【創作小説】御厨ナギはいちゃいちゃしたい 閑話休題1話 「とある夏の午後」ナギ視点
小説
とある公休の午後。
多目的ルームで隊員らが遊ぶ格闘ゲームをソファに座りながら眺めていた。
子供の時に友達と遊んで以来この手のテレビゲームは触ってないが、ずいぶん進化したものだな。
まるで実写だ。
俺も遊ばせてもらったが、見た目だけではなく動きも滑らかだ。
聞けば、実際の人間が動き、機械によってその動きをトレースしてゲームに取り入れてるらしい。
ということは、このエキセントリックな動きをリアルで行う人間が居るのか。
凄いな。
「おや貴公子ちゃん、今日は珍しく寮に居るんだね」
多目的ルームを掃除しにやってきた寮母に話しかけられた。
この「貴公子ちゃん」という呼び方はやめてほしいと散々言っているが、その都度「わかったよ、貴公子ちゃん」とまるで改める気が無いらしい。
「呼び名を気に入ってないのかい?」と言われた事があるが、恥ずかしいだろ。
誰が気に入るんだ、こんなもの。
「気に入らない。だからそう呼ばれたくない」と正面切って言っても「そうかい、貴公子ちゃん」と返された。
もはや寮母はわざと俺をからかってるんじゃないかと思う。
母親も俺の話は聞いてなかったが、ある程度の年齢の女性って全員人の話を聞かないようになるのか?
みやびもそうなるのだろうか、それはちょっと・・・嫌だな。
「ああ。今日は彼女はバイトが休みだし、友達と約束してて遊びに行くらしい」
正直、会えなくて寂しいが彼女の交友関係を大事にしてあげたい。
親友らは大学受験を考えているらしく、進学したらみやびとはそうそう会えなくなるだろうから。
ふと不安になった。
「友達」としか聞いてなかった。
……まさかまた男友達、ということはないよな?
一瞬「電話して確認しようか」と思ったが、流石にそれは重すぎる。
もし彼女に「束縛されるの嫌だ。鬱陶しい」と思われたら。
自分がここまで嫉妬深いとは思わなかった。
彼女を信じてる、だが同年代の人間の方が会話が盛り上がるだろうし、そちらに惹かれるのではないかという不安もある。
大体みやびは可愛い。
番いという贔屓目無しでも可愛い。
もしかしたら学校でも彼女に好意を抱いている男がいるかもしれない。
電話をして「信じてくれないの?」と思われるのも嫌だし、かと言ってこのまま悶々と過ごすのも精神衛生上よくない。
どうすればいいんだ。
俺の悩む姿を冷ややかに見つめる寮母。
この人は恋の悩みとか無縁だったんだろうな。
夫である寮長とのなれそめは知らないし、興味もないが。
「あんた、今失礼な事考えてないかい?」
……時折、この寮母には人ならざる力が備わっているのではないかと思う時がある。
異能力とかそういうものを超越したなにかが。
「まぁいいや。そういや、今日は厨房使わないのかい?」
「この間持って行った常備菜はまだ日持ちするし、残っていると言っていた。大量に作っても負担になるだろうから、今日はいいかな」
「・・・それにしてもこまめな男だねえ、アンタ。さぁて、あんたたちゲームはいったん中止にしな!掃除機かけるよ!」
寮母の声を聴いた隊員らが一斉に不満の声をあげる。
が「文句あるのなら掃除を手伝いな!」と返され、泣く泣くゲームを中断した。
寮母にはああ言われたが、俺が差し入れしなければ多分みやびはちゃんとした飯を食わない。
知り合ってまだ短い付き合いだが、どうも彼女は食に対する関心が薄いというか、食べるくらいなら寝ていたいというタイプのようだ。
最初「バイトが終わったら疲れ果てて即寝る」「朝早起きしてしっかり食事するよりもその分寝ていたい」という言葉が理解できなかったが、異様な寝つきの良さと低血圧ゆえの朝の弱さを目の当たりにしたら、納得できた。
というか、以前一緒に寝た時にはベッドに入って3分くらいで寝息を立ててたんだが。
某国民的漫画の、ダメ主人公レベルだ。
異性でかつ恋人でもある俺が一緒に床に入ってるのに、全然警戒されなかったのは信頼されていると喜ぶべきなのか、男として意識されていないと嘆くべきなのか。
……みやびに会いたくなってきた。
タイミングの悪いことに、明日は俺が仕事で彼女はバイトが休みだから「送迎もしないでいいし、ナギは仕事で疲れてるだろうからたまにはゆっくりしてね」と言われた。
つまりこの2日間会えない。
今日の昼は友達と遊ぶらしいが、夜なら流石に解散してるよな?
