聞く番になると、どの型で来るかを選ぶのは相手だった
VRChatで外国人と雑談していると、自分が話している間は落ち着いている。ところが相手の番になった瞬間、「今何て言った」と一瞬止まる。単語は聞き取れているのに、意味として組み上がるまでに間が空く。自分の番では出てきていた言葉が、聞く側に回った途端に働かない。HelloTalkの音声通話でも同じで、自分の発話は淀みなく出るのに、相手の返答の頭を取り逃す。
留学していたころから、話すこと自体はできていた。ただ当時は話すのも聞くのも同じくらい重くて、どちらが足を引っ張っているのかは分からなかった。約200語の英文を30本前後、完全に暗唱するようになってから、話す側だけが先に軽くなった。すると、置いていかれた側の重さが単独で見えてくる。
暗唱を進めていくと、この時期に入る人は多いと思う。話す方はある程度自動で出るのに、聞く方だけがついてこない。まだ話す方も途中だという段階でも、この構図自体は最初から効いている。相手の英語が重く感じられるのは、こちらの実力が足りないからだけではない。私はこれを練習量の差だとは考えていない。話す番と聞く番では、そもそも背負っている仕事の量が違う。
型を選べるのは、話す番のときだけ
話す番のとき、使う英語の型は自分で選べる。暗唱した30本の中から、その場に近いものを引っ張り出して当てはめればいい。持ち球は有限で、しかも自分で選んで体に入れたものだから、馴染んでいる。
聞く番になると、これが逆転する。相手がどの型で話しかけてくるかは、こちらには選べない。相手の語彙、話す速さ、訛り、話の展開の仕方。そのすべてが相手側の裁量で決まる。自分の持っている30本の中に収まるとは限らない。
話す側は「自分の持ち球だけ」を管理すればいい。聞く側は「相手が選び得るすべての型」に備えることになる。扱う範囲の広さが端から違う。話せるようになった後も聞き取りだけが遅れて感じられるのは、この非対称のせいだ。練習量ではなく、担当範囲の差だと考えている。

話す側には言い換えがあり、聞く側にはない
この差がやっかいなのは、語彙を増やしても直接には縮まないところにある。
話しているとき、ある単語が出てこなくても行き止まりにはならない。自分の持っている別の型に乗り換えて、遠回りに同じことを言えばいい。暗唱で手に入ったものの実体は、覚えた単語の数というより、この乗り換え先の数だった。言いたいことに対して入口が三つあれば、一つ塞がっても止まらない。
聞く番には、その乗り換えがない。相手が使った表現を、こちらの都合のいい表現に置き換えてもらうことはできない。相手が選んだ形のまま、相手の速さで流れてくる。残されている手はその場で聞き返すことくらいで、それも一つの会話で何度も切れる札ではない。
話す側は自分の在庫の中で回避できる。聞く側は相手の在庫に合わせるしかない。同じ「英語ができる」の中で、この二つはかなり別の作業をしている。
いちばん出るのは、ターンが変わった直後
自分のストックが相手の話にそのまま通用する場面はある。相手が意見を述べるときの組み立て——理由を述べてから具体例に移る——は、英検1級ライティングのような答えの決まっていない問いに対して私が繰り返し暗唱してきた形と同じだ。そこに乗っているあいだは、次に何が来るか見当がつく。予測が育つと聞き取りが軽くなる話は別の記事で書いたが、あれはこの非対称の下流にある。予測が効くのは、相手がこちらの持ち球と同じ形をなぞってくれた場合に限られる、ということだ。
止まるのは、相手が自分のストックの外側から来たときだ。私の場合、いちばんはっきり出るのは話題が切り替わった直後だった。
繰り返し起きるのはこういう形だ。意見を聞かれて、暗唱でつくった型のとおり理由から話し始める。相手が返してくるときも、同じように理由から入ると予測している。ところが実際には "Well, honestly, I used to think..." のように、いったん前置きを挟んでから本題に入る展開が来る。単語はどれも知っているのに、どちらへ話が転ぶか読めない数秒のあいだ、意味の組み立てが追いつかない。話す側なら、この前置きを挟むかどうかも自分で決められる。聞く側は、相手が挟んだ時点でそれに合わせるしかない。
もう一つ多いのは、相手が話の途中で言い換えるときだ。一度言いかけた内容を、別の言い方でもう一度言い直す。こちらは最初の言い方を追いかけている途中なので、二つの流れが重なって、どちらを拾えばいいのか一瞬迷う。話す側なら、言い直すかどうかも、どこで言い直すかも自分で決めている。
雑談特有の言い回し、聞き返しの表現、脱線からの戻り方、相手固有の訛り。どれも自分の30本とは重ならない。単語を知っているかどうかとは別の場所で遅れている。
拾うのは、相手の持ち球のほんの一部でいい
この差を完全に埋めることはできない。相手が使い得る型の総量は、こちらの持ち球より圧倒的に多い。
ただ、やってみて手応えのあった進め方が一つある。相手の型のうち、繰り返し出てくるものだけを自分の側に足していくことだ。手順としてはこうしている。
会話中はメモを取らない。VRChatもHelloTalkの通話も声だけのやり取りで、手を止めて書けば会話が切れる。代わりに、引っかかった言い回しを音のまま頭に残しておいて、通話を抜けた直後、数分以内にスマホへ打ち込む。数分を過ぎると、たいてい形が崩れて思い出せない。思い出せなかったものは諦める。
拾う数は1回の会話につき2つか3つに絞る。それ以上拾おうとすると、記録するだけで終わって、口に入れる作業まで行き着かない。採用の目安は、同じ相手・同じ場で2回以上出てきたかどうか。実際に残ってきたのは、内容のある表現より、話の入口と切り替えの合図のほうが多かった。本題に入る前の前置き、話題を変えるときの一言、相づちの打ち方。意味としては軽いのに、これが読めないと後ろが全部遅れる。VRChatやHelloTalkのように継続して話す相手がいる場では、同じ人が同じ型を何度も使う。一度きりの言い回しは落としていい。
拾ったものは、暗唱と同じ扱いにする。声に出して口に入れ、当日・翌日・3日後・1週間後・1ヶ月後、その後もときどき点検する。間隔は自分の30本にかけているものと同じで、あとから足した数個だけ別扱いにする理由がない。点検といっても、数個なら口に出して一周するだけで一分もかからない。その日に暗唱の点検をするなら、その最後に足すだけでいい。口から出てこなければ、その場でまた声に出す。書いて眺めるだけの記録にすると、次の会話には戻ってこない。
拾った言い回しが、次の会話で同じ相手の口からまた出てくることがある。そのときは、少なくともその一つ分は待たずに済む。差が埋まったという感覚ではなく、穴が一つずつ塞がっていく感覚に近い。
こうして入れられるのは相手の持ち球のごく一部で、それでいい。狙っているのは全部を拾うことではなく、次に同じ形が来たときに一拍遅れないことだけだ。
自分の型を増やす作業を、話す練習だけでなく、聞き取れなかった相手の言い回しにも向ける。次にやることは、これだけでいい。
英語を「考えて作るもの」から「自動で出る技能」に変えていく過程を、自分が実際にやった手順に沿って書いています。
