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ストーリーで学ぶ製造データ分析④ 三位一体KPIの初顔合わせ

はじめに — 今回の到達点

前回の第3回「最初の集計」では,全体歩留まり96.4%という1つの数字を品番別に割ると,不良率が1.5%〜25.8%まで約17倍に開くことを見ました.品質の解像度がぐっと上がったところです.

ただ,品質の数字だけをいくら磨いても,経営会議では必ずこう聞かれます.「で,それでいくら損してるの?」「設備は足りてるの,余ってるの?」.品質・稼働・原価.この3つを最初から一緒に見る構えが,本連載がくり返し立ち返る三位一体(さんみいったい)という考え方です.今回はその3軸のKPIを,初めて同じ画面に並べて顔合わせさせます.

本記事を読み終えた時点で,次のことが分かっている状態を目指します.

  • なぜ品質KPIだけでは経営判断に足りないのか

  • 稼働KPI(設備稼働率)と原価KPI(損失額)の定義のしかた

  • 損失額には3つの種類があり,聞き手によって使い分けること

  • 同じ不良を「数」で見るか「金額」で見るかで,手をつける順番が変わること

なぜ品質だけでは足りないのか

「不良率が高い品番から直す」.一見もっともらしいのですが,前回の最後で引っかかりが残りました.不良率が一番高かった食品グレードGP-C10は,実はほぼ目標どおりに作れている難物製品でした.率の高さがそのまま「直すべき優先度」にはならなかったわけです.

では何を物差しにすれば,手をつける順番を決められるのか.ここで効いてくるのが「お金」と「設備の時間」という,品質とは別の2本の軸です.不良はお金を溶かしますし,不良を作って手直しすれば設備の時間も食います.品質・稼働・原価は別々の話に見えて,現場では同じ1つの出来事の3つの顔なのです.まずは3軸それぞれの代表KPIを,1つずつ定義していきます.

軸その1 — 品質KPI(歩留まり)

これは前回作ったものをそのまま使います.おさらいすると,歩留まりは「良品本数 ÷ 検査本数」でした.

  • 全体歩留まり: 96.4%(不良率3.6%,年間3,723本の不良)

図1 月別の全体歩留り

1行=歯車軸1本,最終良否フラグが良品=1/不良=0なので,SUM([最終良否フラグ]) / COUNT([歯車軸ID]) という形で,どの軸で層別しても分母分子が正しく再計算されるのでした.品質軸の代表選手はこの歩留まり(裏返せば不良率)で決まりです.

軸その2 — 稼働KPI(設備稼働率)

2本目は設備の動きです.にゃんこ精密には機械加工から機能検査まで24台の設備があり,それぞれが「稼働中・段取り中・休憩・故障停止・計画停止・材料待ち」のどれかの状態で時間を過ごしています(設備稼働ログ.csv に記録されています).このうち実際にモノを作っている「稼働中」の時間の割合が稼働率です.

稼働率 = 稼働中だった時間 ÷ その設備の総時間

全24台をまとめて見ると,こうなります.

図2 設備稼働率
  • 全体稼働率: 71.5%

  • 止まっている28.5%の内訳: 計画停止14.9%,故障停止5.5%,休憩3.3%,材料待ち2.8%,段取り中1.9%

歩留まり96.4%という品質の優等生ぶりとは,だいぶ印象が違いますね.設備は約3割の時間,止まっています.もちろん計画停止(定期メンテなど)のように必要な停止もあるので,28.5%がまるごと無駄というわけではありません.大事なのは,この止まっている時間の中身を分解していくと「減らせる停止」が見えてくるという点です.その深掘りは稼働編(第11回)でガントチャートを使ってやります.今回は「稼働率という軸が存在し,品質とは全く違う景色を見せる」ことを掴んでもらえれば十分です.

軸その3 — 原価KPI(損失額)

3本目が,経営会議でいちばん効く「お金」の軸です.不良が出ると損をする.これを金額にします.ただし「損失額」と一口に言っても,実は3つの違う金額があり,ここを混ぜると話が通じなくなります.

にゃんこ精密の年間ではこうなりました.

  • 原価ロス: 約1億474万円/年

  • 粗利ロス: 約5,094万円/年

  • 売上機会ロス: 約1億5,569万円/年

同じ「3,724本の不良」を見ているのに,金額は5,000万円から1.5億円まで3倍違います.どれも嘘ではありません.見ている角度が違うだけです.そして3つには,はっきりした関係があります.

