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退職手当は「辞め方」で数百万円変わる

前回までの記事で、退職手当が「基本額」と「調整額」の2階建てでできていることを書きました。

今回は、退職手当の具体的な計算方法です。

はじめに

この記事は、国家公務員の退職手当制度を参考に書いています。

退職手当の制度は、正確に説明しようとすると非常に複雑です。この記事では概算をつかむことを最優先に、細かい例外や端数処理は省いています。

また、地方自治体では制度や運用が異なる場合があります。最終的にはご自身の自治体の例規を確認するか、給与担当者にお尋ねください。

それでも、おおよその金額を自分で出せるようになるだけで、ライフプランの解像度が一気に上がります。

退職手当は、2つの掛け算でできている

まず全体像から見てください。

退職手当の全体像

退職手当額 = 基本額 + 調整額

そして、それぞれの中身はこうなっています。

  • 基本額 = 給料月額 × 支給率

  • 調整額 = 調整月額 × 最大60月

複雑に見える制度ですが、骨格は掛け算が2つあるだけです。ここさえ押さえれば、あとは数字を当てはめる作業になります。

調べるのは4つだけ

この式を埋めるために必要な情報は、次の4つです。

① 退職事由 … 支給率に効く

② 退職日時点の給料月額 … 基本額の単価になる

③ 休職期間 … 勤続年数、そして支給率に効く

④ 退職日前60月の級 … 調整額に効く

①と③は、どちらも「支給率」に効きます。退職事由と勤続年数の組み合わせで支給率が決まるからです。

この4つを順に見ていきます。

イメージを掴むため、架空の職員Aさんで試算します。

 Aさん
・52歳
・勤続30年
・自己都合退職
・給料月額 40万円
・育児休業を1年取得(子が1歳になるまで)
・直近7年間は5級

モデルケースAさんの設定

① 退職事由 ― どう辞めるか

「退職手当の全体像」の図の①の部分です。

同じ勤続年数でも、辞め方によって支給率が大きく変わります。ここが退職手当で最も重要なポイントです。

主な退職事由は次のとおりです。

■自己都合退職

自分の希望するタイミングで退職する場合です。支給率が低く設定されています。

■定年退職

定年に達して退職する場合です。自己都合より高い支給率が適用されます。

■応募認定退職

早期退職募集制度に応募し、認定を受けて退職する場合です。自治体によっては「定年前早期退職」「勧奨退職」など呼び名が異なることがあります。定年前の退職でありながら、定年退職の支給率が適用されます。さらに、定年前の残り年数に応じて給料月額が割増しされる特例もあります。

FIREを考えるなら、この制度の有無と条件は必ず確認してください。同じ時期に辞めるとしても、自己都合か応募認定かで金額が大きく違ってきます。

実際の支給率がこちらです。

退職手当の支給率

※ 国家公務員の支給率です。地方自治体も同じ率を用いている場合が多いですが、各条例の別表でご確認ください。

同じ勤続年数の行を、左右で見比べてみてください。勤続30年なら、自己都合が34.7355、定年等が40.80375。給料月額が同じでも、辞め方だけで給料6か月分近い差がつきます。

もうひとつ注目してほしいのが、上限に達する年です。

定年等は勤続35年で47.709に達し、そこで頭打ちになります。一方、自己都合が同じ47.709に届くのは勤続43年です。8年の開きがあります。

Aさんの場合
自己都合退職です。支給率は左側の列を見ることになります。

Aさんの退職事由

② 給料月額 ― いくらを基準にするか

「退職手当の全体像」の図の②の部分です。

ここは間違えやすいので、丁寧に確認してください。

基準になるのは「給料月額」であって、毎月振り込まれる金額ではありません。地域手当や管理職手当など、毎月決まった額が支給される手当であっても含まれません。

給料表に定められた額(給料の調整額など、俸給表以外の額が含まれる場合はそれも加えます)が基準です。

基本的には、給与明細の「給料」の欄の額と思っておけば大丈夫です。

Aさんの場合
給料月額は40万円です。

モデルケースAさんの給料月額

③ 休職期間 ― 勤続年数から引かれるもの

「退職手当の全体像」の図の③の部分です。

勤続年数は、単純に採用から退職までの年数ではありません。休職していた期間の一部または全部が差し引かれます。

主なものは次のとおりです。

・育児休業 子が1歳になるまで  期間の 3分の1
・育児休業 子が1歳以降     期間の 2分の1
・私傷病による休職        期間の 2分の1
・停職              期間の 2分の1
・配偶者同行休業         全期間
・自己啓発等休業         全期間(要件に該当すれば 2分の1)
・組合専従休職          全期間

