仮のパスポートと、見知らぬ国のやさしさ
ついに
帰国する日がやってきた。
お世話になったゲストハウスのオーナーには、前日のうちにきちんとお礼を伝えておいた。
当日の朝は静かに、そっと部屋を後にする。まだ夜明け前の薄暗い道。Uberで予約しておいたタクシーは、少し早めに来てくれていた。
運転手はとても感じのいい若者で、乗り込むとすぐに「日本人ですか?」と尋ねてきた。
「はい」と答えると、彼は「日本に行ってみたい。アニメを見ながら日本語を覚えようとしてるんだけど、全然わからないんです」と笑った。
ほんの15分ほどのドライブだったけれど、楽しく会話ができて、緊張していた気持ちが少し和らいだ。
空港に着いて、ターミナル1の中へ。
でも──「やばい、全然わからない。」
フロアマップが見当たらず、チェックインカウンターもどこにあるのか分からない。
何人かのスタッフに聞きながら、ようやくエティハド航空のカウンターにたどり着いた。
混雑はしていたものの、私の乗る便は比較的空いていてホッとする。
前日に、オンラインチェックインとパスポート画像の登録も済ませていたが、心の中には不安があった。
「普通のパスポートじゃない。ただの紙の渡航書で、本当に日本に帰れるんだろうか?」

だけど、その不安はすぐにほぐれていった。
カウンターの係の人はとても親切で、「パスポートを紛失されたのですね」と静かに確認してくれた。
何やらデータを入力しながら、「乗り継ぎの際にスムーズに進めるよう、レターを用意しますから少しお待ちくださいね」と伝えてくれる。
そのあと現れた女性マネージャーが、息を呑むほど美しくてカッコよくて、つい見惚れてしまった。
彼女も何かを丁寧に処理してくれ、元の担当者が紙の搭乗券にゲート番号や進むルートまで書き込んで手渡してくれた。
ここまで親切にしてもらえたのは、初めての経験だった。
チェックインには時間がかかったものの、何の問題もなく完了。
次は出国ゲート。
「オブリガード(ありがとう)」とだけ言われて通過。紛失届の提示を求められることもなかった。
搭乗の際も特別な確認などはなく、あっさり通れた。
アブダビでの乗り換えも同様。
他の乗客と同じようにゲートを通過できた。
最後の関門、日本の入国。
ここではデジタル処理ができないため、案内の人に従って事務所へ。
窓口の職員が、渡航書にポンとスタンプを押してくれた。
それで、すべてが完了。
⸻
「紙のパスポートなんて頼りない」と思っていたけれど、
本当に頼れるのは、人の優しさだったのかもしれない。
言葉が通じなくても、システムが違っても、
世界にはこんなにも親切な人たちがいる。
そんなふうに思えた帰国の日。
無事に日本の地を踏んだ私は、心の中で静かにこうつぶやいた。
「ありがとう。」
