第3回フュージョン産業で日本企業は勝てるのか?― 超電導・レーザー・特殊材料・精密機器。「日本のものづくり」が活きる場所 ―
「フュージョンが実用化したら、結局どの企業が儲かるんだろう?」
ここまで第1回、第2回とフュージョンについて調べてきて、私自身が一番気になってきたのがここです。
フュージョン発電というと、
「米国や中国の巨大プロジェクトの話では?」
という印象を持つかもしれません。
実際、世界では米国、中国、欧州などが巨額の資金を投入し、開発競争を進めています。
しかし、フュージョン炉を少し分解して見ていくと、別の景色が見えてきます。
必要になるのは、
超電導 高出力レーザー 特殊材料 真空技術 精密加工 計測機器 大型構造物 熱交換・発電設備
など。
「あれ? これって日本企業が得意なものが多いのでは?」
そうなんです。
フュージョンでは、炉そのものを開発する企業だけでなく、
「フュージョン炉を構成する部品や装置を供給する企業」
にも巨大なビジネスチャンスが生まれる可能性があります。
今回は、
フュージョン時代に恩恵を受ける可能性のある日本企業
を具体的に見ていきます。
1.フュージョンは「巨大な精密機械」
まず大切なのは、
フュージョン炉は一つの技術だけでは完成しない
ということです。
例えば磁場閉じ込め方式では、1億℃を超えるような超高温のプラズマを扱います。
当然、普通の金属容器に入れることはできません。
強力な磁場を作ってプラズマを閉じ込める。
そのためには巨大な超電導磁石が必要になります。
さらに、
・超高真空を作る
・プラズマを加熱する
・中性子を受け止める
・発生した熱を取り出す
・トリチウムを回収する
・炉内の状態を計測する
・巨大な構造物を高精度で組み立てる
といった技術が必要です。
つまりフュージョン炉は、
「巨大な発電所」+「超精密機械」+「極限環境設備」
のような存在です。
ここに日本企業のチャンスがあります。
2.実は日本企業はすでにフュージョン産業に入っている
フュージョンは「未来の産業」と思われがちですが、日本企業はすでに長年この分野に関わっています。
代表例が国際熱核融合実験炉、
ITER(イーター)
です。
ITERでは日本、EU、米国、中国、韓国、インド、ロシアなどが協力して巨大な核融合実験炉を建設しています。
日本はその主要参加国の一つです。
ITER関連では、
三菱重工業
三菱電機
東芝エネルギーシステムズ
日立製作所
古河電気工業
アライドマテリアル
有沢製作所
日本製鋼所系企業
など、多くの日本企業が実際に機器や材料の開発・製造に関わってきました。
つまり日本には、
「フュージョン炉を実際に作った経験を持つ企業群」
がすでに存在しています。
これは大きな財産です。
3.日本の強み① 超電導
まず注目したいのが、
超電導技術
です。
磁場閉じ込め型フュージョンでは、非常に強力な磁場によってプラズマを閉じ込めます。
その中心になるのが超電導磁石です。
ITERの巨大なトロイダル磁場コイルでも、日本企業は重要な役割を担ってきました。
例えば、
古河電気工業(5801)
です。
古河電工はITER向けに超電導ケーブルを供給した実績があります。
さらに同社は、
低温超電導(LTS) だけでなく、 高温超電導(HTS)
にも取り組んでいます。
フュージョン炉の小型化・高性能化では、より強力な磁場を作れる高温超電導が重要になる可能性があります。
つまり古河電工は、
光ファイバー
電力ケーブル
データセンター
次世代電力網
だけではなく、
フュージョン
という長期テーマまで持っていることになります。
ただし注意したいのは、現在の古河電工の売上に占めるフュージョン関連はまだ非常に小さいということ。
現時点では、
「フュージョン専業企業」ではなく、「フュージョンという巨大なオプションを持つ素材・インフラ企業」
と見る方が適切でしょう。
4.日本の強み② 巨大な装置を高精度で作る
次に重要なのが、
大型精密機械
です。
ここでは、
三菱重工業(7011)
が登場します。
ITERの超電導コイルは、とにかく巨大です。
しかも、
「巨大なら多少ズレてもいい」
わけではありません。
巨大なのに、極めて高い精度が要求されます。