泊りがけの遊びだとは聞いてないし。
さりげなさを装って「今晩一緒に食事しないか?」と誘ってみようか。
いつもはチェーン店やファーストフードが多いからたまには違う店に行こうと言うのはどうだろう。
丁度、給料も出たし普段は行かない店に「俺のおごりで」といって。
毎回「割り勘がいい」と言われそうしているが、たまになら受けてくれるだろう。
スマホで軽く「デート 食事」と検索してみる。
イタリアン。
チーズ系の料理が多いだろうな、多分嫌がられる。
なにが「女性はイタリアンのお店が好きです」だ。
チーズに対するヘイトがすさまじい彼女だって居るんだよ。
バル。
まだ学生だから避けた方がいいだろうな。
洋食屋とか和食とかざっくりとジャンルで書かれてもな。
ネットは頼りにならないな。
まるであてにならない。
というかみやびが好き嫌いが多いから店選びが大変なだけなのか?
大型商業施設内のフードコートに行っても、何故かうどんばかり食ってるイメージがある。
以前SNSで「土用の丑の日には、うな次郎を食べた」と書いていたのを思い出した。
うな次郎という名称は初めて聞いたので検索したら、うなぎに似せた蒲鉾だと知った。
うなぎの店も候補に入れていいかもしれないが、蒲鉾を「美味しい」と言って食べるくらいなので、うなぎを喜ぶのかもよくわからない。
この間も「ネットで見かけた、なんちゃってうな丼を作った」と言っていたので聞いたら 「魚肉ソーセージに片栗粉を薄くまぶしてゴマ油で焼き、そこに蒲焼のたれを絡めたものをご飯の上に乗せた丼」らしい。
……うん、みやびはうなぎが好きなわけじゃないな、きっと。
結構、店選びが難しいな。
折角だから評判のいい店を選びたいが、そういう所は混雑してるだろうし夏休みの今は特に予約が必要だろうから流石に今日は無理か。
顔合わせの時には店を選ぶのが面倒だから手軽にホテル内のカフェにしたんだったか。
ホテルで食事。
ダメだ、警戒される。
「なんだい、貴公子ちゃん。あんた外で飯食うのかい?」
掃除を終えた寮母が俺のスマホを覗き込んできた。
こんな共有スペースに居るのは俺が悪いのだが、人のスマホを見ないで欲しい。
「いや、わからない。まだ彼女を誘ってない」
とはいえ「そっか!いいよ。楽しみ」と快諾してくれる彼女を想像する。
1人で悩んでいても結論は出ないし適当に2、3つ店を提示して彼女に選んでもらうか、と意気揚々と電話をしたが。
「一緒に食事をしたい」という俺の申し出は、戸惑いの声と共に「ん~今日はちょっと都合が悪いかな。・・・明日?明日もちょっと、ね」とあやふやな言い訳でもってあっさりと断られた。
彼女に会えない寂しさを隊員相手の格闘ゲーム対戦で憂さ晴らしして、連勝に連勝を重ねて完膚なきまでに挑戦者全員を倒した結果「御厨隊長は格闘ゲーム禁止」と出禁を言い渡されるのだった。
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