見出し画像

小説『天使さまと呼ばないで』 第18話


ミカがたどり着いた『気ままに素直に徒然日記』というブログには、こんな文章が書かれていた。


巷?で話題の天使カウンセラーさんのカウンセリング受けてきましたー😁でも、期待してたほどでは無かったなー

最近婚活に興味が出て、そのことでなんか良いアドバイスもらえるかと期待してたんだけど、言われたのは「あなたは愛されますよ」。何じゃそりゃ!そんなん婚活の何に関係するねんwww
しかも具体的なアドバイスも何もなくて、「あなたの思ったように進めば良いですよ」って言われたんだけど、それじゃここに相談しにした意味ないでしょっていうw

あと「親御さんへの『愛されなかった』という思いを抱えてませんか」って言われたけど、月に一度は親と食事行くぐらい仲が良い私にはいまいちピンと来ず・・

なーんか、「こう言えば喜ぶでしょ?」って感じが透けて見えてたかなー😅
まぁでも、カウンセラーのミカさんは身なりも綺麗だったし、優しく喋る様子は確かに天使様って感じだったから、人気出るのも納得って感じ。
でもカウンセリング料の2万円はドブに捨てたかなぁ・・まあそもそもこんなスピ系頼った自分が悪いんだけどさ🤣
おまけのハンカチはそれなりのものだったから、それだけが救い😓でも2万円の価値があるかというと・・・うーん・・・。
ま、これからは自分のことはちゃーんと自分で決めようという勉強にはなったかな😅


ブログを全て読み終えた時には、ミカの頭はカァッと熱くなっていた。頭に血がのぼるとはこういうことか。

それまで、カウンセリングという場では賞賛や感謝しかもらったことのなかったミカは、いつのまにか批判に対して恐ろしく敏感に、傷つきやすくなっていた。

しかも、ただボロクソに書かれているだけなら相手を"完全な悪者"或いは"嫉妬してるブス"として無視できる。しかし、このブログには所々自分に対するフォローのような言葉が入っている。それがまた、見下されているように感じて癪に触った。

sunao1210という名前と、内容と日付から察するに、恐らく数ヶ月前にカウンセリングした、ナオという人物がこのブログの主だろう。


ミカはこのブログをどこかに晒しあげるか、もしくはコメント欄に罵詈雑言を書きたくなった。しかし、もし自分がそんなことをしたとバレてしまったら困る。それに"天使さま"に相応しくない行動だ。


ミカはFactbookにブログのリンクと共に、こう書くことにした。

以前、誠心誠意を尽くしてカウンセリングをした方に、このように書かれてとても傷つきました・・。
天使さまの声を届けることで、一人でもたくさんの方をお救いしたかったのですが・・・うまくいかないものですね・・・😔自分の不甲斐なさを感じます。


こうしてさも自分が被害者のように表現することは、ミカがさまざまな対人関係を築くうちに身につけたスキルである。

『こんなムカつく人がいたんですけど!』と、相手を責め立てるような文章にすると、大抵"いい子ちゃんに見られたい人"が、『でもそれは言い過ぎじゃない?』だとか、『あの子も悪気がなかったんだよ』と、相手をフォローしだす。するとその場にいる日和見主義な人間たちは、自分たちも安全な場所にいようとその"いい子ちゃん"の方に賛同してしまうのだ。そうすると流れは圧倒的に不利になっていく。

ここでは、自分は徹底的に被害者でいるのだ。そうすれば、義憤に駆り立てられた人間たちが勝手に相手を成敗してくれる。"天使さま"である自分は何も手を下さなくて良い。


しかしこれだけではまだ足りない。もっと自分が弱い人間であることをアピールしなければ。

ミカはこう続けた。

どれだけお相手のためになろうと声を伝えても、信じてもらえない限りは、"相談した意味がない"と言われてしまうんですね・・・
虚しいです。ちょっと今は何もしたくない気分です・・・。


そうして文章をアップした。

(さぁ、今に見てなさい)

(私を批判するということが、どれだけ恐ろしいことかをわからせてあげる)

(私のカウンセリングが、どれだけたくさんの人を救っていて、どれだけたくさんの人に私が愛されてるかを、思い知るといいわ!)



------------------


ミカの信者たちは、ミカの予想通りにことを進めてくれた。

『気ままに素直に徒然日記』のコメント欄に、いくつもの批判コメントがついたのだ。

ミカさんはあなたのためを思って言ってくれたんですよ!

あなたみたいにひねくれてると、ミカさんの愛のあるアドバイスすらこんなふうに悪く捉えてしまうんですね・・・

私はミカさんのおかげで幸せになれましたよ!ミカさんを傷つけることを言うのはやめてください!


また、Factbookのミカの文章にもコメントがついた。

ミカさん😭こんな悪魔側の人の言うこと、気にすることないですよ〜💦

私はミカさんのおかげで救われました💖ミカさんは素晴らしい方です🎶私にとって、ミカさんは本当の天使さまです✨

きっと美人で優しいミカさんに嫉妬してるんですね😤この人絶対ブスですよ笑

ミカはうっとりとした心待ちになった。

(私ってやっぱり、みんなから慕われて愛されてるのね)

信者の声のおかげで、批判されたショックはだいぶ和らいだが、ここですぐ立ち直っては面白くない。

(いかに私が必要な存在かを、もっと思い知らせなくちゃ・・)

この時ミカは、一体誰に対して"思い知らせよう"としたのだろう?

