【創作小説】御厨ナギはいちゃいちゃしたい 閑話休題4話 「とある日の昼食」ナギ視点
小説
「今日は私がお昼ご飯作るよ。といっても簡単なものだけど」
公休の日、いつものようにみやびの家に泊まり二人して向い合せで朝飯を食ってる時に何気ない調子でそう言われた。
俺が差し入れしている総菜のストックがまだあるし、昼はそれで済ませられるなと思っていたが突然の手調理宣言。
そういえばカレーは食った事があるが、他の料理はまだ無いな。
どうやら俺が毎回朝飯を作っているから「負けられない」と思い立っての事らしい。
別に構わないのに。
あの低血圧ぶりでは俺よりも早くに起きて朝飯を作るのは不可能だろうし、俺が毎回作る事に異存がないのだが。
とはいえ、彼女の手料理は純粋に楽しみだし、作ってくれるのは嬉しい。
だが今この家にある食材はせいぜい牛乳とヨーグルト、卵くらいだ。
あとはツナ缶や梅干しや塩昆布などの保存がきく食品や乾物、調味料あたりか。
「じゃあ買い物に行って食材を調達するのか?」
外は横殴りの大雨が降っている。
この分では傘を差したとしてもスーパーに行くまでにずぶ濡れになるだろう。
ここの家賃は安いと以前聞いた通り、不便な場所に建っている。
スーパーですら徒歩10分近くはかかるだろう。
「外には……行きたくないなぁ」
みやびは眉間に皺を寄せながら台所の窓から外の様子を伺い、そう言う。
今も絶え間なく激しい雨の音が響いている。
夕方には止む予報にはなっているが、少なくとも数時間はこの調子だろう。
「じゃあこの家の食材で作るのか?」
繰り返すが、この家の食材で?
「なんか馬鹿にされている気がする」
……だって、この家にある食材だぞ。
「何を作るつもりなんだ?」
「それは出来てのお楽しみって事で。あ、でも本当に簡単なものだから期待しないでね」
彼女の手料理は嬉しいが、この家の食材で何ができるというのだろうかと一抹の不安を抱く。
みやびと共に行くはずだった映画が上映時間のタイミングが悪く見に行けずじまいだった。
それがサブスクに入ってると聞いたので、昼飯までは映画を見ることになっていた。
最近は上映終了したかと思ったらすぐにサブスクに入るな。
映画館は大丈夫なのだろうか。
最も、デートとして二人で大音量の大型のシアターで共に映画を見て後でコーヒーを飲みながら感想を言い合う、その経験はサブスクで見るのとは違う得難いものがあるが。
特にみやびは感心するほど細かいところまでよく見ている。
映画を見終わった後にフードコートで飲食しながら興奮混じりに映画の事を語る彼女はとても可愛い。
尚、映画をよく見るというのでこの家はWi-Fi契約をしている。
誕生日に買ってもらったタブレットを使い、実家に居た頃から勉強の合間に映画を見ていたらしい。
ただ、タブレットは1人で見るのに適してるような小型サイズなので、今回は俺が自前のノートパソコンを持参してきた。
映画は意外にもというかかなりの良作だった。
誘拐された令嬢が実は凶悪な吸血鬼で犯人たちを返り討ちにする話だ。
「ネタバレに繋がるから」と事前に情報は明らかにされなかった。
この映画もSNSの知り合いから勧められたらしい。
リアルでは友達が少ないと言っていたが、SNSでは適度な距離感の友達と呼べるような人間が数名いるらしい。
若干嫉妬を抱くが、彼女が楽しそうならよかった。
そして昼食の時間。
「座って待っていて」と言われしばらくして出された大皿2つ。
「パスタか」
そういえば野菜室にパスタの束があったな。
「今日は蒸し暑いからあっさり系のパスタにしたよ」と出されたものは、めんつゆと梅干を合わせたさっぱりとしたソースに、これまた買い置きしているツナ缶が和えられている。
そして薄切りの玉葱がバランスよく混ぜられている。
そういえば玉葱があったな。
というか野菜室にある野菜と呼べるものは玉葱くらいしかない。
日持ちがするから玉ねぎは重宝しているらしい。
「本当は大葉があったらいいんだけど、残念ながらうちには無いから」
そしてもう1皿。
同じくツナ缶がメインの塩昆布で合えたパスタだ。
ゴマ油の香ばしい匂いが食欲をそそる。
「味付けはマヨネーズと鶏がらスープと塩昆布、いつもはしめじを加えるんだけど、残念ながらうちには無いから。ツナ缶が被ってしまったけどね」と恥ずかしそうに微笑む。
無いものが多すぎる気がするが、心の内に納めておく。
今は無い具材の入っているパスタをまたいつか完璧な状態で食べてみたいものだ。
それにしても、と思う。
俺はレシピを見て作りたいものをあらかじめ考えてから買い物に行きそれで調理するが、みやびは「家にあるもの」で手早く作る事が出来るんだな、と驚く。
家で母親の手伝いもしていたらしいし、そういった食材が欠けている状態での調理は慣れているのだろう。
聞けば母親も「本当は豚ひき肉を使うのだけど合いびき肉しかないからそれでいいわよね」や「仕上げには葱を散らすのがいいけど、家にないから入れてないわ」というスタンスだったらしい。
……血筋だろうか?
それとも女性はそういう所があるのだろうか、と母親の料理を思い出すがあまり台所で調理しているさまを見た記憶が無いな。
思い返したら俺は子供の頃から塾や弘原海先生の所に通い詰めだった。
それを不満に思ったことは無いが、もっと親の家での様子を見ておけばよかった。
「いつもはレトルトのパウチ使ってるんだけどね。折角だからソース作ってみたよ。とはいっても本当に簡単なものだけど」とはにかむように取り皿を渡してくれる。
中央に大皿を置き、各自取るスタンスらしい。
付け合わせのスープはお湯で割る濃縮タイプの液体スープだった。
ボトルに入ってるタイプのは初めて見たな。
粉末ではないから溶けやすくて便利だな。
「オニオンコンソメとポタージュどっちがいい?」と聞かれたのでオニオンコンソメにした。
玉ねぎが被ってしまったな、と後で気が付いた。
2種類作ったのは「もし味が合わなかったら困るから。2つ作ったからどちらかは口に合うかなって」と懸念しての事らしい。
問題ないと思うが、まずは少量をトングで皿に取り、口に入れる。
「旨いな」
両方とも旨い。
お世辞ではなく心からそう思う。
「茹でて和えただけだよ」と笑っているが、味付けが絶妙だ。
番いというものは味の好みまで似通るのだろうか。
「冷蔵庫にベーコンがあるから豆苗とベーコンのパスタにしようと思ったけど、味付けがめんつゆで被っちゃうから今日は塩昆布の味付けにしたんだ。とはいってもこっちのパスタは、ツナ缶が被っちゃったけどね」
それもまた今度食べてみたいな。
そちらはコンソメとめんつゆの味付けで、仕上げに胡椒を振るらしい。
「実はね、実家に居た頃にはマヨネーズってあまり調理に使ったことが無かったんだけど、ナギがこの間鶏肉を味噌とマヨネーズで炒めたお惣菜を持ってきてくれたでしょ?アレが美味しかったから調味料の選択肢の1つとしてマヨネーズもアリだなって思って」
「へえ」
実家では和食がメインだと言っていたな。
俺と知り合い、彼女の世界が広がっていく。
大げさかもしれないが、それがなんだか嬉しかった。
もっと2人で色んな世界を知っていきたい。
ささやかだけど幸せな休日を過ごしたのだった。
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