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日本の高校生は「理科は得意だけど、将来とは関係ない」と思っているらしい 〜4か国比較調査が示す学力と気持ちのギャップ〜

国国立青少年教育振興機構 青少年教育研究センターが「高校生の科学への意識と学習に関する調査-日本・米国・中国・韓国の比較ー」を発表しました。

この調査は、日本、米国、中国、韓国の高校生を対象に行われ、各国の高校生の特徴や課題を比較分析しています。

「理科離れ」という言葉が叫ばれ始めてだいぶ経ちますが、国際学力調査によれば日本の高校生が持つ科学の知識は、世界的に見ると高いレベルにあります。

しかしながら、学習意欲や気持ちは学力とは裏腹の姿もあらわになっています。「科学への興味・関心」や「自分ならできる」という自己効力感は国際的に見ても低いままであり、改善されていないようです。これは若者が思い描く自分たちの将来像にも直結しています。


「理科は面白い、でも将来役に立たない」?――日本の高校生の科学観のねじれ

まず、意外に思うかもしれませんが、日本の高校生の7割以上が「理科の学習は面白い」と回答しています。 これは、調査に参加した4か国の中で中国に次いで2番目に高い数字です。

しかし、その一方で、

  • 「社会に出たら理科は必要ない」と考えている割合も4か国中最も高い(約46%)。

  • そのためか、「もっと多くの科学知識を勉強したい」という意欲は4か国で最も低い。

という結果です。「学校の授業は面白い」と感じつつも、「それが社会や自分の将来とどう繋がるのか」という点で実感を持ちにくいのかもしれません。

関心は“自然科学”に集中、AIやロボットには冷淡? 高校生の興味分野を分析

では、具体的にどのような分野に興味があるのでしょうか。

  • 興味が強い分野: 「動物・植物」「人体」「天文」といった自然科学分野への関心は非常に高く、6割以上の生徒が興味を示しています。 特に「人体に関すること」への興味は4か国で最も高い結果でした。

  • 関心が低い分野: 一方で、「AI」「プログラミング」「ビッグデータ」といったデジタル技術への関心は、他の3か国に比べて相対的に低い傾向にあります。「ロボット」についても、関心がある生徒は約3割にとどまり、4か国の中では韓国に次いで低い水準です。

この調査、ロボットについて質問しているんですよね。その点も興味深いなと私は思いました。

探究活動は不足、学びは受け身――日本の高校教育の構造的課題

調査によれば、授業で扱われる内容そのものには一定の面白さを感じているようです。しかし、そこから一歩踏み出して「自発的に知識を広げたい」という探究心に乏しいようです。この背景には、学習環境そのものの課題が隠されていると考えられます。

学校での科学の学習方法については、

  • 「教科書に沿った観察や実験」「マルチメディアの活用」といった、学校が主導する学習活動の実施率そのものは高い傾向にあります。

  • しかし、「自分たちで課題を設定する」「野外で学習する」といった生徒主体の探究活動や、体験型の学習活動への参加率は低いという結果が出ています。

探究心が低い理由は、学校内外での学習機会の多様性の乏しさにあるようです。

  • 学校外での多様な体験の不足: 「キャンプやハイキングなど自然の中で活動した」経験が「何度もある」と答えた日本の高校生は、9.1%。これは米国(25.8%)や韓国(21.4%)と比べて著しく低い数値です。また、「科学館や博物館に行く」「科学の体験プログラムに参加する」といった、科学に触れる学習機会も4か国で最も乏しい状況でした。

  • 学校内での「受け身」な授業にも課題: 日本の高校では、ほとんどの学習活動において、生徒が「したい」と望む割合が、学校の「実施率」を下回っています。 例えば、「コンピューターなどを活用して学ぶ」授業は学校の65%で実施されていますが、「したい」と望む生徒は32%しかいません。与えられた学習をこなす「受け身」の姿勢が定着し、生徒自身が「もっと探究したい」と思えなくなっている深刻な状況を示唆しています。

生徒自身も、教科書に基づく学習を望む声が大きい一方で、自発的な探究活動への希望は他国に比べて少ないようです。

将来の夢は? 医療分野が人気、基礎研究やデータサイエンスは…

学習環境は、彼らの将来の夢にも色濃く反映されています。将来の進路については、

  • 進路は「医療系」に集中: 9割弱が高い大学進学意欲を持つ一方で、専攻したい分野は「医・歯・薬学系」(28.5%)に人気が集中。

  • 一方で、「研究者」や「IT技術者」といった科学技術の根幹を支える職業への関心は、他国に比べて極めて低いという結果です。「科学者」や「データサイエンティスト」といった基礎研究や新しい分野の職業への関心は、4か国の中で最も低いという結果でした。

  • さらに「科学に関する職業に就きたくない」と考える生徒は、男子で33.7%、女子では約4割(39.7%)にも上ります。なお米国男子ではこの割合はもっと高い(男子42.7%、女子35.6%)という点も気になりました。

