小説『天使さまと呼ばないで』 第20話
(あぁ〜〜〜何書こう〜〜〜〜)
ミカは悩んでいた。ブログやFactbookに書くネタがないのである。
ミカにとって今やブログとFactbookは重要な集客ツールとなっていた。特に最近はブログからの問い合わせが増えてきたので、力を入れたいところだ。
できれば毎日更新と行きたいところだが、そこまで書くネタはないので、3日に1本ペースで更新するようにしている。
いつもブログに書いているのは、過去のクライアントの声や、天使のアドバイス(という名の当たり障りのない自己啓発)、そして自分がいかに天使のおかげで豊かかを示すための"物的証拠"・・すなわち高級ブランド品の自慢だ。
しかし、コウタにカードを取り上げられた今、この最後の"物的証拠"を手に入れる術は無くなった。
ここ最近は二週間に一度はブランド品を見せびらかしていたのだが、しばらくはそんな更新はできそうもない。
それどころか、4ヶ月以内にコウタへの借金の120万円をまずは返さなくてはならない上に、クレジットカードも使えないので、お茶会の時のお茶代すらギリギリの状況だ。
(いつもはお茶会の時は8千円のアフタヌーンティーセットを注文していたけれど・・・今度のお茶会はそんなこともできそうにないわね・・・)
それまで楽しみで仕方のなかったお茶会が、急に憂鬱なものに感じられる。
(・・・とにかく今は、ブログのネタを考えなくちゃ)
ミカは腹を括った。・・・というより、実際には、この状況をなんとかプラスに捉えようと自分に言い聞かせたのだ。
(よく考えれば、これまでは"物的な豊かさ"にばかり頼りすぎてたかもしれない・・)
(でもそれって、本当に人を幸せにするものだったかしら・・・)
(よし、これからはもっと、精神的な豊かさについて説いていきましょう)
そこでミカは、こんなブログを書いた。
『すぐそばにある幸せ、大切にしていますか?』
天使の声を伝えさせていただくと、よくいただく質問があります。
「お金持ちになれますか?」「どうやったらお金が手に入りますか?」といった"お金"にまつわる質問です!
こうした質問は、この世の幸せがすべて物的なものにあるとあなたが無意識に思っていることの現れです。
この世界には、どれだけお金があっても、孤独や病気で不幸な人がたくさんいらっしゃいます。あなたはお金を手に入れたとして、果たしてそんな人生を歩みたいでしょうか?
もちろん、物的な豊かさも人生の楽しみのひとつではありますが、それだけを幸せと思い込むことこそが不幸の始まりです。
幸福はあなたのすぐそばにあります。毎日ご飯を食べられること、綺麗な水を飲めること、ガスや電気が使えること・・・✨
そしてなによりもあなたが生きていることです!
天使さまは、そんな見えない豊かさも大事にする人のことを応援してくれますよ💖
すぐそばにある幸せを大切にしてください。
目の前にいる人を、大事にしてください。
あなたはもうすでに、豊かなのです。
全ての気づきに感謝を👼ミカ
ミカはブログの文章を読み返し、自分は何と良いことを言っているのかと思った。そして、無料で読めるブログにこうした"良いこと"を書いてあげる自分は何と慈悲深く、善良なのだろうとも思った。
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今日は久々のお茶会の日だ。開催場所はいつもと同じ、ホテルのラウンジだ。
今日の参加者は、エリやカヨコといったお馴染みのメンバーが5名と、過去にカウンセリングをして面識のある人が3名、2名が新規の参加者だった。
妊娠と流産でしばらく来れていなかったユウコも今日は参加していた。
新規の参加者の一人は、アンジュという名前の20代前半の女性だった。毛先をカールしてハーフアップにしてある髪型と、シフォン素材の薄いピンクのブラウスに花柄のスカートで、女子アナのような服装だ。大きなタレ目が印象的な、可愛らしい女性だった。
アンジュはミカと対面するなり手を握って甲高い声で叫んだ。
「きゃーー!!ミカさん!!!!生ミカさんだぁ!!!」
どうやら以前からブログを読んでくれていて、今日はこのお茶会のために新幹線に乗って来てくれたらしい。
「ミカさんって実物の方がずっと綺麗ですね!!!本当に天使さまみたい!」
アンジュがそのテンションのまま、ミカのすぐ隣に座ろうとするのを、エリが止めた。
「アンジュさん〜初対面なのにそんなにグイグイ来ると、ミカさんもびっくりしちゃいますよぉー?」
「あっ・・ごめんなさい」
「アンジュさん、こちらにどうぞ!」エリはアンジュが座ろうとした席に自分が座り、アンジュを自分の隣の席に座らせた。
みんなが席につき、まずは飲み物や食べものを注文する。
