンは本当に「夢のエネルギー」なのか?

― AI時代の電力不足と脱炭素を同時に解決できるのか ―

について調べてみたいと思います。

さらにその先では、

世界のフュージョン開発競争

日本は世界の中でどこにいるのか?

そして、

「フュージョン時代に“なくてはならない日本企業”はどこなのか?」

まで掘り下げていきます。

核融合炉そのものを作る企業だけではなく、

超伝導、真空、特殊金属、耐熱材料、レーザー、燃料サイクル――。

フュージョンという新しい産業が本当に立ち上がったとき、その裏側で必要不可欠になる日本企業を探してみたいと思います。

私自身、まだ勉強を始めたばかりです。

だからこそ、読者の皆さんと一緒に、

「フュージョンとは何なのか」

から一つずつ追いかけていきたいと思います。

※本記事は2026年8月時点の公開情報をもとに作成しています。

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