人類史上、初めてカーセックスと戦った男
高校時代、僕はアメフト部だった。
足が速くなりたくて夜な夜な短距離ダッシュをしていた時期がある。
今も太ってるが、高校生の時もしっかり太っていた。
夜のジョギングなら、あの、おデブさんダイエットかしら!で済む、
でも夜にデブが全力ダッシュを繰り返しているのは、近隣住人を無暗に怯えさせてしまう自覚はあった。
あまり見たことないでしょう?住宅街をダッシュしてるデブを。
だから僕は近所の陸橋で走っていた。
その陸橋は高速道路をまたぐタイプのやつで、夜の人通りほぼゼロ。
夜でも走行量の多い高速道路で、とても明るくて騒がしいので怖くもない。
ここはデブが人目を気にせず短距離ダッシュをするのに最高の場所だった。
事件はある夜に起きた。
いつも通り陸橋に着くと、見慣れないワンボックスカーが1台、僕のダッシュのスタート地点にどっしりと停まっていた。
そんな所に車が停まってる事なんて初めて見たので少し緊張感が走る。
訝しみながら近づくと、車体がすごい勢いで揺れている。
マジか?地震かと思って足元を確認したが、揺れてるのは車だけだった。
数秒の間があって、脳内会議が開かれる。
結論が出た。
これはカーセックスだ。
映像でも見たことないし、噂でしか聞いたことが無い。
ただ根拠のない確信が脳内を駆け巡る。
絶対にめちゃくちゃカーセックスだ!!!!
普通ならそっと回れ右をするところだが、今夜だけは僕の中の何かがそれを許さなかった。
アメフトに懸命に打ち込む青年の目の前に突如現れたセックス。
経験したことのないセックスがほんの数メートル先で行われてる事実。
腹が立ってきた。
めちゃくちゃ羨ましい。
アメフトの上達を目指して汗を流している、幼気な青年の目の前でセックスをしていいわけがない!!
断じてない!
ここは俺の縄張りだ!
こんなことが10回あれば9回は家に帰ってただろう。
たまたま帰らない1回が今夜なんだ、そんな感じだった。
というわけで僕はカーセックスの真横で何食わぬ顔で全力ダッシュを始めた。
人類史上おそらく初めて、カーセックスと真正面から対峙した高校生だったと思う。
傾斜のキツイ陸橋の坂道。
一本、二本、三本。
坂を一心不乱に駆け上がり。
下りで歩きながら息を整える。
夜の空いた高速道路を心地よく走る車たち。
風を切る音が心地いい。
車は揺れ、僕は走る。
僕は走り、車は揺れる。
何本目かのダッシュを開始した瞬間に、スライドドアが「ガラッ」と開いた。
スライドドアを開ける音の力強さで明確に怒りが伝わってきた。
瞬間で肝が冷えるのが分かった。
セックスを妨害された大人の怒りのボルテージを想像した瞬間、一切振り返ることはなく僕はそのままダッシュで逃走した。
泣きそうになるぐらい悔しかったが、あいつらのムードをぶっ壊せた達成感はあった。
勝ちはしてないが、負けもしていない。
そんな夜だった。
余談だが、とある日に車で信号待ちをしていた時に
目の前の車がめちゃくちゃ揺れていたので、地震かと思ったら
車内で老夫婦が近距離で激しい殴り合いをしていて、車が揺れているのを見たことがあって
マジか!高山VSドン・フライじゃん。と思ったことがある。
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