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奥山の大梨

私がまだ幼かった頃のことだ。

秋の稲刈りが終わると、休日のたびに祖母や母に連れられて山へ入った。
お目当てはキノコや山クルミ、山クリだ。
また山を歩き回っていると、副産物として山ブドウや猿梨(サルナシ)、ヤマナシ、アケビなども手に入った。
ヤマナシ(山梨)とは、山に自生している梨のことだ。

けれど、山ブドウや猿梨はそう簡単にたくさん採れるものではない。
山ブドウの房がしっかりついた蔓は珍しく、猿梨にいたっては、一日中歩き回っても実をつけた樹に遭遇できるかどうか、奇跡に近いほどだった。その点、ヤマナシは毎年同じ場所へ行けば採れる。樹を探しまわる必要もなく、時期さえ逃さなければ、比較的容易に恵みをもたらしてくれる山の幸だった。

私には、今でもその姿が鮮明に瞼に浮かぶ、忘れられない一本のヤマナシの樹がある。

集落から遠く離れた山深くにある梨の樹。
祖母はその樹を「奥山の大梨」と呼んでいた。
とにかく見事な大木で、幹の周りは大人の胸の高さで2〜3メートルはあったと思う。

あれは小学校3、4年生の頃だったろうか。
弟と近所の同級生、その母親、そして私の4人で、その樹を目指して梨採りに出かけた。
1時間ほど山道を歩き、ようやくたどり着いて見上げると、期待通りたわわに梨の実が稔っていた。

奥山の大梨

歓声をあげて駆け寄ったものの、ふと幹の足元近く――地面から1メートルほどの高さにぽっかりと開いた洞(うろ)に目が留まった。そこを羽音を立てて蜂が行き来している。どうやら中にミツバチが巣を作っているようだった。

「せっかくここまで来たのに……」

最初は恨めしそうにミツバチの巣を眺めていた私たちだったが、やがて意を決した。刺激しないようそろりそろりと樹によじ登り、棒で枝を叩いて果実を地面に落としては、夢中で拾い集めたのだった。

ヤマナシの実の大きさは、せいぜい大きめのピンポン玉くらい。熟す前の果実はとにかく固い。だがその固さゆえに長持ちし、長い間楽しむことができた。
家に持ち帰ると、土間に敷いたムシロの上に広げておくのが我が家の恒例だった。

中学生の頃までは、毎年一度は必ず「奥山の大梨」を目指して山に入った。けれど、鈴なりに採れる年もあれば、ひとつも実がつかない年もある。やがて足は遠のき、自然と梨を採りに山へ入ることもなくなった。

あの大梨があった奥山は、今ではすっかりカラマツ林になっているという。
それでも秋の風が吹くたび、私は今でも、あの「奥山の大梨」の姿を思い出している。

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