小説『天使さまと呼ばないで』 第5話
キョウコとのやりとりを終えてから、ミカの心には少し、罪悪感が湧いてきた。
(1時間1万円だなんて、高すぎやしなかっただろうか・・・)
(もし、何も良いアドバイスができなくて、ガッカリされたらどうしよう・・)
そう考えると、腹の底からじんわりと全身が凍てついていくような感覚がする。
ミカはスマホで『カウンセリング 値段 スピリチュアル』と検索してみた。
すると、様々な個人のブログやウェブサイトが表示された。詳しく見てみると1時間3万円だとか、90分4万円、1時間10万円という強者までいた。
ホッとした。
(これと比べたら私のなんて良心的な方だわ・・・それに、私のはハンカチの代金もセットだし)
次にミカは『刺繍 ハンカチ』と検索してみた。
すると、2〜3千円ぐらいのハンカチが表示される。
(ハンカチに3千円の価値があるとすると、私のカウンセリングなんて実質7千円ぐらいだし、むしろ安すぎるかも)
そう思うと、罪悪感はもう完全に消え失せてしまった。
「あ、ミカもう帰ってたんだ。ただいま」
コウタが帰ってきた。ミカは慌ててスマホの画面を消す。
「コウタ、おかえり。どこ行ってたの?」
「ん・・ちょっと近くで昼飯と買い物してた」
そう言いながらコウタはそそくさと自室へと戻っていった。
(そっけないなあ、もう・・)
ミカの心にはまた、寂しさだけが残った。
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水曜日、今日は手芸サークルの日だ。
来週の水曜日にはユカのカウンセリング、そして土曜日にはキョウコのカウンセリングをする予定だ。
今日はサークルの時間で、ユカとキョウコに渡すためのハンカチを刺繍することにした。
せめて今日はユカに渡す分のハンカチを完成させて、週末までにキョウコのぶんも完成させたい。
(どうか、ユカさんが、このハンカチを持つことで幸せになれますように・・)
無駄なことかもしれないが、そう祈りながら一針一針丁寧にステッチをかけてゆく。
エリに渡したハンカチは、天使と花をモチーフにしていたが、ユカには天使と星、そしてキョウコには天使とハートを刺繍して、変化をつけることにした。
エリが声をかけてきた。
「あ・・・それってもしかして、ユカさんとキョウコさんに渡す分ですかぁ?」
「そうそう、来週に会うことになったから大急ぎで作ってるの」
「素敵〜!きっとユカさんとキョウコさんも夢が叶いますねっ!来週のいつ会うんですかぁ?」
「水曜日にユカさん、土曜日にキョウコさんと会うよ。あ!だから来週はサークル休むんだ〜」
「そうなんですねぇ・・・残念ですぅ。実は、私来週がサークル最後の日でぇ」
「えっ!?」
「実は、再来週から新しい会社でのお仕事が始まることになってぇ」
「そうなんだ・・・寂しいね」
「でもでも、もうLIMEもFactbookも繋がってますから大丈夫ですよっ!何かあったらいつでも呼んでくださいねっ!」
「あはは、ありがとう」
「私はミカさんファン第一号ですからっ!」
「ちょっ・・エリちゃん、声大きいって!」
少し雑談しすぎてしまった。ミカはまた、刺繍に集中することにした。
サークルの時間中に完成させることはできなかったが、家に帰って昼食を食べてからまた続きをして、ユカに渡すハンカチは無事完成させることができた。
夜、夕食の準備をしていると、コウタが帰ってきた。
「ただいまー」
「おかえり、今日は早かったね」
「うん」
そのままコウタが自分の部屋に入っていく。
もう少し話してくれてもいいのに・・・と不満に思っていると、コウタが部屋から出てきた。
「ミカ・・これ・・」
白い紙袋を差し出された。紙袋は近くのショッピングモールにある宝飾店のものだった。
「ほら・・今日、初めて付き合った日だろ?
それに、最近忙しくてなかなか家に居れなかったから、そのお詫びも兼ねて」
「えぇぇ!?びっくり。コウタ、ありがとう!!!いつのまに用意してたの〜?」
「ほら、前にミカがサークルの人達と出かけてた時あっただろ?あのとき、実は買いに行ってたんだよ」
コウタが照れ臭そうに答える。コウタも、ミカに寂しい思いをさせてしまっていることには気がついていた。コウタなりにミカを喜ばせる方法を考えてくれていたのだ。
紙袋の中の白い箱を取り出すと、天使の羽根をモチーフにしたネックレスが入っていた。
付属の保証書を見ると、キュービックジルコニアとシルバーと書いてある。
(ダイヤモンドじゃないのか・・)
少しがっかりしてしまった。しかし、コウタなりにミカを喜ばせようとして選んだ物だということはわかっているので、極力顔には出さないようにした。ミカにだって、そのくらいの配慮をする分別はあるのだ。
「ありがとう。大切にするね!」
とびっきりの営業スマイルを見せ、ネックレスを箱にしまう。
コウタは嬉しそうにしている。
久々に、和気藹々とした雰囲気で夕食をとることができた。
洗い物を済ませた後、自室に戻って改めてネックレスの箱を開けた。
素材とデザインからして、価格は恐らく1万円もしないだろう。
ミカはネックレスを手に取り、改めてよく見る。
(もう30歳過ぎてるのに、天使のモチーフって・・・)
(せめてプラチナ・・・いや、ゴールドにダイヤモンドなら良かったのに)
(買ったのもショッピングモールかぁ・・。電車で少し行けばデパートだってあるのに)
コウタは女性経験がほとんどないから、女性が喜ぶお店やブランドに詳しくない。宝石の知識もさっぱりだ。
だから仕方がないことだと頭では理解しているが、ネックレスを見れば見るほど不満が募ってゆく。
ミカはスマホを取り出し、Tvitterで呟く。
夫からネックレスもらったんだけど、ジルコニア。しかも天使モチーフ。ダサすぎ。私もう32歳だよ?
一応お礼は言ったけど・・せめてバンクリかテファニーがよかった・・
思いの丈をぶちまけて、少しスッキリした。
しかし、猛烈に虚しさが残る。
ミカはネックレスの写真を撮った。知名度の無い宝飾店の名前が書かれた箱は隠して。
そして撮った写真に加工をかけて、少しでもお洒落な雰囲気にする。
その画像をFactbookにアップした。このような文をつけて。
夫からの突然のサプライズプレゼント!
私の大好きな天使のモチーフ♡
大切にするね♪ありがとう♡
#ちょっと若すぎるデザインかな?
#でも嬉しい
#最近天使を目にすることが多い
#愛されて幸せ
#これも天使のおかげ?
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第6話につづく
