田舎の友人が俺を☓☓に巻き込もうとしてくるんだが|短編小説|お題:夜店から
夜店から名指しで声が掛かったので振り返ると、懐かしいが嬉しくない顔が、ニタニタとした笑みを浮かべてこちらに手を振っていた。
町内会主催の小さな祭りに出かけてきたのは、ただの気まぐれだ。
父の葬儀で実家に帰ったはいいが、何せ田舎だ、何もない。
父は遺品らしい遺品もなく、諸々の手続きも済んでしまえば、あとはやることがない。
母の手前、さっさと帰るのも気が引けた。
母は、俺が手持ち無沙汰なのに気づき、この祭りがあることを教えてくれた。
金魚の入った水槽の向こうで、「やってけよ」と俺に脆そうなポイを手渡してきたのは、小学校から高校まで同じ学校に通っていた奴だ。
特段仲が良いわけじゃない。
家が近所で、時折遊ぶ。たったそれだけの仲。
少なくとも、俺はそういうつもりだった。
「久しぶりだな。里帰りか」
ポイは水を掬っただけで破れてしまった。この金魚すくいはぼったくりだと叫んでやりたかった。
そのまま立ち去ろうとする俺の手に、奴は新たなポイを押し付けてくる。
よくよくあたりを見渡せば、この夜店にだけ人が寄り付いていない。
「景気悪くてな。代金はとらねぇから、客寄せになってくれよ」
ポイが悪いんじゃないのか、と目で訴えると、奴はへへへと笑った。
奴はよく喋った。
内容は自分のことばかり。
この薄暗い田舎のどこが好きなのか、熱心に語りもした。
どの話にも興味がなく、俺はただポイを水に漬けながら適当に相槌を打った。
夜8時を過ぎ、子どもたちが親に引きずられながら帰路につくと、流石の奴も店じまいを始めた。
「なあ」
まだ夜8時。家に帰っても、チャンネルの少ないテレビくらいしか娯楽がない。
かといって、奴とこれ以上一緒に過ごすのは御免だ。
俺が帰ろうとすると、奴は俺の手を掴んだ。思わず振り払った。
「お前まだ、独りなんだろう?」
背筋が粟立つ。
奴は、昔から何も変わっていなかった。
「期待してもいいのか?」
俺は所謂ボーイズラブというやつに巻き込まれ、学生時代は周囲に色々と誤解されて散々な目に遭った。
絶対無い、と断言する俺に、奴は「またフラれたー」と声を上げて笑った。
