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いまの私にできること

ロックダウンが始まって、オフィスが閉鎖され自宅勤務が始まったのが去年の3月だから、ほぼ10ヶ月小さな半径で暮らしていることになる。
2009年にロンドンに来てからずっと自転車通勤を続けていた。雨の日も雪の日も、路面が凍らない限り基本的には自転車だ。けれど、自宅勤務になってからは、通勤する先がない。だから自然と自転車に乗る必要がなくなった。ロックダウン中は「一日一回の運動」しか許されていない。そんな貴重な「いち運動カウント」を自転車でスーッと済ませてしまうことがなんだかもったいなく思えて、運動量も増えるしと移動は徒歩、運動は散歩ということにした。ランニングという文字は、私の中には、ない。

うちから歩いて5分ほどのところにかつては貴族の屋敷だった敷地があり、いまでは公園として開放されている。これまでは数回しか訪れたことがなかったが、園内は広々として混雑もないので、そこで散歩することにした。
緑が多いといわれるロンドンだがそれには理由がある。歴史的なロンドン大火事、その教訓から、ロンドンにはある一定の距離で火除け地としての緑地を設けることが義務付けられているのだ。それだけでなく、この公園のようにかつての貴族の邸宅だった敷地が公園として残っている例も多い。
ローマ風のドーム屋根が特徴のお屋敷が敷地の真ん中にどーんと建ち、それを取り囲むように、手入れの行き届いた庭園や温室、さらに裏手には鬱蒼とした林も広がっていて野性味も味わえるのがこの公園のなによりの魅力だ。
庭園の池には石造りの橋がかかっていて、近隣史によると、何代目かの夫人が、近在の芸術家に依頼をし作らせたものだという。

日本よりもコロナウイルスの被害がひどいヨーロッパでは多くの国がその大都市にロックダウンを敷いた。ロンドンでも同様に、美術館も博物館も閉じ、コンサートや舞台はキャンセルされ、芸術的活動はオンラインと言う制限された環境へと移り住むことを余儀なくされた。
案の定、ロックダウンが始まって数週間経つといろいろなところから寄付のお願いがやってきた。ロイヤル・オペラ・ハウスからは「公演は当面すべてキャンセルになります。もしも応援してくださるのなら、チケットの返金を求めないことで、寄付をお願いします」というメール。散歩先のその公園もそこかしこに「結婚式も野外コンサートもキャンセルになりこのままではゴミの収集も草木の手入れも滞ることになります。どうか寄付をお願いします」というポスターが貼られた。

でも、個人の芸術家たちは?

私のまわりには、これまでコンサートやライブで活躍していた音楽家や、アートギャラリーでの展示を通して活躍していた芸術家の知り合いがいる。
楽団などに所属しているのでない限り、彼らはみな自営業者だ。自営業というと、レストランやカフェなどが浮かぶし、それも今回のロックダウンで大きく影響を受けた業種だろう。店舗なら開いていてくれさえいれば、買い物することでサポートすることができる。でも、芸術の世界へはいったいどうしたらいいのだろう。
私はYoutubeなどに詳しくないので、どこまで配信などで収入を得られるものなのかわからない。けれど、それまでオーケストラや舞台で活躍することで生計を立てていたひとたちがいきなりオンラインの世界で同じレベルの暮らしを保つことはできないだろうことは想像がつく。
なんだかサラリーマンとして自宅から仕事ができ、そのまま全額の収入が普通に守られていることが不平等なように思えてきた。オペラハウスや公園には寄付ができる。でも個人の芸術家には、何ができる?

そのとき、散歩でいつも鴨の親子を眺めるのを楽しみにしている橋のことが思い浮かんだ。
そうか、お仕事をお願いすればいいんだ。自宅にずっといるのをいい機会に、この夏には、大工さんに庭のデッキを新しくしてもらったし、水道工のおにいさんにずっと悩みの種だった水道管とタンクを整理してもらった。同じことだ。お仕事を頼もう。

ちょうど飼い猫の誕生日がやってくる。それを言い訳に、日本にいる家族や友達、ロンドンの友達、ウェールズの実家に戻っている仲良し、バルセロナの友達や、アメリカにいる家族や友達にも声を掛けて、お祝いごとをシェアしよう。みんなが楽しめて、そして後にも残るもの。
そう、池にかかる石橋みたいに。

ということで、ジャズ風の「ハッピーバースデイ」を作曲し演奏していただく依頼をした。大したお金はお支払いできないけれど、でも、助けたいと思う「気持ち」を送りたい。
なによりも。自分が芸術家さんにお仕事をお願いするなんて、なんだかとっても胸がときめく。世界に一つだけの音楽が、私と猫を待っている。それってなんだかカッコイイ。

いまの私にできること。
自分も笑顔。誰かも笑顔に。


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ころのすけ いただいたサポートは、ロンドンの保護猫活動に寄付させていただきます。 ときどき我が家の猫にマグロを食べさせます。