逆に、引かれないものもあります。

・病気休暇
・産前産後休暇
・公務による病気休職

差し引かれた後の期間が「勤続年数」となり、これが支給率を決めます。

育児休業を取っても、その全期間が引かれるわけではありません。ここを誤解している方が多い印象です。

Aさんの場合
育児休業1年(子が1歳まで)なので、3分の1にあたる4か月が差し引かれます。
勤続30年 - 4か月 = 29年8か月
支給率を見るときは29年の行を使います(1年未満は切り捨てとして計算します)。

モデルケースAさんの勤続期間

④ 退職日前60月の級 ― 調整額を決めるもの

「退職手当の全体像」の図の④の部分です。

調整額は、職責の高さを反映する部分です。

級ごとに「調整月額」が定められていて、その額が高い方から60か月分(5年分)を合計します。

職員の区分と調整月額

※ 国家公務員(行政職俸給表(一)及び指定職)の場合です。

ポイントは3つあります。

  • 休職していた月は含めません

  • 60か月分は、それより前の期間まで遡れます

  • 降格している場合、最も職責が高かった60か月を拾えます

つまり「退職直前の5年間」に固定されているわけではなく、在職期間の中で最も条件の良い60か月が採用されます。

そして、表の下の注意書きが重要です。

  • 勤続9年以下の自己都合退職者等は、調整額が支給されません

  • 勤続10年以上24年以下の自己都合退職者は、調整額が半額になります

自己都合退職の場合、勤続25年がひとつの節目になっています。24年で自己都合退職すると、支給率が低いうえに調整額まで半分になります。

Aさんの場合
直近7年間が5級です。表で見ると区分8にあたり、調整月額は32,500円。
勤続29年6か月なので減額の対象にはならず、全額が支給されます。

Aさんの退職手当を計算する

4つが揃いました。実際に当てはめてみます。

基本額

給料月額 400,000円 × 支給率 33.3963(自己都合・勤続29年)
= 13,358,520円

調整額

調整月額 32,500円 × 60か月
= 1,950,000円

合計

13,358,520円 + 1,950,000円 = 15,308,520円

Aさんの退職手当は、およそ1,530万円という計算になります。

思ったより多いでしょうか。それとも少ないでしょうか。

いずれにせよ、この金額をライフプランに入れるかどうかで、判断は変わってきます。

Aさんが応募認定退職で認定された場合

同じAさんが、早期退職募集制度に応募して認定を受けた場合はどうなるか。

変わるのは2つです。

1. 支給率が「定年等」の列になる

応募認定退職は、定年前の退職でありながら定年退職と同じ支給率が適用されます。勤続29年なら、自己都合の33.3963ではなく、39.29715を使うことになります。

2. 給料月額が割増しされる

さらに、定年前早期退職特例措置により、定年までの残年数1年につき3%、給料月額が割増しされます。

基本額 = 給料月額 ×{1 +(3% × 定年までの残年数)}× 支給率

Aさんは52歳。定年を60歳とすると、残年数は8年です。

割増率 = 3% × 8年 = 24%
給料月額 400,000円 × 1.24 = 496,000円

この割増後の金額に、定年等の支給率を掛けます。

基本額

496,000円 × 39.29715 = 19,491,386円

調整額

32,500円 × 60か月 = 1,950,000円

合計

19,491,386円 + 1,950,000円 = 21,441,386円

およそ2,144万円

自己都合退職の場合が約1,530万円でしたから、その差は約613万円です。

同じ日に、同じ人が辞めても、制度に応募して認定を受けたかどうかだけで、これだけ変わります。

割増には条件があります

この特例が使えるのは、次の要件を満たす場合です。

  • 定年前15年以内であること(60歳定年なら45歳以上)

  • 勤続期間20年以上であること

  • 定年前6か月以内の退職ではないこと

また、割増率は職責によって異なります。局長クラス以上は1%、審議官クラスは2%、事務次官クラス以上は割増しがありません。

そして最も重要なのは、そもそも自分の自治体に早期退職募集制度があるか、あるとしてどういう条件かということです。募集の対象年齢、募集人数、応募時期は自治体ごとに定められています。制度があっても、募集がなければ応募できません。

