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妄想日報 8月27日「プロセルピナ」

8:48出勤。
昼休憩時、ユミさんが最近ご友人と交わしたお話について。仲良し同士のお茶会、いつしか話題はいわゆる「墓場まで持ってゆく話」とあいなったそうで。
「わりとみんな持ってるんだよねえ。まあ、みんな詳しくは言わないよ。詳しくは言わないけど、各自の『墓場まで持ってゆく話』のジャンルまでは話したのね。これがね、だいたい『浮気』とか『軽犯罪』。あとはすっごい『恥』のハナシ!」
「ジャンル!」「ジャンルまでは話すんだ⁈」「それ、ユミさんにもあるってこと?」と皆が興味津々で尋ねる。
引き取ったナオさんが「でもまあまあ、『恥』のハナシの一つや二つくらいはあるんじゃないの?ユミちゃんやわたしの年齢まで生きてたら、ねえ。…あら、ちょっとやだ。『軽犯罪』や『浮気』のほうなのかしら?」
一拍おいたユミさんが「…んまあまあまあまあ」と言い、「…んまあまあまあまあ」とすぐに追いかけるナオさん「んまあ、生きていると色々ございますから。各自お墓まで気をつけて持っていきましょうね、ということで!」
そんな予期せぬ「墓場まで持ってゆこう」説明会の散会まぎわ、テルさんが寄ってきたので何かと思うと
「あのサ、桐島聡っていう、連続企業爆破事件起こした指名手配犯のヒトさあ。49年間を逃亡したまま別人として暮らしてて、死ぬ4日前に正体を告白して病院で亡くなったんだよ。去年の話ね」
と教えてくれる。さすが指名手配犯専門の情報屋のお手なみ。
それで思い出すのは、農民の武装蜂起事件で知られる「秩父困民党事件」。その首謀者も別人となって北海道へ逃亡。新たな家族をもうけて暮らし、三十余年後、息を引き取るまぎわに、枕辺で「井上伝蔵」の本名を家族に明かしたとのこと。
ヒトは「墓場まで持って」ゆきたくとも、なかなか持ってはゆかれぬものなのかもしれない。それでも、自分も一つや二つ誰にも話していないことはあるよなあと物思いに耽り、テルさんとソノ感慨を共にしていると
「わかるぅー!わたしもあるのよー!」と言ってやって来られた庶務のプロセルピナさん。
「わたしのバヤイはあ、『墓場』ってよりもお、『冥府まで持ってゆく』ってほうがしっくりくるのだけどもねえ。でもあるんだよねえ、これがまた。『墓場まで持ってゆく話』!」
と、やたらとアッパーなプロセルピナさんは、テルさんとコチラの顔を交互に覗きこみ、なかなかに期待を高めるトーンでお話を始める。
「わたし、まずはあ、アフロディーテに嫉妬されちゃって、そこからがすべてのケチのつきはじめ。アヤツのけしかけたクーピッドのやつが恋の矢をぴゅーっなんて射やがって、それに刺さった冥王のプルートがわたしにまんまと惚れてまうワケ!
ある日、大地が裂けて、そこからプルートが黒い馬にまたがりサプライズ登場。わたしをひっさらって冥府に連れてくの。『わたしを冥府に連れてって』なんて言ってないのにダヨ!これには、わたしを地上に返せって、母がゼウスをとおして猛抗議。
ところが『すでに冥府の食べ物を口にしたるうえは地上に帰せぬ』なんてプルートが居直っちゃって。冥府の自治体の条例みたいなもんなのかなあ、そんなの知らずにわたしがつい地元特産のザクロを食したものだから。
それじゃ、マ、マ、マ食べたのは半分なので、ここはひとつ、年の半分は地上で過ごし、残り半分は冥府で過ごすってことでいかがなものかと、なあんて。もうよくわからぬウヤムヤ裁定で手打ちんなったのね」
と、楽しみにしていた「墓場まで持ってゆく話」のはずが、その実は「墓場まで連れてかれた話」で、なんだか見出しに裏切られたような気分。
それに、そもそもこの話は、プロセルピナさんが冥府からコッチへ帰ってきている以上「墓場まで持ってゆく話」というよりは「墓場から持ってきた話」と言えるわけだし。
いずれにしろ、コウイウ「墓場まで持ってゆく話」じゃなくて、もっと「それは、確かに軽々と話せる内容じゃないね!」という話なんだよなあ。分かってないなあ、とテルさんと二人、おもわず不興げな顔をならべる。
そんなコチラの意図を知ってか知らずか、プロセルピナさんは話をつづけ
「そう!で、そのあとの話ダヨ。わたしさ、アチラの冥府の会社の歓迎会でシタタカに酔っ払っちゃってね。ウチまで送ってくれた歳下の同僚くんから、ウチの前で抱きつかれたの。わたしもお酒のせいか流されちゃって。モウかなり熱烈にからまり合って、すんごいキスを交わしたんだよお。
朝方目を覚まして、慌ててお断りのメールを入れたのね。『ごめんなさい。その場のノリであんなことしちゃったけど、あなたのお気持ちにはやっぱりおこたえできません』って。
そうしたら、返ってきたメールが『はあ?いったいなんのことですか?』みたいなメール!ウチまで送ってもらったのは事実なんだけど、抱きつかれてキスし合ったところは全部わたしの夢だったんだよね。やだ!モウ恥ずかしすぎて!これは墓場まで持ってゆくしかナイ!言っちゃったけど!」
と、あまりにちょうど良い「墓場まで持ってゆく話」をご披露された。
テルさんと二人「『墓場まで持ってゆく話』って、誰にも話さず墓場まで持ってゆくのは大変だし、途中でうっかり話してしまいたくなるからこその『話』…とも言えるんですよねえ」
と語り合い、ヒトの「話」の妙味みたいなものをしばし味わう。
「『墓場まで持ってゆきたい話』!わたしもあるのよー!」
と、向こうで別のヒト相手にも「うっかり」話すプロセルピナさんの声が、コチラまでよく聞こえた。

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