見出し画像

『Buffalo '66』(私的洋画レビュー #1)

前置き:DVD映像ソフトの普及

2000年にゲーム機「PlayStation 2(以下プレステ2)」が発売された。
プレステ2の売りとして、当時の最先端技術を駆使した美しい3D映像が人々の度肝を抜いた。

それとは別の売りがあった。それはDVDプレーヤーとしての機能だ。当時の一般的なDVDプレーヤーは大変高価であり、一般の人達がVHSではなくDVDで鑑賞する敷居は高かった。プレステ2も決して安い値段ではなかった。しかし、他のDVDプレーヤーと違い、明らかに安価であった。プレステ2の爆発的なヒットにより、日本におけるDVDソフト鑑賞の人口は大幅に増加した。

DVDソフトを楽しめやすいということで、あるプレステ2のガイドムックの一冊では、洋画邦画アニメ問わず、DVDとして発売されている作品の紹介ページがあった。当時の俺はそのムックを買い、その10ページ以上はあったと思われるDVD紹介にも目を通した。

前置きが大変長くなったが、そのムックで紹介されていた作品の中に、『Buffalo '66(バッファロー シックスティシックス)(以下バッファロー)』があったのだ。

俺を見つめてきた、あのポートレイト

『Buffalo '66』本ポスター

ヴィンセント・ギャロのどこか寂しそうで曇りのない眼、クリスティーナ・リッチの小悪魔な表情。ムックのDVDソフト紹介ページに載っているジャケットデザインの中で、この二人のこちらを見つめる姿がとても印象に残った。ムックを読んでる俺を、彼と彼女が目で呼び止めた気がした。二人の正面を見据えたこのポートレイトは、本ポスターや前述のDVDソフトのジャケに使用された。

10歳過ぎて数年程度の当時、俺がすぐにポンとお金を出してソフトを買えるような状況ではなかった。だがまもなく、ケーブルテレビの洋画チャンネルで『バッファロー』が放送されることを知って、録画して観たのだ。

あらすじ

刑務所での刑期を終えたビリー(ヴィンセント・ギャロ)。トイレに行きたかったが、どこも清掃中やクローズで中々入れず、ただでさえ気が短い彼はイライラを募らせる。

トイレを借りようとたまたま入ったダンス教室の電話ボックスで、事情を知らない両親に連絡する。電話で母親に仕事で遠くにいっていたと嘘をつき、更にはフィアンセがいるとまで言った。電話を切った後、レッスン帰りだったレイラ(クリスティーナ・リッチ)を捕まえ、彼女に俺の妻のフリをして一緒に両親に会えと脅迫する。

とまどいながらも、ビリーの妻のフリをうまくこなすレイラ。ビリーや彼の両親の会話の様子を見て、ビリーの孤独さを感じ取る。

ビリーにはある目的があった。5年前にラグビーの賭け試合で大損し、おまけにその尻拭いをする形で無実の罪で投獄されたのだ。自分が応援してきたチーム「バッファロー」のエース選手が八百長でワザと負けたことを知ったビリーは、5年間の無実の刑務所生活の恨みを晴らそうと、今は元選手のエースを殺そうとしていた。

ビリーの実家を出た後も、二人はしばらく一緒にいて、そして...。

人を選ぶが、ハマると目が離せない映画(軽いネタバレ含みます)

今の時代では作れないであろう

あらすじは上記の通りだ。
決して万人受けのする映画ではない。主人公のビリーはとにかく相当な癇癪持ちだ。おまけに口が悪過ぎる。ダンス教室のトイレのシーンで、隣の男が自分のペニスを覗き込んだことに激昂してオカマ野郎!と怒鳴り散らしているし。その後に、レイラを捕まえて妻のフリをしろと脅迫するわけだ。普通に引いてしまうシーンがこう序盤にあるのだ。今のコンプラやポリコレに厳しい時代なら、非常に作られにくい作品だろう。

ヴィンセントとクリスティーナの魅力全開

だが、このビリーはとてもズルい奴だと思う。ふとした時にみせる寂しげな表情。レイラや昔からの親友に怒鳴っても、後で謝罪する姿。男の俺から見たらチッ!となるような母性本能をくすぐる奴だ。それでまあ、身長高いしスタイルも良い、ボーリングも上手い。ビリー、というか演じるヴィンセント・ギャロ自体が、男から見てもカッコ良い雰囲気を持っている。

レイラも可愛い。可憐でお人形さんの様。それでいて小悪魔の様な素振りも見せる。クリスティーナ・リッチ、とにかく可愛過ぎ。ビリーには当初嫌々だったが、彼の両親にノリノリでウソを付くところが面白い。それで、ビリーの孤独さとか隠れた優しさに気付いて、彼をそのままにして置けなくなるのだ。

ビリーの不意に見せる優しさってのは、意地悪な言い方をすれば不良が更生するとすごいマトモに見える理論みたいなものだし、レイラだって男にとって都合の良い女に見えなくもない。しかし、キャストの良き演技や演出が、上記の様な違和感をどうでもよくしてしまうのだ。これが映画の魔法という奴なのだろう。

雰囲気は大作には出せないものだ

それで映画の映像の質感とか、カメラワーク、演出、ロケーションも、大袈裟な大作映画には出せない味わい深い雰囲気を醸し出す。当時、日本のミニシアターで公開された時は話題沸騰であった。『Trainspotting(トレインスポッティング)』と並んでミニシアター系映画のレジェンドなのだ。

言い忘れていたが、ヴィンセントが主演だけでなく、なんと監督と脚本、劇中で流れる音楽も担当している。ヴィンセントはあの小津安二郎の大ファンで、『バッファロー』劇中に、小津作品へのオマージュとなるシーンや演出があるらしい。小津作品については俺は勉強不足なので、ある程度観たらまた、『バッファロー』を観てみようかな。