ナオか、あるいは信者か、あるいはミカ自身か・・・

それはもはやミカにもわからなくなっていたが、とにかくミカはFactbookにこう投稿した。


ちょっと、あまりにショックが大きいので、今予約を受けている分以上のカウンセリングは、しばらくお受けできなくなるかもしれません・・・。自分にカウンセリングをする価値があるのか、改めて考えてみようと思います。


これはある種の賭けだ。ただでさえ予約が見込みより少なくてリボ払いでヒィヒィ言ってる状況で、こんなことを書いたら自分の首を絞める可能性がある。

しかし、ここで自分のカウンセリングを"いつできるかわからない""希少価値がある"と捉えてもらえば、爆発的に予約が増える可能性もあった。


騒ぎに気付いたsunao1210(恐らくナオ)は、翌日ブログの該当記事を消した。ミカのファンが過去の記事まで掘り出して重箱の隅をつつくように批判コメントを書き始めていたから、きっとこれ以上ミカのファンに粘着されてはめんどくさいと思ったのだろう。


(勝ったわね・・)ミカはニヤリと笑った。


ミカは余裕を持ってFactbookを更新した。


皆様、温かいお言葉ありがとうございます✨☺️皆様のおかげで心の中の天使さまも元気を取り戻したように思います💖
カウンセリングですが、ちょっとまだ悩んでいます・・。ここまで書かれて、嫌われてまで、このカウンセリングをやる意味はあるのか?と自問自答しています。


ほどなくして、信者たちからコメントがくる


ミカ様!お願いです、カウンセリングやめないでください😭

初めてコメントいたします。ミカさんのことを少し前に知り、ずっとカウンセリングを申し込もうか悩んでおりました。そんななか、このことを知り大変ショックを受けています。もしミカさんのカウンセリングが再開されるのなら、是非申し込みたく思っています。いつでも待っていますので、元気になられたらまた再開してください。

ミカさん〜〜💕💕💕ミカさんを大好きな人たちはここにたくさんいます!やめないでー😭😭😭



ミカはほくそ笑んだ。

そうして新しい文章を書き始めた。

皆様、温かい励ましの声本当にありがとうございました。Factbookだけではなく、ブログやメールでもたくさんの方から「カウンセリングを再開して欲しい」という声をいただきました。

(本当はメールなんて来てないけど、こう書いておけば、私がみんなから応援されていて一層人気があるように見えそうだからこう書いておきましょ)

スナック菓子をボリボリと食べながら、ミカは続きを書く

天使の声を聞く力のある者として、きちんとその声をお伝えすることは私の天命なのだと、改めて思いました。
しかし、精神的なダメージもあると、うまく声が聞こえないこともまた事実であり・・ご存知の方も多いと思いますが、天使さまの声を聞くためには、まず私の心を整えることが大切なのです・・悩ましい限りです。

(『ご存知の方も多いと思いますが』、これはいい文言ね。こう書けば、『そんなの初耳だ』と思ったとしても、知らないほうが素人で恥ずかしいと思ってしまうから、文句もつけづらいでしょ)

そこで、今後はカウンセリングをされる方には、以下の点にご協力お願いいたします。
〇冷やかしや、天使さまのことを信じられない方のカウンセリングはお受けいたしません。
〇もし、いわれなき誹謗中傷をされる方には、法的措置を取らさせて頂きます。

(うんうん、これでいいでしょ。法的措置って何するか本当はよく知らないけど)

ミカは指についたスナック菓子の粉を舐めた。

(あ、でもちょっと脅迫っぽく見えるかしら?かわりに最後は綺麗な言葉で飾っとくか・・)

これからも、皆様にたくさん天使の声をお伝えしていきたいと思っております✨このことを含めたすべての出来事と気付きに感謝しています💖
愛を込めて ミカ👼

(よし、これで完成!)

さらにミカは、新しいお茶会の宣伝も併せてすることにした。


こうして文章は完成したものの、思慮深いミカはあえて、すぐにFactbookにアップすることはしなかった。

すぐ更新してしまうと、『辞めようか悩んだ』という言葉が狂言っぽく感じられて、自分の"希少価値"が上がらない。

ここはグッと我慢して、明後日まで待とう。



そして計算通り翌々日に、ミカは下書き状態だった文章をアップした。


その後の反応を見るに、どうやらミカは賭けに勝ったらしい。

"いつまたカウンセリングをやめるかわからない"と焦った、それまでカウンセリングを受けるか迷っていたであろう見込み客のカウンセリング申込や、"傷ついたミカさんを支えたい"と思ったであろう信者のお茶会の予約がどっと増えたのだ。


------------------



"72時間の引退騒動"から1週間経った木曜日の夜遅くに、びっちりと埋まったスケジュール帳を眺めて、ミカは満足そうに笑みを浮かべていた。

(これでリボ払いもなんとかなりそうね)

その時、コウタがミカの部屋のノックをした。

「ミカ、ちょっと明日会社の人に借りた本を返すのに紙袋借りたいんだけど、何かいいやつあるかな?」

「ああ、クローゼットの右端にあるから適当に取って行っていいわよ」

「オッケー、ありがとう」

コウタはクローゼットに向かい、適当に"CHAMEL"と書かれた白い紙袋を取った。

自分の部屋に戻り、本を入れようと中を開けると、底にレシートが入ったままだった。

取り出して何気なく見てみると、そこには信じられない数字が書いてあった。



(・・・80万円!?)


-----------------
第19話につづく



いいなと思ったら応援しよう!