【2292】 堕肉の果て ~令和に奏でる創造の序曲(プレリュード)~
第三部 六章 リベルタドーレス ~解放者たち~
2292.苦い記憶
ペジオの脳裏には幼い頃の幸福寺での体験、主に魔獣達に横綱と呼ばれていた肥満女性から受けたシゴキの恐怖が蘇っていた。
境内に設えられた本格的な土俵でやりたくもないぶつかり稽古を強要された日々。
無様に転がされ続けた経験は無論、筋肉馬鹿のアスタロトや善悪和尚に対してのトラウマもしっかり心に刻み付けてはいる。
しかし、圧倒的な肉量を誇るおかみさん、コユキに比すればPTSDの度合いは軽い…… せいぜいノートに殺害計画を書き溜めたり静かで景色がいい場所なんかでまったりすれば症状は改善できるレベルの心的外傷だ。
コユキが焼き付けた心的外傷後ストレス症は強烈だった。
無駄に正確な土俵は十五尺、直径四.五五メートルである。
当時のペジオにはこの数メートルが永遠に思えた。
回れば無限…… これは土俵際まで追い詰められた力士の体捌きやフットワークの軽快さを評する言葉だがコユキには意味が違っていた。
ぶつかり、とか言ってはいるが、そもそも触れる事すら出来ない、それがコユキとの稽古であったのだ。
開始の合図と同時に姿を掻き消したデブは不気味な声だけを周囲に響かせ、不意に残像と共に姿を顕してはからかう様に繰り出す叩き、これが異常に重く毎回気が遠くなるのである。
たまらず身を投げ出して土俵に倒れようとしてもどこからか出現したゴン太い腕に掴まえられてそれすら許されない。
仕方なく見えない声だけを追い続け、叩かれ、諦め掛けては又引き起こされて追い、叩かれの繰り返し…… 土俵の周りではそんな自分の姿を見て腹を抱えて嘲るフィギュアとアミグルミ、そして不法な博打に盛り上がる悪魔と下種な人間たちの野次の嵐……
結果、当時に似た音や景色に出会った時、ペジオは異常な程過敏に反応したり極端な凶暴性を発揮、時には物陰で身を潜め長い時には数日間もそのまま隠れて震え続ける様になってしまったのである。
例のマロとの合体後、パラメーターをウサギだけにした後も症状の改善は無かった。
寧ろ、草食動物由来の警戒心が乗算された事で悪化した気すらする。
唯一の救いは草食によって肉を食べなくて良くなった事だ、獣肉は忌まわしいあの女、コユキを思い出すからなるべく避けたりしていたのだ。
あくまでも自称、しかも当時禁制だった女性、多分女性だったとは思う、なんちゃってではあったが彼女は自らを横綱と呼ばせていた、ケダモノ共に……
ペジオのトラウマには、綱に対する苦手意識がはっきりと今も尚、ジクジクした疼痛を伴いながら息づいていたのである。
お読みいただきありがとうございます。
感謝! 感激! 感動! です。
まだまだ文章、構成力共に拙い作品ですが、皆様のご意見、お力をお借りすることでいつか上手に書けるようになりたいと願っています。
これからもよろしくお願い致します。
拙作に目を通して頂き誠にありがとうございました。
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