人が心を開くために、必要だったもの。12の現場で見た「変わる瞬間」。
「人生の答え」は、現場に落ちていた。
前回、
誰かがつく「嘘」の向こう側には、
責められる恐怖や「助けて」という小さな心の声が
隠れていることがある、
というお話を書きました。
では、その隠してしまった
「本当の気持ち」は、
どんな時に外へ出てくるのでしょうか。
保育、
介護、
発達支援、
そしてさまざまな職場。
12の現場を歩いてきた私は、
人の表情がふっと緩み、
閉ざしていた心の扉が
少しずつ開いていく瞬間を何度も見てきました。
そのたびに感じたことがあります。
人を変えるのは、
特別な言葉ではありませんでした。
今日は、
人が心を開くために本当に必要だった、
ある「場所」についてお話ししたいと思います。
「正しいアドバイス」が、かえって心を閉ざしてしまう理由
若い頃の私は、
「誰かの力になりたい」という思いが
人一倍強い人でした。
悩んでいるお母さんを見ると、
保育士として学んだ知識を伝えたくなる。
不器用な若者には、
「こうすればうまくいくよ」と励ましたくなる。
介護や発達支援の現場でも、
「何とかしてあげたい」という気持ちでいっぱいでした。
でも、
その頃の私は大切なことを
見落としていました。
正しい言葉が、
必ずしも相手を救うわけではないということです。
「それはこうしたらいいですよ」
「もっと肩の力を抜いて」
「大丈夫ですよ」
どれも間違った言葉ではありません。
けれど、
その言葉を受け取った相手は、
どこか申し訳なさそうにうつむいてしまうことがありました。
「そんなこと、分かっている」
「できないから苦しい」
そんな心の声が、聞こえてくるようでした。
私は、
解決しようとするあまり、
相手の苦しさを十分に受け止められていなかったのだと思います。

人が求めていたのは、解決ではなく「そのままを受け止められる場所」
若くして、
お母さんになった女性。
離婚して、
一人で仕事と子育てを頑張っているお母さん。
愛する我が子とのコミュニケーションや扱いに悩んでいる、
発達支援の現場で出会った方。
介護の現場で心を閉ざしていた利用者さん。
たくさんの人と出会う中で、
少しずつ分かってきたことがあります。
人が本当に求めていたのは、
「正しい答え」ではありませんでした。
「ここでは、できない自分を見せても大丈夫」
「怒られない」
「情けないと思われない」
そんな『安心感』でした。
「それは大変だったね」
「よく頑張ってきたね」
その一言だけで、
張り詰めていた表情がふっと和らぎ、
せきを切ったように涙を流す方もいました。
私は、
その姿を何度も見てきました。
人は安心できる場所があって初めて、
本当の気持ちを話せるのだと教えられたのです。
私自身が欲しかった「安心できる場所」
振り返れば、
一番その場所を必要としていたのは、
私自身だったのかもしれません。
家庭では、
主人のギャンブル依存症という大きな問題を
抱えていました。
誰にも言えない。
弱音も吐けない。
「私が頑張らなきゃ」
「私が見守らなきゃ」
そんな思いだけで毎日を過ごしていました。
そして、心は少しずつ悲鳴を上げていました。
その後、
仕事のことで、
うつ病になり、
助けてもらう側になって初めて知りました。
「弱くてもいい」
「泣いてもいい」
「そのままのあなたでいい」
そう受け止めてもらえる場所が、
人を少しずつ元気にしていくのだということを。
私は、
支援する立場になってから学んだことよりも、
支援される立場になってから学んだことの方が、
ずっと多かったように思います。
おわりに
人が心を開くのは、
誰かの「正しい言葉」に説得されたときではありません。
「ここなら、そのままの私でいていい」
そう心が安心したときです。
『安心できる場所』があるから、
人は泣くことができます。
『安心できる場所』があるから、
人は本音を話せます。
そして『安心できる場所』があるから、
自分の力で、
もう一度歩き始めることができます。
それが、
12の現場を歩く中で、
私が何度も教えてもらったことでした。

私は、
気になることがあると、
すぐ書籍を探します。
安心できる場所の大切さや、
人の心への寄り添い方を見つめ直したいときも
私は本を手に取ります。
本は、
しっかりとヒントや知恵を静かに与えてくれるのです。
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『心理学に学ぶ鏡の傾聴』
岩松正史(著)
「聴くこと」に自信がないとき、
まず手に取りたい一冊です。
相手の話をただ受け止めるだけでなく、
自分自身の気持ちにも耳を傾けるという視点が、
とても印象に残りました。
「本音を話しても大丈夫」と思ってもらえる関わり方を考えたい方に、
ぜひおすすめしたい本です。
『対人援助の現場で使える 傾聴する・受けとめる技術 便利帖』
大谷佳子(著)
保育、介護、福祉、医療など、
人を支える現場にいる方にぴったりの一冊です。
傾聴や受容の基本が、
実践の場面を思い浮かべながら学べるので、
読んですぐに日々の関わりに活かしやすいと感じました。
「正しい言葉」よりも、
「安心して話せる空気」をつくりたい人に向いている本です。
『プロカウンセラーの聞く技術』
東山紘久(著)
「話を聞く」とは、
ただ耳を傾けることではないのだと、
あらためて気づかせてくれる本です。
相手の言葉を急いで整理したり、
答えを出そうとしたりする前に、
まずはその気持ちに寄り添うことの大切さが伝わってきます。
人が心を開くきっかけを知りたい方に、
長く手元に置きたくなる一冊です。
『聞く力 心をひらく35のヒント』
阿川佐和子(著)
会話が得意でなくても、
相手の本音を引き出すヒントがたくさん詰まった本です。
やさしく読めるのに、
聞き方ひとつで人との距離が変わることを実感させてくれます。
日常の対話を少しだけあたたかくしたいときに、
そっと背中を押してくれる一冊です。
『居るのはつらいよ』
東畑開人(著)
「何かをしてあげる」ことだけが
支援ではないと教えてくれる本です。
ただそこにいること、
急がずに見守ること、
その難しさと大切さが丁寧に描かれています。
安心できる場所とは何かを、
もう一度考えたいときに読みたい一冊です。
だから私は今、
目の前の人に何か特別なことをしてあげたいとは思っていません。
ただ、
「ここにいても大丈夫」と思える、
小さな止まり木のような存在でありたい。
そんな気持ちで、
人と向き合っていきたいと思っています。
次回予告:
人は、安心できる場所で本音を話せたとき、少しずつ自分を好きになっていくことができます。
では、その「自分を大切にする心(自己肯定感)」は、一体どこで、どのように育まれるのでしょうか。
次回は、「自己肯定感はどこで育つのか」について。
現場で出会った子どもたちや、私自身の凸凹の人生を振り返りながら、ゆっくりと考えてみたいと思います。
心をすり減らさない歩き方を探して、
12の職場を旅してきました。

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