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美容室ジプシー、終わりました

「成人式までよそで髪切らんといてな」

素直な私は実家の近くの美容室のおばちゃんのお願いを律儀に聞いてしまい、20歳までこのおばちゃんの美容室にしか行ったことがなかった。

今思えばおばちゃんの言葉に拘束力はないのだが、このおばちゃんに成人式のヘアセットをしてもらうことになっている(いつ決まったんや?)のと、髪の毛にこだわりがなくおしゃれとは程遠い人生を歩んでいたので、逆らう理由もなく従っていた。
地元を出て県外の大学へ進学した後も、髪を切るのは長期休暇で実家に帰った時だけ。もちろんおばちゃんの美容室で切ってもらっていた。

成人式でおばちゃんに昔ながらの盛り盛りヘアにされた後、急に路頭に迷った。
おばちゃんの縛りがなくなった後、髪の毛を切りたい時はどうすれば良いか誰も教えてくれなかったからだ。

正確に言うと、母に聞いても「住んでるとこの近くの美容室行けば」と回答されるだけ。
だからそれはどうやって探してどうやって決めてどのタイミングで行けばいいんだよ。

まずは成人式用に伸ばした長ったらしい髪をバッサリとやってしまいたい。
美容室の探し方がわからなかった私は、とりあえず駅前の1000円で切ってくれる美容室に向かった。

結論としては、私には合っていた。
安い、早い、うまい(かどうかはわからないけど別に変な髪型にはされない)。
しかも無駄に話しかけられない。
コミュ障貧乏学生にぴったりな美容室だった。
大学を卒業するまでこの美容室に通った。

卒業すると、就職で東京に配属になった。
東京でも同じく、最初は近所の1000円カットに通った。
だが、東京で暮らすうちに思った。


せっかく東京というおしゃれな街にいるんだし、お金も貯まってきたし、たまには良い美容室に行ってみても良いのでは?
都会の人みたいになっちゃうかも?
 

東京=おしゃれな街という安直なイメージが田舎者すぎるが、田舎者にこういう幻想を抱かせるのが東京である。あなおそろしや。
そんな中、私の運命を変えるサイトを発見した。

ホットペーパービューティーだ。

美容室を検索でき、予約もとれ、何より初めての美容室で使える初回来店クーポンとかいうものまである。
これを使わない手はない。

こうして、私は美容室ジプシーとしての人生を歩み始めた。


最初に予約した美容室は、最近できたばかりの新しい店だった。
なんだか初々しい美容師さんが担当だった。
お昼は駅の近くのお惣菜屋さんで買って食べてるんですよだの、関西に住んでたならお好み焼きとかよく食べてたんじゃないですか何玉が好きですかだの、やたら食べ物の話をされた。私は豚玉が好きという自己分析ができた。
カットにめちゃくちゃ時間がかかったし、恥を忍んで(田舎者なのにおしゃれな髪型を注文することが恥ずかしかった)前下がりボブでと言ったのに前下がってないまっすぐなボブにされた。
その後、二度と行くことはなかった。

次に予約した美容室では、なんとパーマを注文した。
地元のおばちゃんに一度「大学生なんやけん、いっぺんぐらいパーマかけとき!」と強引にパーマをかけられて以来、人生2回目のパーマである。
「髪の色キレイですね!」「髪さらさらですね!」とひたすら褒められ、仕上がりもよく、ウキウキで帰った。
母に電話で美容師に褒められたことを伝えると「ほんなん皆に言うとるわ。お世辞じゃわ」と言われ、素直に真に受けた自分を恥じた。
パーマは3週間ぐらいで儚く消えた。
その後、二度と行くことはなかった。

次はこだわり強めの美容室だった。
髪は梳けばいいもんじゃないみたいな話と、盆の窪の話をいっぱいされたことは覚えている。
その後、二度と行くことはなかった。

次は行ってから気付いたがギャル向けの美容室だった。
その後、二度と行くことはなかった。


そして転勤や結婚を経て、関西に住むことになった。
大学生の頃住んでいた場所からは離れており、当然またイチから美容室探しを行う必要がある。

引っ越し後最初に行った美容室では、予約は旧姓でしたのに店舗で新姓を伝えたせいで「予約が入っていない」と言われた。なんやかんや施術はしてもらえたが、自分のせいとは言え出だしが最悪で、早く帰りたかった。
その後、二度と行くことはなかった。

次の美容室が、当たりだった。
店内はおしゃれだがナチュラルでシンプル。
客層は若者からおばあちゃんまで幅広い。
そしてたまたま最初に担当してくれた美容師さんが、私の曖昧な希望を汲み取る力が凄かった。そうそう、言語化できなかったけどこういう髪型にしたかったの!
そして私に合わせて会話も少なめにしてくれるのが良い。隣の席で盛り上がってる話(今期のアニメやドラマの話、子どもを初めて海に連れて行った話、SixTONESの話等)をBGMにしたい派の私にはちょうど良かった。

今はこの当たり美容室に通っている。
かくして、私の美容室ジプシー生活は終わりを告げた。


ホットペーパービューティーへの要望を挙げるなら、ギャル向けかどうか予約する時にわかるようにしてくれ。
あと、ヘアカタログにアンニュイな表情の美人の写真を載せずに、そのへんの主婦を真顔で三方向(正面、横、後ろ)から撮影してる写真を載せてくれ。
さすれば悩める美容室ジプシーの半分は救われるだろう。

私は今日も「前回と同じ感じでお願いします」と注文できる幸せを噛み締めている。

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