売上機会ロス = 原価ロス + 粗利ロス(単価 = 原価 + 粗利 だから)

この関係があるので,3つを棒グラフに積み上げてはいけません.売上機会ロスは原価ロスと粗利ロスの合計なので,3本足すと同じお金を二重に数えてしまいます.場面ごとにどれか1つを選ぶ,が原則です.本連載では,改善の優先順位づけに最も役立つ粗利ロスを経営向けの代表KPIに据えます.「その不良を減らせたら,利益がいくら戻るか」を直接表す数字だからです.

計算フィールドも素直です.歯車軸履歴.csv には単価・原価・粗利が品番ごとに乗っているので,不良行だけ拾って積むだけです.

図3 各種集計値とロス金額

3つを同じ画面に並べる — 三位一体スコアカード

軸が3本そろいました.これを別々のレポートでバラバラに眺めるのではなく,1つの画面に並べて同時に見る.これが三位一体ダッシュボードの出発点です.いちばん上に置く全社サマリのイメージがこちらになります\\

図4 三位一体スコアカード 現場のモニターに表示させておくとよい

並べてみると,それぞれの軸が違うことを語っているのが分かります.品質は「96.4%,優秀」と言い,稼働は「3割止まっている,余地あり」と言い,原価は「年5,000万円が利益として消えている」と言う.品質の1枚だけ見て安心していた経営会議に,残り2枚を並べた瞬間に空気が変わる——この対比が三位一体の効きどころです.3つの数字を見比べてはじめて,「まず何から手をつけるか」を,現場・経営・財務の誰とでも同じ土俵で話せるようになります.

ちなみに,このようなKPIダッシュボードを作成しておき,現場で表示させると毎日のエクセル集計作業がなくなります.tableauのフィルター機能を使えばお好みの期間で集計可能です(週間・月間・年間).

金額で見ると,手をつける順番が変わる

三位一体の威力を,もう一歩具体的に体感してみます.前回は不良を「数」と「率」で並べました.今回はそこに「金額(粗利ロス)」という軸を足して,並べ替えてみます.

図5 粗利ロス vs 不良数 金額と不良数は必ずしも一致しない

両方のランキングで1位は高圧・中型のGP-B10です.不良数1,437本(全体の約4割),粗利ロス2,084万円.数でも金額でも最大なので,最優先で深掘りすべき品番である,という前回の見立てがここでも揺るぎません.

面白いのは2位以下です.金額(粗利ロス)で見ると2位・3位は高圧・大型のGP-B20(1,286万円)と食品グレードのGP-C10(1,042万円).ところがこの2品番,不良数では下から2番目・最下位の少数派です.食品グレードGP-C10にいたっては,年間の不良がたった248本なのに,1本あたりの粗利が4.2万円と高いため,金額にすると一気に上位へ跳ね上がります.逆に,汎用・小型のGP-A05は不良数こそ924本と多いのに,粗利ロスでは最下位(148万円)です.

つまり——

  • 不良数(現場の処理負荷)で見ると,量を作る汎用品が上位に来る

  • 粗利ロス(経営インパクト)で見ると,少量でも高単価な品番が上位に来る

どちらが正しいということではなく,目的が違えば優先順位も変わるのです.手直しの工数を減らしたい現場リーダーは不良数を,利益を取り戻したい経営者は粗利ロスを見る.三位一体KPIをそろえておくと,この「立場による優先順位の違い」を喧嘩ではなくデータの上で調整できるようになります.

ここまでで分かったこと

  • 品質(歩留まり96.4%)・稼働(稼働率71.5%)・原価(粗利ロス年5,095万円)の3軸を,それぞれKPIとして定義した

  • 品質だけ見ると優秀でも,稼働は3割停止,原価は5,000万円超のロスと,軸ごとに違う景色が見える

  • 損失額には原価ロス・粗利ロス・売上機会ロスの3種があり,足し算は二重計上.場面で1つを選ぶ(本連載は粗利ロスを代表に)

  • 同じ不良も「数」と「金額」で優先順位が入れ替わる.GP-B10は両方1位だが,少量高単価のGP-C10は金額で急浮上する

この3軸スコアカードが,本連載で育てていく三位一体ダッシュボードの「いちばん上の1枚」になります.次回からは,この3軸それぞれを個別の可視化で深掘りしていきます.まずは最も件数の多い品質軸からです.

次回予告 — Paretoで不良の大物を掴む

次回 第5回「パレート図で不良の大物を掴む」 では,「どの品番か」で絞った今回の続きとして,今度は「どの不良か」をパレート図で絞り込みます.工場全体の不良は何で落ちていて(漏れなのか,騒音なのか,寸法なのか),その原因はどの工程のばらつきにあるのか.少数の不良モードが全体の大半を占めるという,改善の定石「重点指向」を,実データで体験していきます.

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にゃんこ精密ポンプ工業㈱

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