【1978話】 堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第三部 六章 リベルタドーレス ~解放者たち~
1978.うんちく 其の弐
彼等の立場になってみれば地上は掛け値無しに地獄、戦場であり、容赦無い蹂躙の場所なのだ。
クモやカマキリ、小鳥やコウモリ、散歩中の可愛らしいワンちゃんですら彼等を殺害する事に一切の躊躇を見せない。
それらの魔の手から逃げ果せて都市部に入った個体は人間の子供に追い回された挙句に捕まり、哀れ虫かごの牢獄に囚われたまま生涯を閉じるのだ。
せめて子作りを!
そう願った所でカゴの中ではそれも叶わない。
大声で雌を呼んだ声も屋外に届く事無く、やがて静寂となるのだ。
運良く捕食や虜囚を回避して子作りを果たした者にも過酷な試練は続く。
雄は力尽きて例外無く死ぬ。
覚悟の上だ。
勝って来るぞと勇ましく誓って国を出て来たのだ…… 合掌。
身篭った雌も同様に運命の荒波に揉まれる事になる。
声を持たぬ彼女達は孕んだ直後から四方八方に飛び離れる。
多様で広範な場所に分散して産卵する事で、少しでも多くの子孫を生き長らえさせる為、自分が生まれて以来初めて目にした地上を、文字通り手探りで本能と勘と想像力だけを頼りに良かげな地面にまっしぐら、言わば特攻を掛けるのである。
当然、この間も天敵達は殺戮の手を緩めたりはしてくれない、声無き彼女等は無言のままで無念の死を迎え続けるのだ。
幸運にも他のセミが産みつけていない地面に辿り着いた雌も又、力を使い果たして身罷る事に変わりは無い。
但しこちらは役目を果たし終えた満足な死かも知れない、仮に我が子を産みつけた場所が狭く儚いプランターであっても、だ…… 合掌。
そう考えれば、彼等にとって地上に出る行為は命懸け、いや必死であり、人間に置き換えれば姥捨てや人身御供、オーディエンスの皆さんの時代で言えば終活に近いのかも知れない。
苦痛と恐怖と死に満ちた地上での数日間、溢れんばかりの使命感と共に確実な終りに向けて叫び続け飛び続ける小さき命。
可哀想と想う事が如何に見当違いかお判り頂けただろうか?
セミの最後の七日間、それは玉砕に近い滅私の奉公、綿々と繰り返された先祖から託された務めに対する責任、そして未来に託す想い故なのである。
塩辛くて危険な海に何年もいて、漸く帰ってきた故郷の川なのに産卵してすぐ死んじゃうなんて…… 鮭可哀想っ! イクラ美味しいっ!
ずっと独りっきりで生きてきて、やっと出会えた運命の彼女に食べられてカマキリカワイソス……
煩っいっなぁっ! セミの奴、意味無くミンミン鳴き捲りやがってぇっ! ムカツクぜっ!
お判りだろうか? 生き物の生態や生息域、食性はてんでバラバラ、強引に擬人化しても無意味なのである。
同じ事が人間同士でも言えるだろう、宗教の教義とか食生活やライフスタイルまで多種多様だ。
他人に自分の価値観を無理に押し付ける…… こっちが正しくてそっちは間違っているから? そんな傲慢さに通じるのが、セミ可哀想理論なのである。
七日でポトリと落ちて死ぬ、セミ全体では小鳥に食べられる個体のが断然多い、もう圧倒的だ。
だから? 鳥を殺すの? どっかの敬虔な信徒みたいに? 鳥は鳥で可哀想じゃね? なのだ。
お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です。
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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