世界でTamari(たまり)と呼ばれる醤油と「大野紫GF6」は何が違う?


■アメリカでのためらい
2024年11月。僕はLAで開催された食品展示会で大野紫GF6をお披露目していました。プロの食品バイヤーやシェフに向けて試食を差し出すとまず間違いなくこう返ってきます。
「Tamari?」
頭の中では「本当は違う。大野紫GF6のことを説明したいぃぃぃ」と念じながら、にこやかに「Yes, Tamari!!」と、まずYesから答えます。だいたいバイヤーの頭の中では、Tamariとグルテンフリー醤油が一体化していますから、間違いとも言えないので、肯定から入る。
「でも、香りが優しくクセがないでしょう?大野紫GF6なら、厨房のレシピを変えなくても、醤油の味はそのままでグルテンフリーの料理にできる。これがうちの違いなんです」と、テイスティングに入っていただきます。
相手の時間が許せばじっくりと大野紫GF6の説明をしますが、商談の8割方は時間の勝負。内心、「世界語になってるTamariと、東海地方のたまりは違うし、さらに大野紫GF6も違う。すこしでも説明したいのに」という忸怩たる思いを残しながら、次々と別のバイヤーとの商談を重ねていきます。
正直、Tamariの知名度に乗って説明することにはためらいがあります。だって全然違うものだから。
紙面ではこれらの違いをじっくり説明できるので、連載第2回目となる今回は、世界語のTamari(たまり)と、東海地方のたまり、大野紫GF6の違いについて明らかにしておきましょう。
■世界はグルテンフリーの醤油をTamariと呼ぶ
醤油輸出のために海外現地へ行くと分かること。「Tamari」という言葉は食品バイヤーやシェフはもちろん、一般の消費者の方々にも完全に定着しているのです。「Tamariは醤油で、グルテンフリーだ」で「グルテンフリーは健康にいいイメージ」が広く浸透している。日本発祥の言葉が海外で通じる。それってすごいことだと思うんです。
アメリカの現地工場でTamariを製造するSan-Jの佐藤社長によると、1970年代に「ヒッピーの人たちに合う調味料を提案しようと、有機栽培の原料を用いて添加物を使わないたまりしょうゆを造った」(佐藤氏)そうです。
カウンターカルチャーの中で東洋的な食生活が実践されていたのは想像がつきますが、そこでまさかTamariが使われていたとは!と驚くばかりです。
(出典:日経クロストレンド記事 2022年3月31日)
さらに一般的な認知が広がったきっかけとして、世界的テニス選手であるジョコビッチ氏の影響は外せないでしょう。彼自身がパフォーマンスの秘訣はグルテンフリー食にあると公言して、「Shoyu」や「Soy sauce」の表記ではなく「Tamari」と書いてグルテンフリーレシピを紹介したことは見逃せません。小麦を避ける食生活が世界的なトレンドになる中で、「小麦を使わない醤油」としてのたまりが知られていきました。
これは「ジョコビッチの生まれ変わる食事」(原著タイトル:「Serve to Win」)というタイトルで書籍化されています。
■アメリカ小売店に見るグルテンフリー

LAのスーパーマーケットを視察してきました。Tokyo Central, Mitsuwa, K-Martあたりがアジア系の資本で、ほとんど日本と品揃えが変わらないか、むしろ日本より充実しているのでは?と驚かされるお店もあります。K-Martはコリアン商品と日本商品のミックスで非常に活気がありました。やはり面白いのは現地資本のWholeFoods, Trader Joe's, Sprouts。「Shoyu」と並んで「Tamari」商品を多く見かけます。やはりトップブランドは佐藤社長のSan-J Tamariですね。




店舗ごとの特色はあれど、Gluten-Free(グルテンフリー)、Organic(オーガニック、有機食品)、Plant-based(植物由来、ベジタリアン仕様)などの商品特徴がプライスカードに表示されていて、顧客に選ぶ基準を与えています。世界のグルテンフリー食品市場は2025年に約81億ドル、2026年には約88億ドルへと成長を続けています。(出典:フォーチュンビジネスインサイツ 2026年8月10日更新記事「グルテンフリー食品市場規模、シェア及び業界分析」)
■Tamariは世界語になった。
しかしながら、海外で販売されているTamariを使って味付けした、とうたっている商品の原材料は、確かめてみると濃口醤油だったりすることもしばしば見かけます。海外の食品バイヤーと話していると、「Tamariって醤油のことでしょう」と、たまり醤油ではなく一般的な濃口醤油を指している方も一人や二人ではありません。
Tamariは東洋的食生活を行うカウンターカルチャーやスポーツ選手たちによるムーブメントで広がり、言葉としては一般的になった。しかし必ずしも正確な理解に至るまで浸透しているわけではない。つまり、Tamariは世界語になったけど、日本の「たまり」とは別物である可能性もある。これが今のところ私が理解している市場の現状です。
Tamariの知名度の高さは、グルテンフリーでものづくりをする私たちには追い風です。でも、そこにただ乗っかるだけでいいとは思えないのです。
金沢大野の気候風土に根付いて、ものづくりをしているプライドがありますから。また、Tamariを作る方、東海のたまりを作る方のそれぞれのプライドもよく理解できますから。
■大野紫GF6は、醤油JASの分類は「たまり」。でも使い方は「濃口醤油」

