マルタの鯖(4)

左側のは、しっぽをピンとたて胸を張って軍隊の行進をするみたいに足を交互に上げて、あれじゃまるでライオンキングのシンバウォーク。
右側のは半歩遅れて、うらぶれたオヤジみたいなすごい猫背。
シンバウォークが私の前でとまった。
「ヘイ、お嬢ちゃん、こんなトコで何してる」
ちょっと薄いグレーの毛並み。あいてるのか閉じてるのかわかんない細い目で私をみながら言った。
ゾディァックじゃないことは一目瞭然。でも、ヘタに喋って絡まれると恐いからだまっていた。
すると隣にいた薄汚いトラ柄のメタボぎみのが、シンバウォークのほうを向いて
「あにき、この辺じゃ見かけない嬢ちゃんだ。毛並みもいいし、多分、どっかの金持ちの飼い猫じゃねぇでしょうかね」
「お嬢ちゃん、どっから来た?」
シンバウォークがまた聞いた。
私はうつむいたままだまっていたら、メタボが言った。
「嬢ちゃんよ、口がねぇのか?」
こいつらチンピラかな。
何か言わないと、そのうち『てめぇ、ぶっ殺すぞ』なんて言い出すんじゃないかと、恐くなったから、背筋をしゃんとして、シンバウォークの目をにらみつけながら、こういってやった。
「ご心配して頂き、誠に感謝の極みでございます。でも、ご心配にはおよびませんですわ。わたくし、これから、ご自宅にご帰還遊ばしましてでございます」
パパが言ってた。『敬語の使い方を知らないバカ共には、腹を立てて同じように返したら相手の思うつぼだ。そういうときは最高の敬語で答えなさい』
だから私、最高の敬語で答えたの。メタボもシンバウォークも耳をへの字にたおして、首を傾げて私をみている。
「あのね、お嬢ちゃん、お兄さん達は変なヤツじゃないから、どうしたかいってごらん」
急にシンバウォークのしゃべり方と声のトーンが、頭の弱いちっちゃな子に語りかけるような優しい口調になったんだけど、自分のことを自分で「変なヤツじゃない」って言う変なヤツなんかいないでしょ。
『知らない人に声をかけられても、無視しなさい』
パパの言葉が聞こえてきた。
そう、無視するのが一番賢い。
「私はどうもしませんわ。失礼します。先を急ぎますので」
といって、彼らが来た方向へ30歩ほど進んだら、また後ろから呼び止められた。
「ヘイ、待てよ、そっちに家があるのかい?」
メタボが声をかけた。
「まだ何かご用かしらん。そうですわ。あちらのきれいな灯りがいっぱいついてるあたりがワタクシのお屋敷ですことよ」
といって、前方を指さした。
だって、人気のない道は危険だから、沢山人がいる賑やかなところに逃げなさいってパパがいってたもの。
私が指をさした方は、沢山人が歩いていて、色んな音が聞こえてきて、建物は赤や黄色や青の灯りですっごくきれいで、もうあたりは暗くなってるのに、あそこはまるで昼間みたいに見えたから。

続く
※マルタの鯖(1)~(3)は書庫のマガジンにあります。
