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「マーカーの歪みは心の歪み」〜土のグラウンドで「自分だけの物差し」を捨てない理由〜

「マーカーの歪みは、心の歪み」
若いコーチによくそう伝える。
グラウンドに置いたマーカーで、その指導者のレベルがわかってしまう。
こう書くと老害が何言ってるんだと言われそうだが本当にそうなのだから仕方ない。

これまで地球を何周もしたんじゃないかというくらい、グラウンドにマーカーを並べてきた。
一歩+靴の先端。この足尺の計算があれば、どんな場所でも寸分狂わない完璧なグリッドが作れる。

マーカーを綺麗に並べ終わった時、自分で思わず見惚れてしまうことが多々ある。「よし、完璧や」と自画自賛しながら、一人でニヤニヤしている。

もちろん、ただ綺麗に並べればいいわけじゃない。グラウンドの使い方、練習の「流れ」すべてを計算している。
「ここから始めて、次はあっちに移動して、今のグリッドをそのまま大きく使って……」

トレーニングが止まることなく、流れるように、スムーズに次の展開へ移っていく。配置ひとつで、選手の集中力が切れるか、没頭し続けられるかが決まると思っているからだ。

自分でマーカーを置いてみて、もし少しでも曲がっていたとする。
「まあええか」と妥協してそのまま練習を始めると、その日の練習は決まって良くない。細部を誤魔化した空気感は、そのままピッチ全体に伝染する。

結局、すべてはディテールなんだと思う。そこを大事にできるか、こだわれるか。

どんな現場であっても、自分の中に絶対的な「自分だけの物差し」を持ち、どこまで細部を突き詰められるか。それがすべてだと思っている。

「なんでそんな苦労するの?」と言われても
先日公開した記事の反響で、Facebookに一通のDMが届いた。
「とても勇気がわきました。私ももっとガンバラなければ」

自分の経験が誰かの背中を少しでも押せたのなら、本当に嬉しい。
ただ、誤解してほしくないのは、俺は同情してほしいわけでも、苦労話をして悲劇のヒーローになりたいわけでもないということ。

プロの監督を離れたあと、無収入はまずいからニトリで生活費を稼いだ。タダ働きをしたわけでもないし、世間が思っているほどプロの世界、全員が高給取りなわけじゃない。大人としてごく当たり前のことだ。

今やっているスクールやチームも、グラウンド確保から道具の準備まで全部自分でやっている。プロ時代のように誰かが手厚く準備してくれるわけではない。

サッカー仲間からは「なんでわざわざそんな大変なことやってんの?」と呆れられることもある。だが、俺はこの場所を「自分で選んで」ここにいる。

今教えている土のグラウンドには、ラインなんてものはない。自分でマーカーを置いてピッチを作る。遠くのフェンスの支柱を目印に何の問題もなく綺麗なグリッドを描く。

道具や環境がどうあれ、プロとして子どもたちに見せる「指導の基準」だけは絶対に落としたくないからだ。

「見る目」を麻痺させない
練習でも試合でも、ふと「あ、なんか気持ち悪いな」と感じる瞬間がある。
言葉にするのは難しいが、ポジションの数十センチのズレ、カバーリングのコンマ数秒の遅れ、全員の意識がほんの少し途切れた空気感。
そう感じた数秒後、見事に裏を取られて失点する。

この「気持ち悪さ」を見逃さないためには、常に自分の「見る目」を研ぎ澄ませておく必要がある。
だが、同じ環境、同じレベルの仲間、同じ景色ばかりを見続けていると、人間はどうしても目が慣れて感覚が麻痺してしまう。

これはサッカーに限った話ではない。日常の慣れから来る「小さな綻び」を放置した瞬間、大きな事故や失敗につながるのと同じだと思う。

だから「自分のセンサーが慣れてきたな」「目が麻痺してきたな」と皮膚感覚で察した時に、あえて違うサッカーを見るようにしている。

映像でも何でもいい。自分とは全く別のサッカーや一流の仕事に触れ、自分の中の基準やセンサーを意図的にリセットするようにしている。
プロの現場を離れても、この「見る目」と「ディテールへのこだわり」だけは絶対に麻痺させない。

自分で選んだ泥臭い現場で、子どもたちと本気でぶつかり合う。そこには、プロの世界と何も変わらない、最高に面白いリアルがある。

ちなみに、ニトリ時代に家具の組み立て技術が京都で「三本の指」に入るようになったのは、絶対にこの足尺とディテールへのこだわりのおかげだと思っている。

知らんけど。

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