信号機ぶどう味 / ショートショート
4時間授業の帰り道を歩く。
異世界的な遊歩道が世界の本当の姿のようだ。
脳裏によぎるファンタジーな妄想が
もう寒いと言っていい秋の風と柑橘の匂いに呼応した。
光が消えた。
光という概念が消えた。
照明器具の内側には、めいめい同色の果汁が充填された。
LEDライトには梨汁が
電球にはみかん汁が
電光掲示板にはキウイとバナナ汁が
果汁は発散し続け(それが光の特性であるように)
満杯の照明器具はギチギチに爆散した。
0:43 大分県日田市
畦道に50m間隔で立つ灯りは
ガラスの破砕音を奥行きに一斉に消えた。
0:52 埼玉県所沢市
高層マンションの各階から粘性の液体がドロリと溢れ出し
凸凹する箱の側面と同じ形に流れた。
1:32 東京都新宿区
暗順応できていない真っ暗な街を
フルーツポンチが濁流となって埋めた。
妄想が妄想を呼び起こし、歩幅は短く、歩速は上がった。
交差点を渡る直前に信号が赤になった。
止まる数瞬、謎の水滴が口元に飛んだ。
さっき消えた青信号が
点滅しながら搾りだした最後のひとしずくのような気がして
味覚がぶどうを検知した。