コウタへの借金を返すために贅沢のできないミカは、いつも頼んでいる8千円のアフタヌーンティーセットではなく、2千円のケーキセットを注文した。
それを見て、エリが尋ねた。
「あれ?ミカさん今日はアフタヌーンティーセットじゃないんですかぁ?」
ぎくりとした。何と答えればいいだろう・・
『お金がないから』と答えると、『天使さまの声を聞けば豊かになれる』というミカの理論が嘘になりそうだし、かといって『ダイエット中なの』と答えると、『天使さまの声を聞いても痩せることはできない』と思われてしまいそうだ。
(もう、コウタにカードを取り上げられたせいで・・・)
心の中でコウタに悪態をつきつつ、ミカはこう答えることにした。
「ええ。ここのアフタヌーンティーセットは大好きだけれど、いつもみんな、私が注文する物と同じものを注文してくれるでしょう?でも、本当はお金がないのに無理してた人もいるんじゃないかと思って。私が高価なものを選ぶことで、みなさんにまで負担をかけさせたくないんです」
おぉ・・と感嘆の声がもれる。
「ミカさん・・・私たちのこと、そこまで考えてくれてたなんて・・・!」
「大好きなアフタヌーンティーを我慢してくださるなんて、なんて深い愛なんでしょう・・・!」
「いつも私たちのこと、こんなに想ってくださってありがとうございます!」
(よかった。誤魔化せて)ミカはホッとした。
オーダーが終わって、次は参加者の自己紹介が始まった。最初はエリの番だ。
「ミカさんのファン第1号のエリです〜!ミカさんのおかげで、就職が決まったアラサーです♪ミカさんが天使カウンセラーになるきっかけになったのは、実は自分でーす!ね?ミカさん!」
ミカは微笑みながら頷いた。
みんなが「すごい!」「へぇー」と感嘆の声をあげる。
次はアンジュの番だ。
「アンジュです!ミカさんのことはブログで知ってファンになりました〜!実は私の名前は、フランス語で"天使"って意味なんですよー♪うふふ、だから運命感じちゃいました!今日はよろしくお願いしまーす!」
「へーっ!かわいい!」
「素敵な名前だね〜」
「アンジュさんにぴったり!」
と、みんながアンジュの名前を褒め、和やかな空気になった。
しかし、そこにエリが手を挙げながら口を挟んできた。
「わたしもわたしも!実は、"名前"で思い出したんですけどぉ、天使のなかで一番すごい天使の名前って、みなさん知ってますぅ?」
「えー、何?」
「知らなーい」
エリは人差し指を立てながら自信満々に言った。
「ミカエル様って言うんですよ!すごくないですか!?ミカさんの名前が入ってるんですよ!!!」
「すごーい!」
「やっぱりミカさんは天使さまなのね!」
エリはニヤニヤ笑いながらこう続けた。
「しかもぉ、私の名前ってエリじゃないですかぁ〜ミカさんと私の名前をくっつけたら"ミカエリ"で、まるでミカエル様みたいでしょー!」
なんというこじつけだろう。そもそもミカエルというのは英語読みではマイケルとなるし、フランス語読みではミシェルとなるので、"ミカ"だろうが"エリ"だろうが全く関係はないのだが、エリにはそこまで理解するほどの知性はなかった。
エリのこじつけ話を、その場にいた人々は皆微妙に感じたが、それでもエリのテンションに合わせて「本当だねぇ」「運命感じちゃうよね」「すごいねー」と褒めてくれたのだった。
ミカは、エリがアンジュに対抗しているのを感じ取っていた。
(こういう女子の独占欲って、めんどくさいのよねぇ・・)
しかしかといって、上顧客であるエリのことを指摘する気にはなれない。
そこでミカは、今日の話のテーマを『目の前の人に優しくすること』にした。
これなら最近のブログに書いている"精神的豊かさ"にぴったりのテーマだし、エリにもそれとなく自省を促せるかもしれない。
「みなさん。目の前にいる人を大切にできてますか?いくら綺麗事で飾っても、目の前の人を大切にできないと意味がありません。直径10メートルの幸せを大切にしてください」
これもどこかの自己啓発本で昔聞き齧った知識だ。
エリは言った。
「わたしも、ミカさんのブログを読んで、まずは身近なところからって思うようになりました!今日も、電車に座ってたら目の前にお爺さんが立ってたんで、席を譲ったんですよ!」
目の前にいる見知らぬ人には電車で席が譲れるのに、どうして新参のアンジュにはお茶会の席が譲れないのだろう。
(ほんっと口先だけよね・・・)そう思いながら、ミカはエリに軽蔑の眼差しを向けた。
しかしミカ自身も、一番身近な存在であるコウタのことをないがしろにしていることには、気がついていないのだった。
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第21話につづく
