【短編小説】笑う神様 ♯シロクマ文芸部
【夜店から】第二弾。
一部ブロマンス的表現ありますが意図はないです。
神様に性別はない、を前提に書いています。一応。
***
夜店から甘い香りがする。シンプルな作りのクレープだ。
二種類のクレープを両手に抱え、腕にビニール袋を引っ掛けたグレーの浴衣を着た青年がこちらへと戻ってくる。
「ご注文の品ですよっと。あっちで食いましょう」
自身のクレープを一口かじりながら、こちらのクレープを手渡して、人々が行き交う屋台街から少し離れた場所に誘導してくれる。
祭り囃子が小さくなって、遠くの夜空に火花が咲いているのを眺めている間に、青年はビニールシートに折畳みの座布団を敷いて場所を整えていた。
「どうぞ。座って下さい」
「ありがとう、コマくん」
礼を言って座布団に座りクレープをかじると、柔らかな生地の食感と控えめな甘さのホイップに顔がほころんだ。
隣に座布団無しであぐらをかいて座った青年は、あぐりと大きく口を開けてクレープをあっという間に平らげていく。
相変わらず食べるのが早いなぁと思いながら、自分のクレープを少しずつ味わう。
すでにクレープを食べ終えた青年は、次にビニール袋から焼きそばを取り出して食べている。
夕飯はお互いに食べ終えているから、自分は甘味だけで十分だけれど、この青年は見た目通りによく食べた。
「美味しいかい?」
「まあまあっすね。例年通りかと」
するすると量の減っていく焼きそばは、言っているうちに無くなった。
次にビニール袋から出てきたのはたこ焼きだ。買った時より時間が経っているけれど、まだ温かそうだ。
「食べます?」
「一個だけもらおうかな」
爪楊枝で器用に口元に持ってきてくれたので、そのまま大きめのそれにかぶりつく。
一口ではタコを含めた半分くらいしか食べられなくて、形の崩れたたこ焼きが爪楊枝から抜け落ちて、慌てて添えられた青年の手に落ちた。
「わ、ごめん」
「そんなに熱くないんで大丈夫です」
ちゃんと自分で持てばよかったと思ったら、青年が手のたこ焼きをはくりと食べた。
びっくりして顔を見つめれば、青年は「あ、食べたかったですか?」と首を傾げる。
「ひとの食べかけを口にするからびっくりしたんだよ」
「別に、あんたのだったら問題ないでしょう」
「えぇ…?」
言いたい事は分かるけど、そうじゃない。
複雑に思っていると、青年は素知らぬ顔でお絞りで手を拭いて、たこ焼きの2つ目を口に放り込んだ。
一口で口の中に消えた後、少し熱かったのか、はふりと熱を逃がして上を向いた時、一際大輪の火花が夜空を彩り、遅れてドォンという大きな音がやってきた。
この花火が終われば、今年の祭りもおしまいだ。
見渡せば、家族や友人と花火を見る人々は笑顔で、こちらも嬉しくなる。
数十年前と比べたら、祭りに参加する人は減っているのだけど、変わらず人々は祭りを楽しんでくれている。
最初の祭りはどんなのだったかなぁ、などと思い返したけれど、その頃はこうもはっきりした自我は無かったかもしれない。
人のやっていることは面白くて、人の真似をしてみたら楽しくて、そうしたら『優しい神様』などと呼ばれ始めて。
眷属が増えて、ひとりぼっちの人間を見つけたら、放っておけなくて招いてみたりして。
そうしたら、ちょっと警戒されるようにはなってしまったけれど。
今だって眷属を連れて祭りに参加できているのだから、この地の人は優しいなと思う。
隣でたこ焼きを食べ終えて、近くに設置されたゴミ箱にビニール袋にまとめたゴミを捨てている青年を見る。
コマくんはうちの狛犬の片割れだ。もう片割れは家の守りを任せているので、お土産を買って帰らないと。
次は射的でも行ってみようかなぁと考えながら、立ち上がって軽くのびをする。
戻ってきた青年が座布団とビニールシートを片付けるのを待って、射的の屋台へ足を向けた。
夜空の花火はもうすぐ終わるし、屋台が店仕舞いする前にお土産を手に入れないと。
「あの子が好きそうなもの、あるかなぁ?」
「あんたが持ってきてくれるんなら、何でも喜ぶんじゃないですか?」
「君とお揃いにできるものがいいね」
「やめてくださいよ、あんたの護衛が俺に決まったのも拗ねてたのに。どうせならあんたとお揃いにしてやってください」
「君らよく似てるから、同じの持たせたくなるんだよね」
「…まあ、あんたがそう言うなら」
どうせなら三人でお揃いもいいかもね、と言いながら足取り軽く屋台街を歩く。
人に紛れた神様は、こうして祭りを楽しんでいる。
***
人外は食べちゃいけないものとか特にないと思っていただければ。
前回の神様と同一ですが容姿は違うかもしれません。
共通は紅い瞳。
主従だけど、現代、人に聞かれる会話で主なんて呼べないし、名前なんて呼べないから「あんた」呼びのコマ君です。片割れからは不評。