三菱重工は三菱電機などとともにITER向け超電導コイル製作に携わってきました。
これは、
航空機
ロケット
ガスタービン
原子力設備
などを作ってきた日本の重工メーカーだからこそ対応できる領域でもあります。
フュージョン発電所が本格的に建設されるようになれば、
巨大構造物を高精度で製造・組み立てる能力
そのものが競争力になる可能性があります。
5.東芝もフュージョンの重要プレイヤー
東芝エネルギーシステムズ
もITER向けの大型超電導コイルを製造してきました。
日本が担当するITERのトロイダル磁場コイルでは、三菱重工・三菱電機だけでなく東芝も重要な役割を担っています。
つまり日本には、
「超電導線材を作る企業」
だけでなく、
「それを巨大な磁石に仕上げる企業」
まで存在しています。
素材から装置までサプライチェーンがある。
これはフュージョン産業を考える上で非常に重要です。
6.日本の強み③ レーザー
フュージョンには磁場方式だけではありません。
もう一つ注目されているのが、
レーザーフュージョン
です。
小さな燃料ターゲットに強力なレーザーを集中させ、一気に圧縮・加熱して核融合反応を起こします。
ここで面白い日本企業があります。
浜松ホトニクス(6965)
です。
浜松ホトニクスは1970年代からレーザーフュージョン研究に関わっており、
・高出力レーザー
・半導体レーザー
・燃料ターゲット
・光検出器
・計測装置
など幅広い技術を開発しています。
さらに2025年には、
EX-Fusionと共同で、大出力パルスレーザーを1時間にわたり連続してターゲットへ照射する実験に成功
しました。
研究用のレーザーを一発撃つだけならできても、
発電所にするには、
「何度も、何度も、正確に撃つ」
必要があります。
この違いは非常に大きい。
レーザーフュージョンが商用化へ向かえば、
浜松ホトニクスは日本株の中でもかなり直接的な関連企業
になる可能性があります。
7.日本発のスタートアップ「EX-Fusion」
そして浜松ホトニクスと共同開発しているのが、
EX-Fusion
です。
大阪大学発のスタートアップで、
レーザーフュージョン商用炉
の実現を目指しています。
ポイントは、単純に「巨大レーザーを作る」だけではないこと。
レーザーを燃料ターゲットへ正確に当てる、
光制御技術
も重要です。
将来のレーザーフュージョン発電では、小さな燃料ターゲットへ高頻度で正確にレーザーを照射し続ける必要があります。
EX-Fusionは、こうした技術の開発を進めています。
まだ未上場企業ですが、
日本のレーザーフュージョン産業を見る上では外せない企業
でしょう。
8.日本の強み④ 特殊材料
ここから少し地味になります。
でも私は、この「地味な部分」こそ日本企業が面白いと思っています。
フュージョン炉の内部では大量の中性子が発生します。
炉壁には、
高温
中性子
強烈な熱負荷
という非常に厳しい環境が襲いかかります。
そこで必要になるのが、
タングステンなどの特殊材料
です。
ITERの日本企業リストには、
アライドマテリアル
も入っています。
アライドマテリアルはタングステンなどの高融点材料を扱う企業です。
フュージョン炉では、
「極限環境に耐える材料」
そのものが重要な技術になります。
半導体でもそうですが、
最先端産業になるほど、
「材料の性能が装置全体の性能を決める」
ケースが増えていきます。
フュージョンでも同じことが起きる可能性があります。
9.日本の強み⑤ 計測機器
そしてもう一つ、日本企業が得意なのが、
計測
です。
1億℃を超えるプラズマを直接見ることはできません。
温度はどうなっているのか。
密度はどうなのか。
不純物は入っていないか。
核融合反応はどの程度起きているのか。
これらを正確に測定しなければ、炉を制御できません。
この領域では、
堀場製作所(6856)
など、日本の計測機器メーカーにも注目できます。
J-Fusionの産業界イベントにも堀場製作所は協力企業として参加しています。
フュージョンが高度化するほど、
「測る技術」
の重要性は高くなります。
半導体製造装置でも、
作る技術だけでなく、
「測る・検査する技術」