名アーティストによる楽曲達

劇中で流れるヴィンセント自身が手がけた音楽以外にも、実は著名なアーティストによる楽曲が使われている。

Yes『Heart of the Sunrise』

『バッファロー』と言えばこの楽曲というくらいの名曲。終盤、ビリーの緊迫したクライマックスで流れる。60年近くも活躍しているイギリスのプログレッシヴ・ロックバンド、イエスの名盤『Fragile(邦題『こわれもの』)』の最終曲『Heart of the Sunrise』。予告でも聴ける。

めちゃくちゃ速いわけではないのに、
スティーヴ・ハウのスリリングなリフのギター
クリス・スクワイアのドライヴするベース
ビル・ブルーフォードの複雑なリズムのドラム
リック・ウェイクマンの様々な音色のキーボード

精鋭達による楽器のプレイが、疾走感と緊張感を生み出している。全体で10分半もあるが(終了後に他のアルバム曲のリプライズが流れ、CDや配信ではそれがトラックに含まれてしまっている)、不思議と長さを感じさせない。

劇中では使われているパートの関係で流れないが、ジョン・アンダーソンの力強い天使なヴォーカル

中盤でこの歌声が流れてきた時の神秘さも良い。
長い歴史の中でメンバーチェンジが多かったイエスゆえに、この時のメンバー以上の『Heart of the Sunrise』を演奏するのは難しそうだ。来日するのであれば、当時のメンバーと違っても聴いてはみたいが。確か今は当時のメンバーはスティーヴ・ハウだけだったな。

余談だが、同じアルバム『こわれもの』の1曲目の『Roundabout』が、漫画『ジョジョの奇妙な冒険』のテレビアニメのエンディングに起用され、話題となった。

Yes『Sweetness』

同じくイエスの『Sweetness』。ファーストアルバム『Yes(邦題『イエス・ファースト・アルバム』)』の収録曲である、ソフトなロックバラード。エンディングで流れる。ユニークな表示のエンドロールとよく合っていて、映画の終わりを優しく癒しに導いてくれる。

デビューしたてのイエスは、プログレでは全然なかった。この頃の音楽性も俺は好きだけど、プログレ化しないままだったら、あれだけの大きな飛躍もなかったかもしれない。

King Crimson『Moonchild』

劇中、レイラがボーリング場でダンスをするシーンで流れる。イエスと同じくプログレの大御所、キング・クリムゾンの有名過ぎるファーストアルバム『In the Court of the Crimson King(邦題『クリムゾン・キングの宮殿』)』の収録曲だ。とても物悲しいが、同時に癒しも感じられる、短いが名曲だ。ギター&作曲のロバート・フリップ御大が不動の位置で50年近く活躍してきたが、どうやら現在は解散状態のようである。

2分30秒程度なのだが、サブタイトルに『including...』とあるように、後で流れる別の曲も含まれている。しかも、曲というより楽器を効果音的に流している様なものだ。だが、このパートがあるからこそ、アルバム最終曲の『The Court of the Crimson King』での壮大なラストが一際輝くのかもしれない。俺はたまに『Moonchild』だけを聴きたい時があるので、複雑である。

Stan Getz『I Remember When』

ジャズ・ミュージックのレジェンドで、サックス奏者のスタン・ゲッツの楽曲。ビリーとレイラがモーテルのベッドで距離を縮めるシーンで流れる。

俺はマイルス・デイヴィスやジョン・コルトレーンのように、ジャズの枠を超えた音楽性や実験精神を伴うアーティストを好んで聴くが(それでもジャズのヘビーリスナーの方々から見れば、ミーハーに思われるかもしれないぐらいにこの2人は有名過ぎるが)、ゲッツのようにシンプルにメロディアスに聴かせるジャズもやはり良いものだ。そんなゲッツも、ブラジルのボサノヴァレジェンドのジョアン・ジルベルトとコラボレーションし、ジャズとボサノヴァを融合させたアルバムを出しているが。

そんなゲッツによるメロディアスなバラード『I Remember When』。オーケストラをバックに、ゲッツのサックスがムードを高めてくれる。が、この曲が収録されているアルバム『Focus』は結構全体として前衛的な評価になっているらしい。鈍感な俺は前衛的には思えなかったので、ジャズに関しては本当に勉強不足だなと反省した次第だ。

以上、往年の名曲4曲が使用された。
『トレインスポッティング』といい、過去の楽曲を効果的に流すことで、シーン一つ一つの魅力を高めるポイントの1つとなっていると思われる。それで映画を観た人が、使われた楽曲のアーティストを掘り下げることになれば、理想的な展開だ。

普通の映画に飽きたならば、ぜひ観てほしい

ざっとあんまりネタバレしない程度に、あらすじや映画の魅力を紹介したつもりだ。上記でも書いた通り、『バッファロー』は決して万人受けする作品ではない。引いちゃうシーンも少なくないし。

しかしだ。映像の質感、拘り抜いた演出やカメラワーク、一風変わった(ラヴ)ストーリー。『バッファロー』は、普通のありきたりな映画に飽きた方々がいるなら、退屈させないであろう映画だ。

あと俺は幸いにも人には恵まれている方だが、そうでない人や人生に疲れた人にもオススメだ。観れば孤独な心が癒やされるかもしれない。そういう与える力も、この映画は備えていると思うのだ。

残念ながらAmazon Primeにないし、DVD/Blu-rayも廃盤状態だ。それでも観てみようと思った方は、中古でもソフトを買って観ていただきたい。それだけの価値があると思うので。

終わり

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集