60歳以降なら、自己都合でも定年扱い

もうひとつ、知っておくべき経過措置があります。

定年引上げに伴い、当分の間、引上げ前の定年年齢(60歳)以降に非違なく退職した場合は、退職理由を「定年退職」とみなして算定することになっています。

つまり、60歳を過ぎてから辞めるなら、自己都合であっても定年退職の支給率が使えるということです。

たとえば勤続38年・60歳で自己都合退職した場合。

本来の自己都合の支給率  42.7707
定年扱いの支給率        47.709

差 4.9383 × 給料月額 400,000円 = 約198万円

60歳まで待つと、約200万円変わる計算になります。

ただし、割増(3%×残年数)の対象は「引上げ前の定年に達する日前まで」なので、60歳以降の退職に割増はつきません。

整理すると、こうなります。

いつ・どう辞めるかで変わる支給率と割増有無

45歳以上60歳未満で応募認定を受けた場合だけが、「定年の支給率」と「給料月額の割増」を両方得られるということになります。

あなたの場合は

同じ手順を、自分の数字でやってみてください。

手順1|給与明細を用意する

「給料」の欄の額を確認します。これが給料月額です。

正確には退職日時点の給料月額なので、退職までに昇給日を挟む場合、昇給分は高くなります。

手順2|この記事の表で支給率を調べる

正直に言うと、退職手当の条例を自分で読み解くのは簡単ではありません。

「第◯条に該当する者は第◯条の規定にかかわらず」といった場合分けが何重にもなっていて、正確に読み取るにはかなりの慣れが必要です。

給与を担当していたときも、退職手当の条例が、最も条文を読み解くのが難解であったと記憶しています。

多くの自治体は国に準じた制度を採用しているので、まずはこの記事に載せた支給率表で概算を出すのが現実的です。

自分の退職事由と勤続年数が交差するところを読んでください。

手順3|調整月額を確認する

同じく、この記事の調整月額表から自分の級に対応する額を確認し、60か月分を計算します。

このとき、減額・不支給の条件に当たらないかも見ておいてください。勤続年数と退職事由の組み合わせによっては、半額になったり支給されなかったりします。

手順4|足す

基本額 + 調整額。これが退職手当の概算額です。

ここまでで5分ほどだと思います。

手順5|正確な数字が必要になったら、給与担当に聞く

実際に退職時期を決める段階になったら、人事担当課に相談してください。試算に応じてくれる自治体もあります。

条例を読み解くのは専門職の仕事です。概算は自分で、正確な数字はプロに。この使い分けで十分だと思います。

試算するときの3つのポイント

自分の数字が出せるようになったら、条件を変えて何度か計算してみてください。

1. 勤続年数を1年ずつ動かしてみる

支給率は勤続年数とともに上がりますが、どこかで頭打ちになります。定年等なら35年、自己都合なら43年で上限です。それ以降は、どれだけ勤めても支給率は1円も増えません。

「あと1年勤めれば支給率がまだ伸びるのか、それとももう変わらないのか」。ここが分かると、辞め時の判断に影響する場合があります。

2. 年齢の節目を意識する

これまで見てきたとおり、45歳(割増の対象になる)と60歳(自己都合でも定年扱いになる)が大きな節目です。

自分がその手前にいるなら、数年待つだけで金額が大きく変わる可能性があります。あとは、数年待つことで増える金額と、その間も働き続けることを、自分の価値基準で天秤にかけることになります。

3. 自治体の制度を確認する

早期退職募集制度の有無と条件。これは自治体ごとに違います。

制度があっても募集がなければ応募できませんし、対象年齢の要件もあります。数百万円の差になる話なので、確認しておく価値は十分にあります。

ただ、「辞めることを考えている」と職場に知られたくない、という方もいると思います。

そういう場合は、給与担当者にメールで照会するのがおすすめです。

実は、担当者の側もその方が助かります。

退職手当の制度は複雑で、口頭で正確に答えるのは難しいものです。メールなど文書でもらえれば、計算書を作成して担当内でダブルチェックしたうえで回答できます。記録が残るメールで照会してもらった方が正確に答えられるので、ありがたく感じていました。

「わざわざメールするのは大げさでは」と思う必要はありません。むしろ、そちらの方が確実です。

数字が出せると、判断が変わる

退職手当を「よく分からないもの」として扱っている限り、辞め時は感覚でしか決められません。

しかし数字が出せるようになると、「この年に辞めると支給率が上がる」「ここから先は伸びない」という具体的な材料が手に入ります。

私自身、この計算をして、FIREの目標時期を設定しています。

給与を担当していて意外だったのは、退職が決まってから初めて金額を知る人が多かったことです。

もっと早く知っていれば、違う選択肢を選んでいたかもしれません。

まずは5分、自分の数字を出してみてください。

こちべえ


【出典】
・国家公務員の退職手当制度の概要(内閣官房内閣人事局)
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/jinji_c3.html

・国家公務員退職手当支給率早見表(平成30年1月1日以降の退職)
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/h300101_taishoku2.pdf

・定年前早期退職特例措置(内閣官房内閣人事局)
https://www.cas.go.jp/jp/gaiyou/jimu/jinjikyoku/files/siryou2-1.pdf

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