を持つ企業が高い競争力を持っています。
フュージョンでも似た産業構造になる可能性があります。
10.日本の強み⑥ フュージョン版「つるはし企業」
そして私が非常に面白いと思っているのが、
京都フュージョニアリング
です。
京都大学発のフュージョンスタートアップです。
この会社は、
「自分たちだけでフュージョン炉を作る」
というより、
世界中のフュージョン企業に必要な装置・システムを供給する
という立ち位置を取っています。
例えば、
・プラズマ加熱装置
・ジャイロトロン
・トリチウム燃料サイクル
・ブランケット
・熱サイクル
など。
つまり、
トカマク方式が勝っても、
別の磁場閉じ込め方式が勝っても、
世界中でフュージョン炉が建設されればビジネスになる。
いわば、
フュージョン版「Picks & Shovels(つるはし企業)」
です。
そして2026年8月、京都フュージョニアリングはシリーズDで、
エクイティ167.2億円を含む総額257.2億円
の資金を確保したと発表しました。
さらに同社はジャイロトロンの量産体制を構築し、
短期的に売上高100億円規模
を目指しています。
フュージョンがまだ発電していない段階から、
「フュージョンを研究・開発する企業に装置を売る」
というビジネスが始まっているのです。
これは非常に重要なポイントだと思います。
11.日本独自の方式「Helical Fusion」
さらに日本には、
Helical Fusion
というスタートアップもあります。
名前の通り、
ヘリカル型
と呼ばれる方式を使ったフュージョン炉を目指しています。
日本では岐阜県の核融合科学研究所などで、長年ヘリカル方式の研究が蓄積されてきました。
世界で主流のトカマク方式とは異なるアプローチですが、
長時間の安定運転に向く可能性がある
という特徴があります。
つまり日本は、
レーザー
トカマク関連技術
ヘリカル
と複数の方式に技術基盤を持っています。
どの方式が最終的な勝者になるか分からない現在、
これは意外に重要です。
12.フュージョン産業は「半導体産業」に似るかもしれない
ここまで調べていて、私は一つ面白いことに気づきました。
フュージョン産業は将来、
半導体産業に似た構造になる可能性がある
のではないでしょうか。
半導体では、
NVIDIA
TSMC
Intel
だけが儲かっているわけではありません。
その周囲には、
東京エレクトロン
SCREEN
レーザーテック
TOWA
イビデン
信越化学
など、
装置・材料・検査・部品を供給する巨大なサプライチェーンがあります。
フュージョンでも同じことが起こるかもしれません。
フュージョン炉を開発する企業。
その周囲に、
超電導
レーザー
特殊材料
真空装置
計測機器
精密加工
大型構造物
熱交換器
を供給する企業群が形成される。
そう考えると、日本が狙うべきなのは必ずしも、
「世界初のフュージョン発電所を日本企業が作ること」
だけではありません。
むしろ、
世界中で建設されるフュージョン炉に、日本企業の部品・材料・装置が入る
という未来の方が現実的かもしれません。
13.では、どの日本企業に注目する?
ここまでを大まかに整理してみます。

こうして並べると、
日本にはかなり広いフュージョン・サプライチェーンが存在する
ことが分かります。
14.ただし「フュージョン関連株」という言葉には注意
ここは投資家として非常に重要です。
例えば古河電工がフュージョン関連技術を持っているからといって、
「フュージョン発電が伸びれば古河電工の利益がすぐ急増する」
という話ではありません。
現在の売上の中心は別の事業です。
三菱重工も同じです。
フュージョンは数多くある事業の一つにすぎません。
一方、
京都フュージョニアリング
EX-Fusion
Helical Fusion
などはフュージョンそのものが会社の成長ストーリーです。
つまり企業を見るときには、
①フュージョンへの技術的な近さ
と、
②フュージョンが会社業績に与えるインパクト
を分けて考える必要があります。
ここを混同すると、
「フュージョン関連銘柄だから買う」
というテーマ投資だけになってしまいます。
15.日本企業はフュージョンで勝てるのか?
