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【連載小説】堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~

あらすじ・目次 


第三部 六章

リベルタドーレス ~解放者たち~

1180.朝三暮四


 少し気分を変えてみよう。
 観察の視点は皆さんの時代から二千年以上の時を遡る。
 場所は中華の中原、春秋戦国と言われる時代の名も無き戦場である。

 時代の前半に当たる春秋の宋の国に狙公そこうと呼ばれる人がいた。
 はましら、猿を顕す言葉で狙公とは猿を率いる者、転じて皆さんの時代では猿回しを指す。
 余談ではあるが狙は人の目を盗んで物を掠め取るしからんものの意でもあり、皆さんの時代の狙撃手、潜んでターゲットを害する人物等に使用されてもいる。

 背景となる春秋時代は後に来る戦国時代と比べて何事につけて礼を重んじる時代であった。
 周王室が力を失って久しいとは言え、あらゆる事が礼を尊んで行われ、戦の場に於いてもそれは変わらなかったのである。

 宋法に基づいて編成された軍用は、彼我で兵から車の数まで合わせて行われ、敵に倍する軍事力を用いる事や開戦前の武勇示威を省く行為、直接馬などの獣に乗る事などは礼を失する卑怯匹夫ひきょうひっぷの行いとされたのだ。
 そんな時代に生き、活躍したのが狙公である。

 狙公が率いた狙は無論猿ではなく人間であり、それぞれが小戎しょうじゅうと呼ばれる五十人の兵を率いる立場であったと言われている。
 ならば何故、人である彼らが動物であるましらの如く狙と呼ばれているのか?
 理由は彼らが人ではなく、獣だと判断されていたからに他ならない。

 話の流れで勘の良い諸兄は既にお気付きかもしれない。
 彼等は狙公の命に依って、同種食らいを実践し、それぞれが尋常で無い能力を有していたと言う。
 夜目が効く者、他人に数倍する膂力りょりょくを持つ者、獣に酷似した爪や牙、角を有した者、異能力戦士と表現しても良いのかも知れない。

 繰り返しになるがあらゆる場面で礼を重んじた時代である。
 孫武が記した孫子の兵法ですら、勝ちを至上とする無礼な思想と断じられる時代なのだ。
 周の法で禁忌とされた手段で作り上げられた超人軍団は、当然の様に礼を失する無礼者と見られ、率いる狙公は後の世まで猿回しと揶揄される事となってしまった。

 ここで狙公と狙に纏わる故事を一つご紹介しておこう。
 朝三暮四、お聞きになった事があるだろう。
 杞憂や多岐亡羊で有名な戦国時代の列子、てい列禦寇れつぎょこうの手による書に記された故事である。
 内容は至ってシンプルなものだ。

 狙を沢山飼っていた狙公は生活に窮してしまった。
 狙公は思案した末に狙達に食料を減らさざるを得ない事を打ち明けて協力を頼む。
 朝夕四つづつ与えていたトチの実を、朝三つ、夕方に四つにして欲しいと……

 この提案を聞いた狙達は色めきたって苦情を口にしたのだ。
 朝のトチが三つではとても足りない、と。
 狙の言わんとする事は理解できるが、倉庫のトチはどうやっても足りないのだ。

 答えに窮した狙公は提案の内容を少しだけ変える事にした。

『では朝は今まで通り四つ、夕方を三つとしよう、それでどうだろうか?』

 ………………

 狙、猿たちはこの提案に手を打ち鳴らして喜んだと言う。

 概略では有るが列子にある朝三暮四はこんな内容である。
 この故事は日本では、口先で人を惑わせる詭弁きべんとして有名だ。
 しくは、大差無い事をさも大仰に言って他人を騙す者、又はそんな提案に注意を促す、多くは他者の代案を否定する場合などに使われる事が多いようだ。



お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です('v')
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、
皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。

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