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短編小説|ケンカを売る花屋

 レシートに「ナンカモンクアンノカ」と印字されている。
 僕はその花を持って花屋を出た。
「花言葉は、何か文句あんのか、です。大別するとバラですね。バラ目ナンカモンクアンノ科」と店員のお姉さんは言っていた。
 交差点で振り返ると「ケンカを売る花屋」とメルヘンな字体で書かれたブルーの看板が見える。
 僕は通学途中に見えたその店名に惹かれて、花を買ったのである。
「ケンカ相手へのプレゼントにぴったり」というお姉さんは言っていた。
 いま僕が求めていたのは、献花けんかではなく喧嘩だった。

 デブキンが殺されたのである。
 生物部の妹が中学校の理科室で大事に飼っていた太った金魚だ。
 僕の同級生の黒田が不良仲間とじゃれていたとき、水槽のエアポンプの電源が抜けたらしい。
「でも、わざとじゃないって」と妹は言った。
「奴ら、謝った?」と僕は尋ねた。
「電源止まってるの、気づけなかった私が悪い。学校の裏手に埋めてくる」
 妹は泣いていた。
 僕は絶対に黒田たちに謝らせると決めた。

 体育館裏に黒田たちを呼び出した。
「うわ、こいつ花束持ってんじゃん」と黒田の取り巻きの長髪が言う。
「黒田くん、告白されるぜこれ」ともう一人の茶髪が言う。
 僕は無視して、デブキンの話題を切り出した。
「ありゃ事故だよ、馬鹿」と黒田は言った。
「お前の妹、鼻水垂らしてたな」と長髪が言った。
 黒田と茶髪が笑った。
 僕は花束を黒田の胸に投げつける。
「何か文句あんのか」と花言葉を吐き捨てて、僕は長髪に飛びかかった。

 ボコボコにされた。僕はケンカが超弱い。手も足も出なかった。
 でも、謝らせた。
「なんか、すまん」と黒田は言っていた。あまりに僕が弱かったからだ。
 足を引きずりながら、僕は学校の裏手へ向かう。
 唇が切れていて、血の味がする。
 校庭の錆びたフェンスを越える。怪我に響く。
 空き地の隅にしゃがんで手を合わせる妹の背中が見えた。
 僕も隣りにしゃがみこむ。
「うわ、その顔どうしたの」と妹は僕に気づく。
 僕は照れ隠しに花言葉を口にして、デブキンに献花けんかした。



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小牧幸助|小説・エッセイ 牛乳を買って金曜よるに一杯やります。