7.雨宿り一人と一匹
ーーぽつり。
「あ」
無人の荒野の真ん中の、終わりの見えない一本道。
その途中にあったバス停でバスを待っていたら、ぱらぱらと雨が降ってきた。
「どうしよう……」
傘なんて持っていないし、雨宿りできそうな場所もない。
水に濡れると浸水するから、通学カバンも使えない。
おろおろしているうちに、だんだん本降りになってきた。
もう旅なんてやめようかなーーそんな弱気なことを考えた瞬間、背後に誰かの気配を感じた。
振り向いたそこにいたのは、ぼろぼろの外套をまとった背の高い人影。
骨のように白くて細い腕以外は全身が外套に隠れていて、フードのせいで顔も見えないから性別すらわからない。
だけどわたしは、以前この人に会ったことがある。
たしか、カロンって名前だったはず。
「こんにちは」
「…………」
あいさつしてみたけど、予想どおり返事は返ってこなかった。
でも、無視されているわけじゃないような気がする。
「雨、強くなってきましたね」
「…………」
適当に話題を振っても、やっぱり何も答えてくれない。
「…………」
「…………」
「……っくしゅん」
じっとカロンを眺めていたら、唐突にくしゃみがでた。
鼻水をすすりながら、自分を抱きしめるようにして両腕をさする。
すると、一瞬だけ目を離したその隙に、カロンはわたしの鼻先に回り込んでいた。
「うわ」
音も気配もまったくなかったから、ちょっとびっくりしてしまう。
目を見開いて硬直するわたしの前で、カロンは無言のまま外套の合わせを開いた。
「……え?」
そこに広がっていたのは、虚ろな闇。
波止場で助けてもらったときとまったく同じ、空っぽな中身。
「…………」
「入っていい、ってこと?」
「…………」
やっぱり返事はない。
うなずいたり肩をすくめたりもしない。
「わたし、もうびしょびしょだけど」
「…………」
カロンは時が止まったみたいに微動だにしない。
「……じゃあ、お邪魔します」
「…………」
おずおずと外套の中に潜り込む。
真っ暗で広さのはっきりしないその空間は、ちょっとだけ暖かくて、なつかしいような知らないような、不思議な匂いに満ちている。
「にゃあ」
「あ」
先客が一匹。
ちっちゃな三毛猫。
えらそうに丸くなってくつろいでいた。
「おいでおいで」
「にゃあ」
手を差し伸べると顔をこすりつけてきたから、両手で優しく抱き上げて、鼻と鼻をぐりぐりってして遊んでみる。
「おまえも雨宿りさせてもらってるの?」
「にゃあ」
「にゃあ、じゃなくてさ」
「見りゃわかんだろばーか」
「え?」
「にゃあ」
一瞬、猫が口をきいたような気がしたけど、よくよく考えてみたら、わたしが一人二役をしただけだった。
「ねえ、なんか言ってよ。つまんないよ」
「にゃあ」
言葉の通じないわたしたちは、カロンの外套にすっぽりと身を潜めて、来るんだか来ないんだかわからないバスを延々と待ち続けた。
