Naim NAIT XS 3 の PRaT を、Bristol で身体で覚えた感覚から書き起こす
Bristol Hi-Fi Show、Audio T のデモルーム
留学 2 年目の冬、同級生に Bristol Hi-Fi Show に連れて行かれた。Audio T のデモルームで足を止めたのは、Spendor のスタンド型ブックシェルフ Classic 1/2 と、Naim の統合アンプ NAIT XS 3 が、Joni Mitchell の「Both Sides Now」 を流していた瞬間でした。
ボーカルが部屋の中で立ち上がって、椅子に座っていた自分の正面まで歩いてきた。霧の朝に毛布で肩を包まれるような暖かさで、それは 14 年越しに、子どもの頃に親戚の叔父さんの家で聴いた中域の感覚と地続きで繋がっていきました。同時に、ボーカルだけでなく、ピアノの一打ち一打ちが時間軸の上に綺麗に並んでいて、足が勝手にタップしてしまうような推進力もあった。中域の艶と、リズムの推進力が同居している感覚を、その瞬間に身体で受け取りました。
そこから自分の中で「PRaT」 という言葉と、Bristol のデモルームで身体が反応した感覚が、固く結びついていきました。
PRaT の公式説明と、自分の体感のズレ
PRaT は Pace, Rhythm and Timing の略で、Naim 哲学の中核と言われる概念です。ただ、説明しようとすると言葉が滑ります。「リズムの推進力」「タイミング精度」 と書いても、それは抽象に着地して、聴かない人には伝わりません。
自分の体感で言うと、「足が勝手にタップする」「音楽が前に進む」 という身体反応で、数値で語れる種類のものではないと思います。Naim のアンプは、低域のキレと中域の押し出しのタイミングが、他のアンプと違う方向を向いている。それが「リズムが立つ」 という形で身体に伝わってくる。
「PRaT は宗教だ」「測定では出ない」 と批判する界隈もあって、その言葉も分かります。ただ、自分は Bristol で身体が反応した経験から逆算して聴き取れる側に立っているので、それを「ない」 とは言えません。測定で出ない種類の質感もある、と思いますよ。
緑 LED と DIN コネクタという、英国製の佇まい
Naim の機材は、緑の LED と独特の DIN コネクタという、ひと目で見分けがつく外観をしています。Salisbury 工場の英国製で、手仕事の痕跡が残るデザインも、Naim 哲学の一部だと自分は感じます。
機能面だけで選ぶなら、似た価格帯で別の選択肢もあると思います。ただ、NAIT XS 3 を「5 年後の軸足アンプ」 として置く前提で考えると、デザインの落ち着きも合算する要素になります。ヴィクトリア朝煉瓦造りに似た、経年で味わいが増す系統の質感。机の上に置いてあるだけで「あ、Naim だ」 と分かる外観は、長期所有を前提にしたブランドの強みだと思います。
ヘッドホンで PRaT を再現する難しさ
自分が普段使っている ifi のヘッドホンアンプ専用機 ZEN CAN 3 でも、PRaT のような時間軸の説得力は手前まで来ますが、本物には届かない、と感じます。
PRaT は DAC や AMP 単体の話ではなく、システム全体の時間軸が同じ方向を向いて初めて出てくるもの、という気がしています。スピーカーの低域の応答、アンプの電源の余裕、DAC のジッター特性、ケーブルの選択、それらが全部 Naim 系の哲学で揃った時に、「リズムが部屋に立つ」 という現象が起きる。
ヘッドホンで聴くと、PRaT は絹のスカーフが肌の上を流れていく軽さで届きます。それはそれで気持ちいいのですが、部屋全体に立ち上がるリズムの実体感までは届きません。だからこそ、5 年後にスピーカーシステムで PRaT を再現したいという、自分の動機の核心が今でも残っています。
5 年後の本命としての NAIT XS 3
5 年から 7 年スパンで、Spendor Classic 1/2 + Naim NAIT XS 3 のシステムを組む計画を、今の自分は持っています。段階的構築の頂点近くに来る組み合わせで、留学中に Bristol で身体に染み込んだ感覚を、そのまま家の部屋の中に持ち込めると思っています。
道筋としては、デスクトップで完結する ifi の ZEN ラインから、Cambridge Audio の統合アンプ CXA81 MkII あたりを経由して、最終的に Naim の NAIT XS 3 に着地する。Spendor の中域は途中で Classic 4/5 や A2.2 で試しながら、最終的に Classic 1/2 に到達する。深い森の地面を踏みしめるような重さで、システムが自分の生活と一緒に育っていく前提です。
短期で揃えるシステムではなく、長期で身体に馴染ませていく系統。これは留学中に Bristol で身体で覚えた、英国オーディオの時間感覚そのものだと思います。
自分にとっての英国オーディオ
自分にとっての英国オーディオは、数値ではなく身体の記憶に紐づくものです。PRaT は数値で測れないけれど、Bristol で身体が反応した瞬間がすべてだったし、これからもその基準で機材を選び続けます。
BBC モニターの中域、Naim の PRaT、ifi の Burr-Brown — この 3 軸が交わる地点に、段階的に近づいていく。それが自分にとっての英国オーディオの軸の置き方で、Naim はそのうちの「時間軸の説得力」 を担う柱として、5 年後の地図の中央に置いてあります。
