放課後、君の隣で
放課後のチャイムが鳴ってから、もうだいぶ時間が経っていた。
今日はなんとなくまっすぐ帰りたくなくて、私はひとり教室に残っていた。
友達とのちょっとした行き違いが胸に引っかかって、家に帰る気分にもなれなかった。
窓の外は冬の夕方特有の淡い光。
教室には私の呼吸と、時々廊下を通る足音だけが響いている。
そんなときだった。
ガラッ。
「……あれ、まだいたの?」
振り返ると、忘れ物を取りに来た“気になる人”——春斗が立っていた。
部活がない日はみんな早く帰るのに、私が残っているのが不思議らしい。
「どうしたの、帰らないの?」
そう聞かれて、私は慌てて笑顔を作った。
「ちょっとね、なんでもないよ」
でも、その“なんでもない”が全然うまく隠せていなかったらしい。
春斗は私の席の前にある椅子を引き寄せ、くるっとこちらに向けて座った。
そして、少しだけ眉を下げて笑う。
「その顔で“なんでもない”は無理だって。ほら、俺に話してみなよ」
その言い方が優しくて、思わず肩の力が抜けた。
話し始めると、悩んでいたことがどんどん小さく見えてきて、
気づけば私は笑っていた。
「……なんか、聞いてもらったらすごくちっぽけだったね。ありがとう」
「うん、ちっぽけだったね」
わざとらしく頷く春斗に、私はまた笑ってしまう。
そのとき、彼のスマホが震えた。
画面を見た春斗が「あー……」と苦笑する。
「先に帰った友達、もう駅の向こうまで行っちゃったらしい。合流ムリだって」
「え、じゃあどうするの?」
「どうしよっかね」
彼は少し照れたように私を見る。
「……せっかくだしさ。どっか寄ってく? 今日、まだ帰りたくないんでしょ?」
胸がきゅっと鳴った。
「うん。行きたい」
夕焼けの残る廊下を並んで歩きながら、
さっきまでのモヤモヤが嘘みたいに軽くなっていた。
この帰り道が、ちょっと特別なものになりそうな予感がしていた。
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