月のおとしもの【チャレがや杯2026】
コッシーさんとみくまゆたんさんの企画に参加します。
募集要項は、13のワードから2つ以上選んで、1,000文字以上1,500文字以下の文章を作成することです。ワードは『②ライター』『⑨月』『⑪嘘』『⑬おとしもの』を選びました。
『ライターのおとしもの』
キャンプ場で異常がないか巡回をしていたら、草むらでライターを拾った。蓋のないジッポーのような形をしていた。さっきまで、林間学校で来ていた高校生たちがやっていたキャンプファイヤーで、誰かが落としたのかもしれない。
着火ボタンを押してみたが火はつかず、ガスだけが吹き出した。よく見ると、火花を散らすフリントホイールがなかった。これでは火がつくはずもない。
持ち帰って捨ててしまおうかと考えていると、目の前に高校生の女子と男子が立っていた。
「そのライター、アタシのです」
「これ?」
「はい、返していただけますか?」
「だって、君。高校生だろ。ほんとに君のライター?」
隣で黙っていた男子が口を開いた。
「本当だと思います」
「思いますって…」
「彼女、嘘がつけないです。嘘を落としてしまったから…」
「えっ?嘘を落とした?」
『月のおとしもの』
僕はキャンプファイヤーの途中でトイレに行った。用を済ませて戻ろうとしたら、草むらにソフトボールくらいの銀色の綺麗な球が落ちていた。拾い上げてみると、なんとなく見覚えがあった。
(月だ…)
表面の傷だと思っていたのは、ウサギの形をしたクレーターにそっくりだった。
「その月、アタシのです」
「これ?」
「はい、返していただけますか?」
「…」
いつの間にか目の前に立っていた彼女は、僕とは違う高校の制服を着ていた。
「夜空を見て」
「夜空?」
「ないでしょ。月が」
「ほんとだ、月がない。でも、新月かもしれない」
「今日は満月の日よ」
「じゃあ、月食かも」
「月食でも消えることはないわ」
「…」
たしかに、さっきまであったと思われる場所に月はなかった。
「アタシ、月を落としてしまったの…」
「それが、これ?」
「そうよ。お願い、月を返して」
「ああ」
僕は銀色の球を彼女に手渡した。
「ありがとう。でも、落としたものはあと2つあるの」
「2つ?何を落としたの?」
「嘘とライターよ」
「…」
「嘘はあとでもいいから、ライターを一緒に探してくれる?」
「ああ」
なんだかよくわからないことに巻き込まれてしまったが、彼女が嘘を落としたのなら、すべて本当のことなのかもしれない。
『嘘のおとしもの』
(やっぱり、嘘を落とさなければよかった)
ライターを手にしている、キャンプ場の管理人らしき男性が、怪しそうにアタシを見つめている。高校生に見えるアタシがライターを持っていることに、おかしいと思っているはずだ。
(ああ、嘘があれば、簡単にライターを取り戻すことができたのに…)
「そのライター、おじいちゃんの形見なんです」
「形見?それで、いつも持っているの?」
その通り。嘘はついていない。
「はい。アタシ、おじいちゃん子だったんで」
「ふ〜ん。形見ねぇ」
(ああ、もう、じれったい!早く返しなさいよ。早く月を戻さないといけないんだから)
「お願いします」
「でも、ねぇ…」
「そのライター、フリントホイールがないですよね」
「そうそう。だから火がつかなかったんだ」
「でしょ。これでわかってもらえませんか?」
「たしかに、君のモノのようだ。はい、どうぞ」
管理人らしき男性からライターを受け取ると、隣りにいた男子の手を引いて森の中へと向かった。
「よかったね。返してもらえて」
「ほんとよ。間に合わなかったら大変なことになってたわ」
「で、どうするの?」
「ねえ、月を持っていてくれる」
男子が両手で挟むように持った月の下にライターをあてて、着火ボタンを押した。しばらくガスが噴出する音が続くと、男子の手を離れた月が急上昇した。見上げると満月が輝いていた。
「よかった、間に合って。あっ、こんなところに落ちてた」
アタシは嘘を拾うと、宿舎の方に向かって歩き出した。
(1,500文字)
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