では今回のタイトル、
「フュージョン産業で日本企業は勝てるのか?」
に戻ります。
私は調べれば調べるほど、
十分に勝てる場所はある
と感じています。
ただし、
「日本企業が世界を代表するフュージョン炉メーカーになる」
という勝ち方だけではありません。
むしろ、
超電導は日本。
レーザーは日本。
特殊材料は日本。
精密加工は日本。
計測装置は日本。
そんな形で、
世界中のフュージョン炉に日本製の部品や装置が使われる
という勝ち方です。
これは半導体産業で日本企業が得意としてきた戦い方にも似ています。
完成品では世界首位でなくても、
「これがなければ作れない」
という重要部材や装置を握る。
フュージョンは、
日本のものづくりがもう一度世界で存在感を示せる産業になるかもしれません。
16.フュージョンは「発電する前」から産業になる
そして今回調べて最も印象が変わったのがここです。
以前の私は、
フュージョン発電が実用化する
↓
発電所が建つ
↓
企業が儲かる
という順番をイメージしていました。
でも実際は違います。
世界各国がフュージョン開発を競争する。
↓
実験炉や実証炉を建設する。
↓
超電導磁石、レーザー、材料、計測装置、加熱装置が必要になる。
↓
その時点ですでに市場が生まれる。
京都フュージョニアリングがジャイロトロンの量産化を進めているのは、その象徴でしょう。
つまり、
「フュージョン発電が完成するまで市場はゼロ」ではない。
むしろ世界的な開発競争が激しくなるほど、
研究設備・実証炉・部品・材料への投資は増えていく可能性があります。
17.まとめ
今回、日本企業を調べてみると、
フュージョンは決して、
「海外の巨大スタートアップだけの話」
ではないことが分かりました。
日本には、
超電導
レーザー
特殊材料
精密加工
大型機械
計測
プラントエンジニアリング
という強力なものづくり基盤があります。
しかもITERなどを通じて、
すでに実物を作ってきた企業が存在します。
AI・半導体産業で、
GPUそのものだけではなく、
半導体製造装置や材料企業が大きく成長したように、
フュージョンでも、
「炉を作る企業」より「世界中の炉に装置や材料を売る企業」
の方が投資対象として面白くなる可能性すらあります。
では、その中で、
実際に日本株として投資できる企業はどこなのか?
古河電工なのか。
浜松ホトニクスなのか。
三菱重工なのか。
それとも、まだ市場がほとんど評価していない企業があるのか。
シリーズ最終回では、
「フュージョン関連日本株」を投資家目線で比較
してみたいと思います。

次回・最終回
第4回
フュージョン時代の「日本株」を探す
― 古河電工・浜松ホトニクス・三菱重工…本当に恩恵を受ける企業はどこか? ―
「フュージョンに関わっている企業」と、
「フュージョンが成長したとき業績が大きく伸びる企業」
は同じではありません。
最終回では日本の上場企業を中心に、
フュージョン関連度 技術の競争力 市場規模 本業とのシナジー 業績へのインパクト 商用化までの距離
という視点から比較し、
「フュージョン時代に本当に注目したい日本企業」
を探してみます。
※本記事は特定の企業・銘柄への投資を推奨するものではありません。フュージョンエネルギーは研究開発段階にあり、技術方式や商用化時期には大きな不確実性があります。
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最後までお読みいただきありがとうございます。いただいたご支援は記事制作を続ける力となり、その一部をUNICEFをはじめ、子どもたちを支える団体への寄付に活用させていただきたいと思います。