大野紫GF6は、「風味のよいグルテンフリー醤油が欲しい」という海外のニーズから、これまでの醤油JASの5分類ではくくれない、第6の醤油を目指して生まれました。
しかし、現行の醤油JASの表示法の中では、食品表示上は「たまりしょうゆ」のカテゴリに入ります。あくまで食品表示上は同じカテゴリなのですが、歴史や味の方向性は全く異なるものです。
東海地方で伝統的に醸造されている「たまり」は、しょうゆ全体の中でも非常に特殊な製法をしています。東海地方(愛知・岐阜・三重)のたまり醤油は、大豆と塩を原料に、2〜3年かけてじっくり熟成させます。ここに少量の小麦を原料として使うものもあります。色は濃く黒々として艶、とろみがあり、香りも味わいも濃厚。照り焼き、すき焼き、うなぎのたれ――東海の「旨み」を大切にした食文化に深く根を張った調味料です。僕は東海のたまりをリスペクトしています。
一方、大野紫GF6の原材料は、有機丸大豆・有機玄米・食塩・白山伏流水。有機玄米を加えることで発酵が促され、さらりとした質感、軽やかな色合い、そして雑味のない澄んだ風味が生まれます。熟成時間は1年程度。刺身やお寿司、冷奴のつけ・かけ醤油に、素材の色を大切にしたい煮物に。いつもお使いの濃口醤油を、大野紫GF6に替えるだけ。それだけで、食卓のグルテンフリー対応が完了します。
強い旨みを与える濃厚な東海のたまりと、素材の持ち味そのものを活かすことを目指す大野紫GF6は、味の指向性がまるで逆なのです。
■なぜ米を加えるのか

大野紫GF6に有機玄米を加えるのには、「小麦の代わり」ではありません。金沢大野に江戸時代から伝わる「醤油に米を加えて、自然な甘みとまるみを引き出す」伝統製法を継承した、アップデートなのです。
もともと金沢大野から紀州湯浅に職人を派遣して醤油の製法を学んだという伝承もあり、おそらく醤油醸造技術は関西系の系譜に連なるもの。実際に、龍野(兵庫県)では薄口醤油に糀の甘酒を甘味として加える製法が残っていることも示唆的です。金沢大野では、濃口醤油に米の甘みを加えており、関西とも関東とも違う独自路線に発達しました。
なぜか?
金沢大野は、港町だから。というのが今の仮説です。
日本海の新鮮な魚介を好むこの町では、素材の持ち味を上書きしてしまうような強くて濃い醤油や、塩の強い味わいは、求められませんでした。むしろ、素材に寄り添って、持ち味をそっと引き立てるあっさりとした甘みのある醤油。それがこの港町の味の嗜好にぴったりと合ったのです。
その400年前の知恵が、グルテンフリーという現代の課題に対して答えるヒントになりました。
「たまりでもなく、淡口でもない。 素材の持ち味を生かすことを追求して、金沢大野ならではの醤油をつくる」
こうして生まれた第六の醤油を、世界に届けたい。
「Tamari?」と聞かれて「Yes」から説明を始めるときに、いつもためらいがあって、内心では、Tamariの言葉に乗って世界に届くだけで終わらせてはいけないと感じています。
■大野紫GF6は、たまりの模倣品ではないし、「たまり風の調味料」でもない。
港町・大野が400年かけて磨いた「素材の持ち味を生かす」嗜好から生まれた大野紫GF6は、金沢大野ならではの一本です。
世界中でグルテンフリーの需要が高まっている、日本食のニーズが高まっている今こそ、このお醤油は必要とされると考えていますし、実際、すこしずつ手応えが感じられています。
2024年から始まった大野紫GF6のアメリカ輸出。2025年の1年間の販売量を、2026年は半年でクリアしました。まだこれからですが、いまのところは倍増ペースに乗ってきました。
しかし正直、時には悔しい思いもします。
「たまり風の醤油だけど、たまりの匂いがない」とバイヤーから断じられてしまうことも。狙いの違う商品だと理解されていない。まだまだ、自分に伝える力がないのだなと、気持ちを切り替えて取り組んでいます。
次回は、この醤油を醸造する「グルテンフリー専業工場」の話を書きます。工場は作った。認証も取った。でも、世界はまだこの産地を知らない。
――醤油醸造に向き合う職人たちの、正直な現在地の話です。
※もし、グルテンフリー醤油を原材料として検討されている食品メーカーの方がいらっしゃれば、大野紫GF6は業務用のバルク供給にも対応しています。お気軽にご連絡ください。
■お問い合わせ・取材申込先
石川大野醤油協同組合(むらさき会・青年部事務局)
〒920-0331 石川県金沢市大野町4丁目甲18-6
Tel: 076-254-5601
Web: https://www.oonomurasaki.jp
本記事は「グルテンフリー戦記」第2回です。
2026年7月〜2027年6月、毎月1回・全12回連載予定。

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