科学はあくまで受験のための「お勉強」であり、社会や自分自身の未来に繋がる「リアルな選択肢」として捉えられていないのかもしれません。

将来の夢と科学への興味の関連性

興味深いのは、将来の夢と、科学分野への興味が強く結びついているらしい点です。

日本の高校生が将来の職業として最も関心を寄せている「医療職」は、科学分野の中で最も興味を持つと回答した「人体に関すること」と関連しているとみなしてもいいかもしれません。身体や健康への関心が、そのまま将来の職業選択に影響を与えている様子がうかがえます。高校生ですしね。

一方、「科学者」や「データサイエンティスト」といった職業への関心が低いのは、興味の対象として低かった「AI」や「ビッグデータ」といった分野への関心の低さと連動しているのでしょう。残念ながら、最先端の科学技術や基礎研究の分野が、まだ身近な将来の選択肢として捉えられていない学生が多いということなのかもしれません。

生成AIは身近な存在。でも、実践活用には慎重? 日本の高校生とAIの微妙な距離感

最近、若い人たちのあいだではChatGPTは「チャッピー」という愛称で呼ばれているそうですね。このような生成AIについては、日本の高校生の6割以上が利用経験があると回答しており、これは米中よりも高い数字です。

しかし、そのイメージは、

  • 「仕事や作業の効率が良くなる」といった効率化への期待が高い一方で、

  • 「新しい仕事が生まれる」といった職業創出への期待は低く、「人間の仕事が奪われる」といった不安を感じる割合が高い傾向にあります。

また、実際に「生成 AI を利用して文章や音楽、絵画などを作る」 「学校の宿題に生成 AIを利用する」といった実践的な活用経験は2割弱と、4か国の中で最も低い水準となっています。逆にもっとも活用しているのは韓国の若者のようです。

科学を信じるが、夢は見ない? 日本の高校生の現実的な科学観

日本の高校生は科学技術を多角的・批判的に見る冷静な視点も持っています。

  • 期待と信頼: 「がんの治療」や「環境問題の解決」には科学技術の力が必要だと、4か国中最も強く期待しています。また、「科学者の話は信頼できる」と考える割合も約6割と、決して低くはありません。

  • 冷静な視点: しかし、「科学技術が発展しても、すべての人が恩恵を受けるわけではない」と考える割合は81.0%で4か国中トップ。さらに「科学技術が発展すると、貧富の差がなくなる」の割合は、日本が25.8%、「科学技術の発展のためには自然環境が破壊されてもやむを得ない」の割合は、日本が23.9%で、米中韓を大きく下回っています。

理科離れではなく「実感の欠如」――科学教育を変えるために必要な視点とは?

この調査が示すのは、単なる「理科離れ」ではなく「学力と、興味・関心・実践の分断」という、より構造的な課題です。高い知識を持ちながら、それを探究する意欲も、社会で活かす未来像も描けていない。このままでは、日本の科学技術の未来は危ういと言わざるを得ません。

いっぽう、調査結果は、日本の高校生が科学に対して決して無関心ではないこと、むしろ強い興味や可能性を秘めていることも示唆しています。

彼らの興味をより深く、実践的な学びに繋げていくためには、いくつかの課題が明らかになっています。報告書が提言するように、解決の鍵は「質の高い探究・STEAM教育」にあるのでしょう。「言わずもがな」ではありますが。

  • 「なぜ学ぶのか」を実感できる機会を増やす: 学校の勉強が、社会や自分の将来とどう繋がるのかを具体的に示すことが、学習意欲を高める鍵となりそうです。

  • 「受け身」から「主体的」な学びへ: 生徒が自ら課題を見つけ、探究していくような体験型の学習を、学校内外で増やしていくことが重要です。学校は、知識を教えるだけでなく、生徒が自ら課題を見つけ、試行錯誤できる探究の場となる必要があります。

  • 多様なキャリアパスを示す: 大学や企業、地域社会が持つリソース(研究者、技術者、施設など)を活用し、科学が社会でどう活かされているかを肌で感じられる機会を増やすことが不可欠です。医療分野だけでなく、基礎研究やデータサイエンス、環境問題など、科学が貢献できる多様な仕事の魅力を伝えていくことも大切でしょう。

テストで良い点を取るための科学や理科から、社会をより良くし、自らの未来を切り拓くための科学へ。全ての子供たちに、知的好奇心に火をつけるリアルな学びの機会を保証すること。

今回の調査は、これからの科学教育のあり方を考える上で、非常に示唆に富むものです。当然のことながら、若い人たちだけの課題ではありません。社会全体、みんなの問題です。広く科学の面白さや重要性を探求し、社会の様々な場面で力を発揮できるよう、多くの人たちが一緒に考えていけるようになるといいのですが。


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森山和道 ライター、書評屋 よろしければ応援お願いします! いただいたチップは活動費に使わせていただきます!