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マイケル・ジャクソンの苦悩①:会社の価値の源泉と意思決定の論理 ― なぜアーティストと会社はすれ違うのか

マイケル・ジャクソンは、アーティストであると同時に、投資家であり経営者でもありました。

1985年、マイケルはATV Music Publishingを買収し、音楽出版権の所有者となります。そして1995年には、Sony Music Publishingと合弁でSony/ATV Music Publishingを設立し、巨大な音楽出版会社の共同経営者となりました。

つまりマイケルは、アーティストとしてレコード会社と関わる一方で、音楽ビジネスの経営側にも立っていた人物だったのです。

今回はその両方の立場から、彼が何を見ていたのかを考えてみたいと思います。


1. 音楽業界の構造

まず、音楽業界の基本的な仕組みを少しだけ整理してみましょう。

音楽業界では、大きく分けて二つの会社が関わっています。

一つは音楽出版社です。
音楽出版社は、アーティストが作った曲(作詞・作曲)の権利を管理し、その曲を使いたい人に使用許可を出して、使用料を得る会社です。

もう一つがレコード会社です。
レコード会社は、アーティストがレコーディングした音源を管理し、CDやストリーミングサービスなどを通して、その音源を提供・販売する会社です。

例えば、CMや映画で曲の音源そのものを使う場合、使用する側は

  • 音楽出版社(曲の権利)

  • レコード会社(音源の権利)

この両方から許可を得て、それぞれに使用料を支払います。

一方で、曲をカバーして使う場合は、元の音源は使わないため、音楽出版社に許可を得て使用料を支払うことになります。

このように、アーティストが1曲を生み出したとしても、その収益は

  • 音楽出版社

  • レコード会社

それぞれとの契約に基づいて分配される仕組みになっています。

アーティストの立場から見ると、音楽業界は少し複雑な構造に見えるかもしれません。

2. 会社の価値の源泉とは何か

そうした中で、マイケルはレコード会社というものの価値の源泉について、次のように語っています。

“They forget that it’s the artists who make the company, not the company who makes the artists. Without the talent, the company would be nothing but just hardware. And it takes a real good talent that the public wants to see.”

Michael Jackson, interviewed by Brett Ratner, Interview Magazine (2004)

(私の意訳)
レコード会社の人たちは、「会社を作っているのはアーティストであって、会社がアーティストを作っているわけではない」ということを忘れてしまっているんだ。
才能がなければ、会社はただの「箱」にすぎない。
会社が成り立つには、みんなが本当に見たいと思う才能が必要なんだ。

ファンから見れば、「そりゃそうだ」と思うかもしれません。

しかし、マイケルが「レコード会社が忘れてしまっている」と述べているということは、会社がアーティストの創造性の価値を、自分と同じ視点では見ていないと感じていたということです。

では、このズレについて、会社の意思決定の論理を紐解きながら考えてみましょう。

3. 会社の意思決定には合理的な理由がいる

レコード会社は、アーティストとの間で「何年間で何枚のアルバムを制作する」といった契約を結びます。

この契約によって

  • アーティストは作品を制作する義務を負い、

  • レコード会社もまた契約上の義務を負います。

例えば、

  • レコーディング環境を整える

  • 制作資金を提供する

  • 作品の販売やプロモーションを行う

といったことです。

しかし、契約の時点では、ヒット作が生まれる保証はどこにもありません。

レコード会社にとって、アーティストとの契約は、ある意味で先行投資です。

才能があったとしても、それを形にして売上につなげられるかどうかは別の問題だからです。

アーティスト本人の日々の積み重ねや創造性、
そしてレコード会社の資金・ネットワーク・販売戦略
——こうした両輪がうまく回ることで、初めて売り上げへとつながっていきます。

だからこそ、売り上げが実現するまでの間、レコード会社の経営陣にはお金を動かす理屈が必要になります。

なぜなら経営陣は

  • 合理的な経営判断をする義務

  • 会社の利益を優先する義務

を負っているからです。

さらに、多くの投資家や利害関係者が関わる組織では、誰にでも説明できる判断であることが重要になります。そうでなければ、組織としての意思決定の正当性を示すことができないからです。

逆に言えば、

お金を動かすに値する十分な理屈さえあれば、会社はそこに資金を投じます。

これは、日本的な感覚から見ると少し割り切った判断に見えるかもしれません。しかし、特にアメリカの企業社会では、こうした合理的な説明ができること自体が、意思決定の正当性を支える重要な要素になっています。

しかしここで、一つの問題が現れます。

4. 創造性という「不確実なもの」への投資

それは、創造性というものが、必ずしも理屈だけで説明できるものではないという点です。

もしヒット曲が、理論やデータだけで確実に生み出せるのであれば、レコード会社はアーティストと契約する必要はないはずです。

それでも実際には、会社はアーティストへ先行投資を行います。

独自性や創造性から生まれる新しい作品が、市場に新しい価値を生み出す可能性があるからです。

では、その創造性は、どこから生まれてくるのでしょうか。
そして、そのような創造のプロセスは、会社の側からはどのように見えているのでしょうか。

次回は、創造のプロセスについて、掘り下げてみたいと思います。



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