セッション定番曲その251:On The Sunny Side Of The Street
ジャズセッションの定番曲。1930年、大恐慌の真っ只中の米国で書かれたブロードキャスト・ミュージカル曲。ただ能天気なだけじゃなく「明るさの中にある悲哀」「悲しさの中にある希望」を表現してみましょう。
(歌詞は最下段に掲載)
和訳したものはあちこちのWebサイトに掲載されているので、ここではポイントだけ説明します。
ポイント1:Louis Armstrong
この演奏/歌唱にピンと来ない人は、そもそも音楽がそんなに好きじゃないのもしれません。伸びやかなトランペット、おおらかな歌声。空を見上げながら通りを歩くようなテンポ。ジャズが云々ではなく、心の奥が暖かくなるような音楽。「明るい表通りで」という邦題にぴったりですね。
ポイント2:Jonathan Batiste
2013年録音。Jonathan Batisteは新世代を代表するミュージシャン/アクティビスト。この曲も古いジャズスタイルで演奏しているように見せかけながら、細かい仕掛けが満載です。現代のジャズミュージシャンは煙いジャズクラブに篭っているのではなく、様々な分野のアーティスト達とコラボしたり、メディアに露出したりして、その経験を栄養にしていますね。
ポイント3:歌詞のポイント
Grab your coat, and get your hat, Leave your worry on the doorstep
Just direct your feet, To the sunny side of the street
陽の当たらない部屋にいても気が滅入るだけだし
ちょっと着飾って、通りに出てみようよ
通りの陽の当たる側を選んで歩こう
Can't you hear a pitter-pat? And that happy tune is your step
Life can be so sweet, On the sunny side of the street
英語は日本語よりも擬音語/擬態語が少ないのですが、この「pitter-pat」は「雨がパラパラ降る(音)」「足音を立ててパタパタと歩く描写によく使われます。英語の感覚だと擬音語を多用すると「子供っぽい」となりがちですが、ここでは「思わず足音を立ててしまうウキウキした感じ」として上手く使われていますね。
耳を澄ますと「ウキウキ」した足音が聞こえるでしょ?
それこそが思わず奏でる幸せな曲
通りの陽の当たる側では人生は素敵になるよ
I used to walk in the shade, With those blues on parade
But I'm not afraid, This rover crossed over
ここでちょっと過去を振り返ります。
「rover」は「あてもなく彷徨う人」。
思い返してみると、どうにも陽当たりの悪い側を歩いていたよ
ブルース(憂鬱な気持ち)を引き連れて歩いていた
でも、もう心配事は吹き飛んだ
もう俺は放浪者じゃない、陽の当たる側に渡ったんだ
If I never have a cent, I'll be rich as Rockefeller
Gold dust at my feet, On the sunny side of the street
「Rockefeller」はNYの「ロックフェラー・センター」でも有名な大金持ち。億万長者の代名詞です。発音は「ロックフェラー」ではなく「rɑ́kəfèlər」。
ポケットの中は空っぽでも、気分次第で大金持ちでいられる
足元の埃だってまるでたっぷりの砂金さ
陽の当たる側を歩いていこう
時代は不況真っ只中、主人公は失業しているのかもしれない、恋人もいないのかもしれない。ついついトボトボと下を向いて歩きがち。でも待てよ、幸せなんて自分の気持ち次第じゃないか。太陽の光は誰にも平等に注ぐもの。しかもタダ。胸を張って堂々と日向の中を歩いていこう。と自分を鼓舞しています。
背景を知らないとただの能天気な歌に聞こえますが、実は「明るさ」と「悲哀」を表裏一体で持っている主人公。そんな奥行きを歌で表現したいですね。
ポイント4:「ヴァース」ありますが・・・
I walked with no one, And talked with no one
And I had nothing but shadow
Then, one morning, you passed, Then I brightened at last
Now, I greet today and complete today, With the sun in my heart
All my worries blew away, When you taught me how to say
例によってヴァースは「ネタバレ」的なもので、もっと言えば「蛇足」ですらあります(順番的には本歌よりも先に出てきますが)。孤独だった主人公にある日「気になる人」が出現して、それをキッカケに気分が変わる、という陳腐な内容。個人的にはこのヴァースは歌わない方が本歌の物語が活きるかと思います。
ポイント4:曲の構成
典型的なAABA構成ですが、4分音符でリズムがくっきりしている箇所が多いのと、常に音程が変化していて、上昇→下降が続いているところが特徴。歌い慣れてきたら譜割は崩して工夫しても良いと思います。
Bパートの先頭4小節、歌詞が少しネガティヴになる箇所でどうそれを表現するかがポイントのひとつだと思います。

ポイント5:様々なバリュエーションを聴き比べてみましょう
Peggy Lee、1942年録音
太平洋戦争が始まった年。ベニーグッドマンの楽団との録音。時代を感じる演奏/歌唱ですが、この品の良さもジャズの一面。
Nat King Cole Trio
多幸感に溢れた演奏/歌唱、人類の宝ですね。
Emilie-Claire Barlow、2005年録音
前半はベースのみの伴奏で歌っています。語るようなリラックスした歌唱。
Jazzmeia Horn, Emmet Cohen、2021年セッション録音
現代の歌姫による自由自在なスキャットのお手本。
Doris Day、1961年録音
ゆったりとしたテンポで歌われています。希望や喜びを表現する為に少し速いテンポで演奏/歌唱されることが多いので、この「周りを見回しながら、ゆっくり歩いている」感じは新鮮です。
◼️歌詞
Grab your coat, and get your hat
Leave your worry on the doorstep
Just direct your feet
To the sunny side of the street
Can't you hear a pitter-pat?
And that happy tune is your step
Life can be so sweet
On the sunny side of the street
I used to walk in the shade
With those blues on parade
But I'm not afraid
This rover crossed over
If I never have a cent
I'll be rich as Rockefeller
Gold dust at my feet
On the sunny side of the street
